- 耳かき
- ホラー
- ショタ
- ボクっ娘
公開日2025年11月29日 13:20
更新日2025年11月29日 13:20
文字数
4930文字(約 16分26秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
同居人
視聴者役柄
指定なし
場所
自宅
あらすじ
優しい同居人に怪談を聞かされながら耳かきしてもらうシチュエーションです
本編
あ、おはようございます
大丈夫ですか?僕が来るなり着替えもしないで寝てるから、心配したんですよ
ほら、お水入れましたから飲んでください
(水を差し出す)
(聞き手が水を飲む)
ああ、そんなに一気に飲んだら咽せてしまいますよ
ふふ、寝起きって喉が渇きますもんね
最近は忙しかったみたいですし、疲れが一気に出たんでしょうか?本当に、おつかれさまです
え?「誰?」って…あのぉ、同居人にそれはひどくないですか?
そうですよ。もうずいぶん一緒に住んでるでしょう
もしかして、寝ぼけてるんですか?
ほら、僕の顔と声、ちゃんとわかります?
(満足気に)良かった。本当に忘れられていたらどうしようかと思いました
ああ、別にいいですよ、無理して起きないでも
たまにはゆっくりしないと、疲れが取れませんから
……とはいえ、ただ寝ただけでも全部の疲れが取れるわけではないですよね
以前読んだ本にも、体力を回復末には休息だけでなくリフレッシュが不可欠と書いてありましたし
そうですね……リフレッシュ……そうだ
耳かきというのはどうでしょう?
マッサージもいいですけど、僕はどちらかといえば非力な方ですし
その点、耳かきなら力が無くても癒してあげることができますから
それに、こう見えて手先は器用な方なんですよ?怪我をさせる心配は無いと思います
決まりですね。では、僕の膝の上に頭を乗せてください
え?恥ずかしい?
そんなことないですよ。言いふらしたりしませんし、一緒に住んでいるんですからこのくらい普通です
ほら、遠慮しないで
そうそう、僕に体重を預けて、力を抜いてください
太もも、結構柔らかい自信があるので、思いっきり埋めてしまって大丈夫ですからね
ふふ、まだちょっと肩が強張っていますけれど、よしとしましょう
ここからは耳かきでゆっくりとリラックスさせていくことにします
(右耳かき開始)
ふふ、気持ちいいでしょう?この、優しくカリカリしてあげるのがいいんですよね
カリカリ、カリカリ……
カリカリ、カリカリ……
……あの、ただ耳かきをするだけでというのも退屈ですし、何かお話しませんか?
黙っているのは少し苦手で……
ああでも、疲れているあなたに色々話させるのも申し訳ないか……僕が一方的に喋っている方が良いですよね
世間話だと、いつのまにかあなたに話題を振ってしまいそうですし……
そうだ、怖い話はどうでしょう?
確か好きでしたよね?怪談とか、都市伝説とか、クリーピーパスタとか
実は僕も結構マニアでして
そういうお話ならいくつか知っているんです
とはいえそんなに長いのは話しませんよ?流石にひと息に話しきれないですし
耳かきをしながら終わるような、ちょっとしたお話です
どうですか?
