突如、あなたの家に一人のメイドが訪ねてきた。
どうやら彼女は新たな働き先を探してやってきたそう。
押し切る形で上がり込んだ彼女は、あなたに耳かきをしてアピールを試みる。

(インターホンの音、ドアを開く音)
はじめまして、ご主人様！

っと！ どうして閉めようとなさるのですか！
別に怪しい者ではございません。見ての通りのメイドです！

……いえ、けして来る家を間違えたなどではありません。
実は私、先週までよそのお家で働いていたのですが、訳あって退職いたしまして。
今はこうして、新しくご主人様になっていただける方を探しに、手当たり次第にまわっているのです。

……まあまあ、そうおっしゃらず。少しだけ中でお話だけでもさせてもらえませんか？
勿論タダとは言いません。ちょっとお待ちください……こちら。私が耳かきをしてさしあげます。
メイドの本格耳かきを、受けてみたいですよね？ ね？ ……あ、あれ？ メイドの耳かきですよ？ あの、お願いします、本当に、もう十軒目なんです……。

いいですか？ ありがとうございます！

では、失礼して……この辺でいいですかね？
膝枕をしますので、寝転がってもらってもいいですか？
……よし、では、始めさせていただきますね。

(耳かき開始)

いかがですか？ 私の耳かき。
気持ちいい、ですよね？

ふふ、意外と素直に答えてくれましたね。まあ、最初からわかりきっていることですし？ ごまかしても仕方ないですもんね。
私、耳かきには、絶対の自信を持っているんですよ。
なにせ、前のご主人様も、耳かきで懐柔して、採用を勝ち取ったので。

はい。それで、前の職場では私含め３人のメイドがいたんですけど、私はずっとご主人様の耳かきのみを担当していました。
で、耳かき以外のことは全部、他の２人がやる、と。

ただ……ある日、その２人の内の片方が裏でご主人様に尋ねやがったそうなんです。「なんで耳かきしかしない子を雇ってるんですか？」って。本人によると、抗議とかではなく、ただ純粋に疑問だったみたいで。
そのせいで、次の日から私も掃除とかをやる羽目になったんですが……まあ、ちょっと、色々あって、２日でまた耳かき専門に戻ったんですけれど。
で。で！ それぐらいで済めばまだよかったんですよ。問題はその後。ご主人様が私に秘密で、新しいメイドを募集し始めたんですよ！
しかも条件が「家事全般と耳かきのできる方」って！ 流石に露骨すぎると思いません！？
……で、そしたら本当に応募が来ちゃって。役割を奪われた私は、契約を打ち切られちゃったと。

はぁ……もう、今更どうしようもないとはいえ、未だに思い出しては後悔しちゃうんですよ。
ご主人様だけでなく、あいつらも耳かきで黙らせておくべきだったって。

あー……なんか、思い出してたら、ついつい手に力が入りそうになっちゃう。
ちょっと、梵天に切り替えましょうか。はい。

(梵天開始)
ふぅ、いいですねぇ。梵天って、やってる方も、なんだか心が落ち着いてくるんですよねー。
梵天されてるときって、ついついウトウトしちゃったりするじゃないですか？ そんな様子を眺めるのも、精神衛生上良さそうですもんね。
こういうところもいいなーって思います。耳かき。

で、えーと……どこまでお話したっけな。
ああ、クビ……違う、退職、退職したというところまで言いましたね。
そしたらまあ、身の上話はだいたいこんなところですかね。

という訳で、心機一転、本日からこちらでお世話になりますので、
これからよろしくお願いしますね、ご主人様？

いやいや、私はもう、貴方をご主人様にする気満々ですので。
反論は耳かきが終わってからでお願いします。それまでにご主人様を落としてみせますから。

(耳に息を吹きかける)
ふーっ……。

はい、こんな風に。

では、反対側を向けていただけますか？

(耳かき開始)

ふっふっふ……余裕ぶっていますが、もう大分耳かきの虜になってきてますね？
私の目はごまかせませんよ。

いいですか？ 私とご契約いただければ、この耳かきを毎日味わえるんです。
……いえ、毎日は言い過ぎました。でも、一応週５で入れます。
さらに、今即決されるなら特別に、料理や掃除等もやってあげないこともありません。……月一程度なら。
これはもう、雇わない手はないはずです。

……今、小声でぼそっと呟きましたよね？ 聞こえてますよ！
私、料理も普通にできますからね？ やりたくないだけで。
ちなみに得意料理はハンバーグです。10何分か湯煎するだけで作れるんですけど、あれめちゃめちゃ美味しいんです。
いや、本当に、最近の冷食の進化って凄いんですよ。自慢じゃないですけど、あれで前のご主人様の舌も普通に騙せましたもん。

あ、また話がそれちゃいましたね。
どうでしょう？ 契約したくなってきましたよね？
……おや、まだ何か気がかりなことがありますか？

……はぁ～～～！？
メイドが家を出入りするぐらいで、何を恥ずかしがることがありますか！
その程度で噂になんてなりませんって！
そんな理由で断られても、私は引き下がりませんよ。
あ、梵天に切り替えますね。

(梵天開始)
……なぜメイドか、と問われましても、耳かきでお金を貰いたいと思ったからですよ、そりゃあ。
耳かきをするお仕事といえばメイド、って相場が決まっているでしょう？
……えっ、偏ってますかね、私の知識……。

……耳かき屋？ え、あれってリアルに存在するんですか？ 音声作品の中だけのファンタジーだと思ってたんですけど。
ちょ、ちょっと詳しく聞かせてください。

……それって、まんま音声に出てくるようなやつ……！
あるんだ、本当に……。

それで？ ご主人様は通っているんですか、そのお店。というか、絶対通ってますよね。詳しかったですもん。
それって、アレですよね。客が誰に耳かきしてもらうか指名するみたいなシステムですよね？
どれぐらいの頻度で通ってます？

……ふむ、つまり、既に一人確保できていると……。

よし！ ありがとうございます。貴方のおかげで、とってもいいお話が聞けました。
とりあえず、メイドは廃業して、新たな道に進もうかと思います。というわけで、

(耳に息を吹きかける)
ふぅ～……。

これからよろしくお願いしますね、お・きゃ・く・さ・ま♪

・台本（ゆるボイ！）
失職駄メイドの押しかけ耳かき
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
くるっくー