（波の音）

あら、目が覚めたのね……おはよう、とっても運の良い人間さん♪
てっきり他の人間みたいに死んじゃったかと思ったのだけど、息を吹き返してくれて良かったわ。
「貴方が助けてくれたのか」って──まぁ、そんなところで良いと思うわよ？
それにしたって人間さん、本当に災難だったわね……乗ってた船が沈んじゃうなんて。
この辺りは潮の流れがとっても速いし、それに加えてあの嵐……あれはベテランの船乗りでも予測できなかったでしょうし、誰を責める事も出来ない……本当にどうしようもない事だったと思うわ。
それでも、私が泳いでいた海域で沈没しちゃったのは不幸中の幸いだったわね。

うふふ、ようやく気付いたのね♪

そうよ、貴方を助けた命の恩人は、あの有名な人魚でした～
もしかして、人魚を見るのは初めてだったかしら？
あら、そんなにかわいい反応しちゃって……大丈夫よ、初めて私達に出会った人間はだいたいそんな感じだから。
せっかくなんだし、私に何か聞きたい事とかある？
命が助かった幸運ついでに、私が色々サービスしてあげちゃうんだから♪
え……なんにもないの？
「今はそれどころじゃない」って……そっか、言われてみればそうだもんね。
君、これからどうするの？
この場所って昔は人間が住んでたけど、今は誰も住んでない無人島……君が外に出る助けになる物なんてほとんどないの。
もし仮に泳いで沖に出れたとしても、潮の流れが速すぎて人間じゃ何処かに流されちゃうのが関の山……ってあぁもう、そんなに暗い顔をしないで！
今はもう無人の廃墟だけど、この先に昔は漁村だった場所があるから、ひとまずそこまで行ってみない？
もしかしたらまだ使える船があるかもしれないし……よし、そうと決まれば早く行きましょう♪
えっと……どうかしたの？私の足、そんなに気になる？
あぁこれ……私達、陸を歩く時にはこうやって人間と同じ足の形になるのよ。
ほらほら、そんな事はどうでもいいから、今はこの島を出る為の希望を探しに行きましょう♪


船、使い物にならないくらい壊れちゃってたわね……ごめんなさい、君に期待させちゃって。
その、すごく言いにくいんだけど、人間の君が島から出る手段はもう……ごめんなさい、力になれなくて。
あのね、その……責任を取るって訳じゃ無いんだけど、しばらくの間、君と一緒に居させてもらっても良いかしら？
食料なら私が海から採ってこれるし、一人よりも二人の方が出来る事が多いでしょ。
うん、ありがとね……それじゃあちょっと待ってて、今から食べれそうな物を採ってきてあげるから！
君が元居た場所に帰るお手伝いは出来そうにないけど、その分この島での暮らしは少しでもいい物にしてあげるからね。
それじゃあ行ってきます……あ、くれぐれも君は海に入らないようにしてね？
私の事が恋しくなっても、ちゃんと陸で待ってなきゃダメだからね？

（波の音）

うふふ……やっぱり、人間ってこういう状況になると冷静に物事を考えられなくなっちゃうのね。
私が沈みかけてる船を見つけたのが偶然？
そんな事ある訳ないのに……本当はね、私が君を手に入れる為にわざと船の底に穴を開けたのよ♪
船の残骸から君を見つけるのには苦労したけど、それでも生きててくれて本当に良かったわ……
これで君は、もう二度とこの島から出られない……うふふ、これで君は私だけのモノよ♪
さてと……それじゃあ適当な海藻でも採って、愛しの旦那様の所へ早く帰ってあげましょうか。

こんな島に死ぬまで閉じ込めちゃうんだから、ちゃ～んと責任……とってあげなきゃね♪

・台本（ゆるボイ！）
責任感の強い人魚さんは漂着した君を……
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・台本制作者
霜月鷹