興味を持ってもらえたようでよかったです
それでは、どの話にしましょうか
そうだなぁ……よし、決めました
せっかくですので、1番最近聞いた話をひとつ
こほん。ではでは……これは知り合いのAさんという方の話です
Aさんは普段、いわゆるASMRを聞きながら寝る習慣がありました
といっても、耳かき系とか吐息系とかじゃなくて、例えば焚き火の音とか、シャリシャリのスライムを切る音とか、そっち系が好きらしいです
彼、結構夜中の音とか気になっちゃうタイプみたいで
ほら、夜布団の中にいる時って、外の車の音とか時計の音とかが妙に気になって眠れなくなることって多いじゃないですか
Aさんの場合は昔からそれが酷くて、以前は音楽をつけながら寝てたりしてたらしいんですが
大学に入ってからASMRを知ってハマっちゃったみたいです
実際かなり安眠効果あるみたいなんですよね
一つの音に意識を集中していると、他の音に意識がいかなくなって、安心して眠れると言っていました
さて、ASMRと言っても探せば無数にありますけれど、Aさんには一つお気に入りの動画があったそうです
その動画は、「箱 睡眠導入」というタイトルで投稿されていました
ええ、何だか不気味な名前ですよね
タイトルそのまま、木製の箱を外側から引っ掻くだけの音声だったらしいんですけど
カリカリ、カリカリ、とただ木材と爪が擦れ合う音が、だいたい1時間ほど収録されていたそうです
そうそう、ちょうどこんなふうにカリカリ、ってね
らしいとか、そうですっていうのは、その動画ってもう消されちゃってるんですよ
だから、私自身は聞いていないんです
興味はあったんですけどね
それで、そのカリカリ、カリカリ、という音が不思議と脳にスッと入り込んでくるらしくて
何かを引っ掻く音ってあんまりいい印象ないじゃないですか。それこそ黒板を引っ掻く音なんて、不快の代名詞ですから
でもその「箱 睡眠導入」の音は少しも不快ではなくて
一定のリズムで繰り返されるカリカリ、カリカリ、という音に徐々に意識が遠のいていく
寝るか寝ないか、くらいの意識が朦朧として思考がまとまらない段階になってくると、だんだんその音がイヤホンからではなく、
自分の足元から聞こえてくるような気がしてきて
カリカリ、カリカリというリズムに合わせて
音が、少しづつ鮮明になっていく
カリカリ、カリカリ
カリカリ、カリカリ
まるで、自分が足元にある音源に這いつくばって耳を寄せているように、再び音が耳元から聞こえてくる
カリカリ、カリカリ
そして、目が覚めると朝になっている
そうして眠った次の日は頭がスッキリとして体調がいいので、Aさんはほとんど毎日その音声を聴いていました
それまで、仕事中に片頭痛になったり、帰るとだるくてまるで何かをする気にならなかったのが嘘のように、全身が軽く、寝る直前まで活力にみなぎっている
もやはその音声は、彼の生活には不可欠なものとなっていました
ただ、一つだけ気になることがあって、
その音声の概要欄に、奇妙な文章が書いてあったと言うんです
「イヤホンを外す時は必ず先に音声を停止させてください」と、ただ一文だけ
別にそんなことを書かなくても、寝落ちする以上動画が終わるまではイヤホンをつけっぱなしにしていますし、何かあっても聞くのをやめるにしても、イヤホンを外す前に動画を止める方が自然でしょう
ただ、何のためにそんな注意書きをするのかはよくわからなかったそうです
実際に、体験するまでは(耳元で 吐息混じりに)
(右耳かき終了)
さて、ここで一区切り
お話を続ける前に体の向きを変えましょうか
ずっと同じ方の耳だけ掃除していても逆に良くないですしね
ほら、ごろんとされてください
ふむ、こちらもそれなりに耳垢が溜まっているようですし、綺麗にしていきましょう
もちろん、怖い話と一緒にね
(左耳かき開始)
さて、奇妙な注意書きが気になるAさんでしたが、特に気にすることはありませんでした
それがあまりにも迂闊で無防備だったと気づくのは、その音声を見つけてから一年ほど経った時のことです
その日、Aさんはいつも通り、「箱 睡眠導入」を再生し、イヤホンをつけたベッドに入りました
普段と何も変わらず、カリカリ、カリカリ、という音に合わせて、意識が遠のいていく
カリカリ、カリカリ、という音が、徐々に、徐々に鮮明になっていく
何一つ、いつもと変わりません
カリカリ、カリカリ
カリカリ、カリカリ
ふと、その元に混じって、何か他の音が聞こえるような気がしました
カリカリ、カリカリ
少しずつ、少しずつ音は大きく、鮮明になって行きます
