あ……勇者様、おはようございます。傷の治療は終わっていますので、どうかご安心ください。
ですが、しばらくはベッドで安静にしていてくださいね。
本当なら魔法で治療したかったのですが、今の私は魔法を使う事が出来ないので……本当に申し訳ありません。
ご自分がどれだけ眠っていたのか、気になるのですか？
そうですね……あの戦いから、今日でちょうど半年になります。勇者様が眠っている間に戦況は押し返され、世界各地で魔王軍の侵攻が続いています。
二か月ほど前に王都も陥落して、人間側の敗北は時間の問題かと思われます──え、他の皆さんですか？

その……私と勇者様だけです、生き残ったのは。

皆さん、魔王にやられて……私と勇者様を、庇って……ごめんなさい……私、勇者様を助ける事しか出来なくて……みんなが目の前で……みんな、みんな……いや、いや……みんな……みんな死んで……あぁ……ごめんさい、ごめんなさい……助けられなくて……ごめんなさい……

ゆ、勇者様……どこへ行こうとしてるのですか？
勇者様の体はまだ動けるような状態ではありません……ほら、今も立つ事さえ出来ないでしょう？
だから、今はどうかご自分の身を案じてください。
「自分は勇者だから、そんな事を言ってられない」……相変わらず、貴方は自分よりも人々を優先するのですね。
でも、そんな状態で外に出ても……いいえ、例え万全の状態で外に出ても、貴方は外に居る魔物には勝てないと思います。
認めましょう……私達は、敗北したのです──それでも行く？
勇者様……貴方、正気なのですか！？
私達は負けたんです！みんな殺されて、貴方も全く歯が立たなくて……私達はもう、何も出来ないんです！
それでも行くだなんて……仕方ありません、アイツらに勇者様を殺されるくらいなら──

仕方がありません、もう勇者様を欺く事はできないようですね。

驚きましたか、私はもう無力だった僧侶ではありません……今の私は、魔王様に仕える一匹の魔物です♪
魔法が使えないのも、この姿を見てくだされば納得してくれるでしょう？
神を妄信していた未熟な僧侶は、今では魔王様に忠誠を誓う立派な獣になったのです♪
「何故そんな事をしたのか」……？
私達が魔王様に敗れた後、死と貴方を失う恐怖におびえていた私に、あの方は私に慈悲をくださったのです。
私があの方の配下になる事を条件に、貴方の事を絶対に殺さないと約束してくださったのです。
そうして、条件を受け入れた私に祝福としてこの力を授けてくださったのですよ♪
この姿になってからはひ弱な人間だった頃とは違って敵を……私から勇者様を奪おうとする人間を簡単に殺せるし、恐怖に怯える事も少なくなりました。
ねぇ……勇者様、どうして私の事をそんな目で見るんですか？どうして私の事を、そんなに睨んでいるんですか？
裏切り者……裏切り者って、私がですか？
何を言っているんですか、理解できません……私は貴方の命を守りたかった、ただそれだけなんです。
その為なら方法なんて選ばない……勇者様には、私の気持ちが分かってもらえないんですね。
えぇ……最初から分かっていましたよ、勇者様は私のした事を受け入れてはくれないだろうと。

だから、私は私らしく……獣らしく、貴方の事を手に入れるわ。

あれれ～不思議だね♪
昔は勇者様の方が力が強かったのに、馬乗りになった私の事をちっとも押し返せないね？
あはは！勇者様ってば自分の力が無くなってるの、気付いてなかったのね♪
貴方の力は魔王様に奪われて、今は私の力になってるの。
今の貴方はただの人間……獣に襲われてもなすすべなく身を任せるしかない、非力で哀れな人間なの！
大丈夫よ、私は貴方を殺したりしないから……だから安心して、私に全てを委ねなさい。
実は私ね、力を受け取る代わりに魔王様に呪われてしまったの。
愛する者を穢さないと正気を保てなくなって、理性のない獣になっちゃうの……えへへ、実はもう……けっこう限界だったりするの。
だからさ……今から貴方の事、めちゃくちゃにするね。
貴方の事なんて考えてあげない……最初から最後まで私のペースに付き合ってもらうから♪

覚悟してよね……無力で哀れな、私だけの勇者様♪

・台本（ゆるボイ！）
敗北僧侶は恐怖でヤンデレ獣人化
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
霜月鷹