今日は、中秋の名月。
月が一番、綺麗に見える日。

この日は決まって、田舎町の故郷に帰り、月見をする。
それが、彼女との約束だから。

こんばんは。
お隣、座ってもいいですか？


まあ、返事なくても勝手に座るけどね。
よっこいしょっと。

それにしても、君とこうして月見をするの、もう何回目だろうね？
君なんて、この町を出て都会に行ったのに、わざわざ十五夜の日には、こっちに戻ってこなくてもいいのに。


そうだね、約束したっけね。
私と、毎年こうして、お月見しようって。

……ありがとうね。


ところで、そのお団子。お母さんが作ってくれたの？


君と私で分けるようにって？
どうせ、君だけで食べるんでしょ。


そんなこと言って、本当に残してくれるの？
まあ、私は食べないからいいけど。

それに、君。団子だけじゃない。何か持ってるね？
何、それ。


そっか。
お酒、飲める歳になったんだ。
ということは、あれだ。月見酒ってやつだ。

私はお酒飲めないから分からないけれど。
どう？　初めての月見酒の感想は。


なに、その感想。単純すぎて面白くない。
でも、確かに風情はあるってのは、分かるかも。
昔の人が、月を肴に、お酒を飲むって言うのも、何となくわかる。

だって、こんなにもきれいなんだもん。
桜と一緒でさ、楽しみたいよね。


そういえば、正月以来だよね。
君、夏には戻ってこなかったし。
元気してた？


あー、夏はバイトばっかりで忙しかったんだ。
それで、こっちに来れなかったんだね。


他の人はお盆休みに休んじゃったから、君が代わりに引き受けたって……。
お人好しなの、相変わらずだね。
たまには、ちゃんと断らないとダメだからね。


笑っているけど、ほんと大丈夫？
私、心配だよ。
そのまま、君の優しさにつけ込む人が現れて、君を利用して。
社畜として馬車馬のように働かされたりとか、しない？
不安だなぁ……。


君さ。
もし、大学を卒業したら、どうするつもりなの？
そのまま、あっちに住むの？


別にさ、あっちにずっといなくても、いいんじゃない？
こっちに戻っておいでよ。

こっちにだって、仕事のアテはあるだろうし。
それに、わざわざ高い交通費払って、こっちに来なくても、こうして月見もできるんだよ？
こっちでなら、私が君の様子をいつでも見ることだってできる。
あっちで過ごす君のことが、心配だよ……。


なんて、こんなこと言っても意味無いか。
君の意思が強いことは知ってるし、私が心配性なだけだし。

もっと早く伝えていたら、もしかしたら行くのを止められたのかな……なんて考えたりもするけど。
きっと、君のことだから、私がどんなこと言っても聞かなかっただろうな。

でも、何かあったら、無理せずに帰ってくるんだよ。
君の帰る場所は、この町なんだから、ね？


うわぁ。顔真っ赤。
道理でさっきから、手で顔を扇いでるわけだ。
大丈夫？　ここで倒れたりしないでよ？


えっ、うん、そうだね。
お母さん、遠くにいるし、きっと誰にも聞かれないよ。

何か、言いたいことあるの？


――月は、今日も綺麗ですね。か。
そっか、やっぱり君は……。


あれ、お母さん呼んでるね。
ふふっ、すっごい体跳ねたよ。
多分、聞かれてないから、大丈夫だって。

ほら、行ってきなよ。



ほんとに、ちゃんと私の分の団子、残してくれてる。
君ってばほんと、そういうところ、律儀だよね。


月は「今日も」綺麗ですね、か。
……早く忘れちゃえばいいのに、私のことなんか。

忘れるわけ、ないか。
私の約束を律儀に守って、こうして毎年、月見に付き合ってくれるような人だもんね。

死んだ人にいつまでも囚われていないで、幸せになってほしいのに。
こうして、君にいつまでも思ってもらえることを、嬉しいと感じる私は、やっぱり、ひどいよね。
ほんと、馬鹿だよ。君も……私も。


返事、どうしたらいいんだろうな。
有名な返しがあるのは知ってるけど……。
「私、死んでもいいわ」って。私、本当に死んでるし。
そもそも、君に言葉なんて届かないし。


ああでも。
君にそう言われるのなら。
君が、これから先、どんな未来を歩むとしても。

「私、死んだって忘れない」



本当に。本当に。
まん丸で、綺麗な、お月様だなぁ……。

・台本（ゆるボイ！）
月見は、君と一緒にするって、約束だから。
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
チョンマー