カリカリ、カリカリ
ふう(耳ふー)
それは、息遣いのように聞こえました
ふう、ふう、ふーっ、ふーっ(耳元で)
箱を引っ掻く音に混じって、何かが浅い息をするような音が一定周期で聞こえてくる
ふと、Aさんは思いました
箱を引っ掻く音って、箱の中からしているんじゃないか……って
箱の中にいる、何かが外に出ようとしてカリカリ、カリカリ、と爪を立てる様子が思い浮かびます
その時、びく、と体が痙攣してして両手が前に伸びました
まるで電気を流し込まれたように、自分の意思と無関係に突き出された手は、多少動かせるのですが、前に出たまま戻りません
寝かけの時に突然意識が戻ると、腕が跳ね上がることってありますよね
あれに近いんですけれど、もっと強烈な力で引っ張られたように感じられたそうです
そして何より、途中で目が覚めるのとは違って意識は変わらず朦朧としている
朦朧としたまま、ずっと、箱を引っ掻く音と、息遣いに注がれている
カリカリ、カリカリ
明らかに、何かとても良くないことが起ころうとしているのに、自分の体が自分の意思で動かない
カリカリ、カリカリ
ふっ、ふうっ、ふうっ、ふうっ(耳元で)
寝ぼけているだけだ、すぐに体を起こして動画を止めた方がいい
そう、頭でわかっているのに、
カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ
そのまま前に伸びた手が、ふと、何かに触れる
それは、何か四角いもので
手触りから、木でできていると分かりました
少し湿気っているのか、ひんやりとしています
箱、でした
嫌だ、怖い、触れたくない
頭は拒否しているのに、手はその箱を愛おしむように撫でまわしていて
その手のひらに、内側から何かが箱を引っ掻く感触が伝わってくる
息遣いはだんだんと荒くなって、ほとんど唸るように聞こえました
そして、箱を撫で回していると、蓋があることに気が付きます
それはスライド式の、横にずらすようなタイプの蓋でした。少し軋んで開きづらくなっているのがわかりました
それでいい。この箱は、絶対に開けてはいけない
Aさんは何度も何度も頭の中でそう繰り返します
けれどAさんの手はAさんの意思とは無関係に
そのスライド式の蓋を開けようと
そこに指をかけて、カリカリ、カリカリ、と引っき始める
カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ
ず…ずず、と音がして(耳かき棒を奥にいれる)
箱がわずかに、開いたのが分かりました
次の瞬間Aさんは、大声を上げて叫びました
足をばたつかせるようにして、必死で体を動かします
いつのまにか手は動くようになっていて、転がるようにして布団を出ました
目を開けると、そこにはいつもと同じ、一人暮らしの自分の部屋があります
しばらく浅い息が繰り返された後に、ようやく安堵のため息が出ました
よかった、助かった
同時に、少しづつ冷静になります
きっとさっきのは幻覚のようなものだ
動画を聞いてトランス状態になったことで変な感覚を感じてしまったんだ。決してあり得ないことではない、と
そうして、少しずつ頭が整理されて、もう一度寝直そうとした時
耳元で、
「開いたよ」(耳元で 吐息混じりに)
という声が聞こえました
慌ててイヤホンを外そうとして、愕然とします
足元に、暴れた拍子に外れたイヤホンが落ちていたからです
イヤホンもないのに、なぜ耳元で人の声がするのでしょう
それは、そこにいるということなのではないでしょうか?
けれど、声のする方を見ても誰もいません
ただ、誰かに見られているような気配だけがしました
誰かが、浅い息遣いで自分のことを、じっと見つめているような
Aさんはそれが怖くて怖くて、全身に布団を被りました
無視をしていれば消える、朝になれば消える、そう信じて
けれど、その誰かは、布団の外から彼をずっと見つめていました
翌朝、「箱 睡眠導入」の動画を確認しようとすると、削除されていたそうです
その代わりに数秒ほどの動画がひとつ投稿されていました
再生してみると、白い背景に「成就しました」という文字だけが表示されて、
一体何が成就したのだろう、と
変わらず隣にある誰かの気配を感じながら、Aさんはずっと怯え、自分の頭を引っ掻いていました
カリカリ、カリカリ、と
今でもAさんは、隣に誰かがいるような気配を、ずっと感じています
彼は、何を開けてしまったんでしょうね
(余韻で無言の耳かきを数秒)
(左耳かき終了)
はい、おしまいです!
