（優しく体を揺さぶる音）

......旦那様。

......起きてください、旦那様。

...あっ、やっと起きてくださいました。

おはようございます、旦那様。

...あら、どうなさいました？

...わたしは誰、ですか？

...まあ、そうでした。

申し訳ございません。

自己紹介が遅れました。

わたし、『奏』と申します。

旦那様が日頃愛用されているヘッドホン、それがわたしの正体でございます。

以後、お見知りおきを。

...？

どうかなさいましたか、旦那様？

...やはり、信じてもらえないようですね。

それも仕方ありません。

...ですが、今のわたしに残された時間は限られています。

それまでの間に、わたしにはやらねばならないことがあるのです。

旦那様...どうか、わたしに耳かきをさせてもらえないでしょうか？

...って、あら？

旦那様、いきなり笑い出して...。

ど、どうなさいました、旦那様？

...あまりに予想外だったので笑ってしまった？

も、もう、旦那様ったら...！

わたしは真剣なんですよ！

...いまさら謝っても遅いですっ。

ふーんだ...。

...ふふっ、うそですよ。

ただちょっと、仕返しに旦那様を困らせてみただけです。

...こほん。

では、改めまして...。

旦那様、わたしに耳かきをさせていただけないでしょうか...？

...ぁ！

ありがとうございます、旦那様...！

で、では、準備をするので、旦那様は一旦部屋の外で待っててください。

...なにをするんだ、ですか？

それは秘密です、ふふふ...。

でも、変なことはしないので、ご安心ください。

ほーら、はやく部屋の外に出てくださいっ。

（ドアを開ける音）

なるべく早く終わらせるので、少しだけお待ちください。

準備ができたら、こちらからお呼びいたします。

では...。

（ドアの閉める音）


（次のシーンまで十秒くらい間隔をあけてください）


（ドアを開ける音）

...お待たせしました。

入っても大丈夫ですよ。

...驚きましたか、旦那様？

見ての通り、少し部屋の中を変えさせていただきました。

カーテンを閉めて日光を少なくし、かわりにアロマキャンドルの光と香りで雰囲気を整えました。

さらに、耳かきする際にゆったりとしていただけるように、お布団を敷かせていただきました。

そして...ふふっ、似合ってますか、わたしの和風メイド姿は？

ただのコスプレではありませんよ？

わたしが膝枕をする際、旦那様が頭を楽にのせていただくためには、これが一番なんです。

実際に頭をのせていただければ、すぐに分かります。

そういうことなので...。

（膝をぽんぽんする音）

...どうなさいました？

わたしはいつでも大丈夫ですよ？

...もしかして、恥ずかしいのですか？

...ふふふ。

旦那様にもそんな可愛いところがあったのですね。

...あら、ごめんなさい。

ですが、正直わたしも恥ずかしいのですよ？

膝枕をするのは、これが初めてなんですから。

でも、同時に嬉しくもあります。

旦那様に膝枕をしながら耳かきをするのは、わたしの夢でしたから。

...だめ、ですか？

（主人公が奏の膝に頭を預ける。耳の左右はお好みで）

...ぁ。

...ありがとうございます、旦那様。

旦那様に気持ちよくなってもらえるように、わたし、精一杯ご奉仕いたします。

...では、始めますね。

（耳かきスタート。ここからはアドリブOKです）

...どうでしょうか、旦那様？

...気持ちいい、ですか。

...旦那様に満足していただけたようでなによりです。

...なぜ、耳かきをしようと思ったのか、ですか？

...一言で言えば、恩返しです。

...旦那様には、毎日大切に使っていただいてますから。

...それに旦那様は、いつも寝る前に動画サイトで耳かき音声を再生されていらっしゃいますからね。

...なので、わたしも耳かきをしてあげたら、旦那様も喜ぶのではないかと思ったんです。

...話は変わりますが、旦那様。

...わたしのメイド姿は気に入っていただけましたか？

...それはよかったです。

...わたしが着けているカチューシャ、実はヘッドホンだったことに気づきましたか？

...このヘッドホンは骨伝導型なので、周囲の音も聞き漏らさない優れものなんですよ。

...あ、でも、わたしの方が、より高音質でバイノーラルボイスを堪能できますけどね！

（耳かき一旦終了）

これで、こちらの耳かきは終了です。

では、仕上げに...。

（奏が耳に息を吹きかける）

ふふっ...気持ちいいですか？

旦那様がこれがお好きなのも、もちろん知ってますからね。

...では、反対側のお耳もきれいにしましょうか。

旦那様、頭の向きを変えてください。

（主人公が頭の向きを変える）

...はい、大丈夫ですよ。

では、こちらも始めますね...。

（耳かきスタート。こちらもアドリブOKです）

...わたしが人間になれた理由、ですか？

...実は、わたしにもよく分かりません。

...気づいた時には、ひとの姿になっていたのです。

...旦那様は付喪神をご存知ですか？

...アミニズムの一種で、長い年月を経て神様や精霊が宿った道具のことらしいですよ。

...わたし自身が付喪神かどうかは分かりませんが、旦那様に大切に使っていただいた記憶は確かに残っています。

...なので、旦那様のおかげで、わたしと旦那様は出会えたんだって、そう思ってるんです。

（耳かき終了）

...こちらも、終わりですね。

では、こちら側も...。

（奏が耳に息を吹きかける）

...これで、耳かき終了、です。

...旦那様？

...ふふっ。

どうやら、気持ちよすぎて眠ってしまわれたようですね。

...しかし、旦那様がお目覚めになる頃には、わたしは...。

...っ。

（以下の台詞は、少し声を詰まらせながら）

旦那様...わずかな間でしたが、ありがとうございました。

これからも、できるだけ長く、わたしをお側に置いてくださいね。

それが、わたしの一番の願いですから...。

...さようなら、旦那様。

・台本（ゆるボイ！）
【フリー台本】お耳の恋人2【耳かき】
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
平 朝臣