どうでした?結構怖かったんじゃないですか?
え?そんなに怖くない?
その割には、僕の太ももに頭を埋めて震えているように見えますけれど?
耳かきが気持ちよかったから、ねぇ
ふふ、それなら、そういうことにしておいてあげます
疑ってないですよ、そうですよね。あなたはそんな怖がりさんじゃないですもんね
でも、気持ちよかったなら本当によかったです
またいつでも、耳かきして欲しくなったら言ってください
あ、ちょっと待って
まだイヤホン外さないでください。イヤなものが聞こえちゃいますから(さりげなく)
ん?なんですか、その顔
ふふふ
ねぇ、Aさんって、本当は誰のことだと思います?(耳元で)
大丈夫ですか?僕が来るなり着替えもしないで寝てるから、心配したんですよ
ほら、お水入れましたから飲んでください
(水を差し出す)
(聞き手が水を飲む)
ああ、そんなに一気に飲んだら咽せてしまいますよ
ふふ、寝起きって喉が渇きますもんね
最近は忙しかったみたいですし、疲れが一気に出たんでしょうか?本当に、おつかれさまです
え?「誰?」って…あのぉ、同居人にそれはひどくないですか?
そうですよ。もうずいぶん一緒に住んでるでしょう
もしかして、寝ぼけてるんですか?
ほら、僕の顔と声、ちゃんとわかります?
(満足気に)良かった。本当に忘れられていたらどうしようかと思いました
ああ、別にいいですよ、無理して起きないでも
たまにはゆっくりしないと、疲れが取れませんから
……とはいえ、ただ寝ただけでも全部の疲れが取れるわけではないですよね
以前読んだ本にも、体力を回復末には休息だけでなくリフレッシュが不可欠と書いてありましたし
そうですね……リフレッシュ……そうだ
耳かきというのはどうでしょう?
マッサージもいいですけど、僕はどちらかといえば非力な方ですし
その点、耳かきなら力が無くても癒してあげることができますから
それに、こう見えて手先は器用な方なんですよ?怪我をさせる心配は無いと思います
決まりですね。では、僕の膝の上に頭を乗せてください
え?恥ずかしい?
そんなことないですよ。言いふらしたりしませんし、一緒に住んでいるんですからこのくらい普通です
ほら、遠慮しないで
そうそう、僕に体重を預けて、力を抜いてください
太もも、結構柔らかい自信があるので、思いっきり埋めてしまって大丈夫ですからね
ふふ、まだちょっと肩が強張っていますけれど、よしとしましょう
ここからは耳かきでゆっくりとリラックスさせていくことにします
(右耳かき開始)
ふふ、気持ちいいでしょう?この、優しくカリカリしてあげるのがいいんですよね
カリカリ、カリカリ……
カリカリ、カリカリ……
……あの、ただ耳かきをするだけでというのも退屈ですし、何かお話しませんか?
黙っているのは少し苦手で……
ああでも、疲れているあなたに色々話させるのも申し訳ないか……僕が一方的に喋っている方が良いですよね
世間話だと、いつのまにかあなたに話題を振ってしまいそうですし……
そうだ、怖い話はどうでしょう?
確か好きでしたよね?怪談とか、都市伝説とか、クリーピーパスタとか
実は僕も結構マニアでして
そういうお話ならいくつか知っているんです
とはいえそんなに長いのは話しませんよ?流石にひと息に話しきれないですし
耳かきをしながら終わるような、ちょっとしたお話です
どうですか?
興味を持ってもらえたようでよかったです
それでは、どの話にしましょうか
そうだなぁ……よし、決めました
せっかくですので、1番最近聞いた話をひとつ
こほん。ではでは……これは知り合いのAさんという方の話です
Aさんは普段、いわゆるASMRを聞きながら寝る習慣がありました
といっても、耳かき系とか吐息系とかじゃなくて、例えば焚き火の音とか、シャリシャリのスライムを切る音とか、そっち系が好きらしいです
彼、結構夜中の音とか気になっちゃうタイプみたいで
ほら、夜布団の中にいる時って、外の車の音とか時計の音とかが妙に気になって眠れなくなることって多いじゃないですか
Aさんの場合は昔からそれが酷くて、以前は音楽をつけながら寝てたりしてたらしいんですが
大学に入ってからASMRを知ってハマっちゃったみたいです
実際かなり安眠効果あるみたいなんですよね
一つの音に意識を集中していると、他の音に意識がいかなくなって、安心して眠れると言っていました
さて、ASMRと言っても探せば無数にありますけれど、Aさんには一つお気に入りの動画があったそうです
その動画は、「箱 睡眠導入」というタイトルで投稿されていました
ええ、何だか不気味な名前ですよね
タイトルそのまま、木製の箱を外側から引っ掻くだけの音声だったらしいんですけど
カリカリ、カリカリ、とただ木材と爪が擦れ合う音が、だいたい1時間ほど収録されていたそうです
そうそう、ちょうどこんなふうにカリカリ、ってね
らしいとか、そうですっていうのは、その動画ってもう消されちゃってるんですよ
だから、私自身は聞いていないんです
興味はあったんですけどね
それで、そのカリカリ、カリカリ、という音が不思議と脳にスッと入り込んでくるらしくて
何かを引っ掻く音ってあんまりいい印象ないじゃないですか。それこそ黒板を引っ掻く音なんて、不快の代名詞ですから
でもその「箱 睡眠導入」の音は少しも不快ではなくて
一定のリズムで繰り返されるカリカリ、カリカリ、という音に徐々に意識が遠のいていく
寝るか寝ないか、くらいの意識が朦朧として思考がまとまらない段階になってくると、だんだんその音がイヤホンからではなく、
自分の足元から聞こえてくるような気がしてきて
カリカリ、カリカリというリズムに合わせて
音が、少しづつ鮮明になっていく
カリカリ、カリカリ
カリカリ、カリカリ
まるで、自分が足元にある音源に這いつくばって耳を寄せているように、再び音が耳元から聞こえてくる
カリカリ、カリカリ
そして、目が覚めると朝になっている
そうして眠った次の日は頭がスッキリとして体調がいいので、Aさんはほとんど毎日その音声を聴いていました
それまで、仕事中に片頭痛になったり、帰るとだるくてまるで何かをする気にならなかったのが嘘のように、全身が軽く、寝る直前まで活力にみなぎっている
もやはその音声は、彼の生活には不可欠なものとなっていました
ただ、一つだけ気になることがあって、
その音声の概要欄に、奇妙な文章が書いてあったと言うんです
「イヤホンを外す時は必ず先に音声を停止させてください」と、ただ一文だけ
別にそんなことを書かなくても、寝落ちする以上動画が終わるまではイヤホンをつけっぱなしにしていますし、何かあっても聞くのをやめるにしても、イヤホンを外す前に動画を止める方が自然でしょう
ただ、何のためにそんな注意書きをするのかはよくわからなかったそうです
実際に、体験するまでは(耳元で 吐息混じりに)
(右耳かき終了)
さて、ここで一区切り
お話を続ける前に体の向きを変えましょうか
ずっと同じ方の耳だけ掃除していても逆に良くないですしね
ほら、ごろんとされてください
ふむ、こちらもそれなりに耳垢が溜まっているようですし、綺麗にしていきましょう
もちろん、怖い話と一緒にね
(左耳かき開始)
さて、奇妙な注意書きが気になるAさんでしたが、特に気にすることはありませんでした
それがあまりにも迂闊で無防備だったと気づくのは、その音声を見つけてから一年ほど経った時のことです
その日、Aさんはいつも通り、「箱 睡眠導入」を再生し、イヤホンをつけたベッドに入りました
普段と何も変わらず、カリカリ、カリカリ、という音に合わせて、意識が遠のいていく
カリカリ、カリカリ、という音が、徐々に、徐々に鮮明になっていく
何一つ、いつもと変わりません
カリカリ、カリカリ
カリカリ、カリカリ
ふと、その元に混じって、何か他の音が聞こえるような気がしました
カリカリ、カリカリ
少しずつ、少しずつ音は大きく、鮮明になって行きます
カリカリ、カリカリ
ふう(耳ふー)
それは、息遣いのように聞こえました
ふう、ふう、ふーっ、ふーっ(耳元で)
箱を引っ掻く音に混じって、何かが浅い息をするような音が一定周期で聞こえてくる
ふと、Aさんは思いました
箱を引っ掻く音って、箱の中からしているんじゃないか……って
箱の中にいる、何かが外に出ようとしてカリカリ、カリカリ、と爪を立てる様子が思い浮かびます
その時、びく、と体が痙攣してして両手が前に伸びました
まるで電気を流し込まれたように、自分の意思と無関係に突き出された手は、多少動かせるのですが、前に出たまま戻りません
寝かけの時に突然意識が戻ると、腕が跳ね上がることってありますよね
あれに近いんですけれど、もっと強烈な力で引っ張られたように感じられたそうです
そして何より、途中で目が覚めるのとは違って意識は変わらず朦朧としている
朦朧としたまま、ずっと、箱を引っ掻く音と、息遣いに注がれている
カリカリ、カリカリ
明らかに、何かとても良くないことが起ころうとしているのに、自分の体が自分の意思で動かない
カリカリ、カリカリ
ふっ、ふうっ、ふうっ、ふうっ(耳元で)
寝ぼけているだけだ、すぐに体を起こして動画を止めた方がいい
そう、頭でわかっているのに、
カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ
そのまま前に伸びた手が、ふと、何かに触れる
それは、何か四角いもので
手触りから、木でできていると分かりました
少し湿気っているのか、ひんやりとしています
箱、でした
嫌だ、怖い、触れたくない
頭は拒否しているのに、手はその箱を愛おしむように撫でまわしていて
その手のひらに、内側から何かが箱を引っ掻く感触が伝わってくる
息遣いはだんだんと荒くなって、ほとんど唸るように聞こえました
そして、箱を撫で回していると、蓋があることに気が付きます
それはスライド式の、横にずらすようなタイプの蓋でした。少し軋んで開きづらくなっているのがわかりました
それでいい。この箱は、絶対に開けてはいけない
Aさんは何度も何度も頭の中でそう繰り返します
けれどAさんの手はAさんの意思とは無関係に
そのスライド式の蓋を開けようと
そこに指をかけて、カリカリ、カリカリ、と引っき始める
カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ
ず…ずず、と音がして(耳かき棒を奥にいれる)
箱がわずかに、開いたのが分かりました
次の瞬間Aさんは、大声を上げて叫びました
足をばたつかせるようにして、必死で体を動かします
いつのまにか手は動くようになっていて、転がるようにして布団を出ました
目を開けると、そこにはいつもと同じ、一人暮らしの自分の部屋があります
しばらく浅い息が繰り返された後に、ようやく安堵のため息が出ました
よかった、助かった
同時に、少しづつ冷静になります
きっとさっきのは幻覚のようなものだ
動画を聞いてトランス状態になったことで変な感覚を感じてしまったんだ。決してあり得ないことではない、と
そうして、少しずつ頭が整理されて、もう一度寝直そうとした時
耳元で、
「開いたよ」(耳元で 吐息混じりに)
という声が聞こえました
慌ててイヤホンを外そうとして、愕然とします
足元に、暴れた拍子に外れたイヤホンが落ちていたからです
イヤホンもないのに、なぜ耳元で人の声がするのでしょう
それは、そこにいるということなのではないでしょうか?
けれど、声のする方を見ても誰もいません
ただ、誰かに見られているような気配だけがしました
誰かが、浅い息遣いで自分のことを、じっと見つめているような
Aさんはそれが怖くて怖くて、全身に布団を被りました
無視をしていれば消える、朝になれば消える、そう信じて
けれど、その誰かは、布団の外から彼をずっと見つめていました
翌朝、「箱 睡眠導入」の動画を確認しようとすると、削除されていたそうです
その代わりに数秒ほどの動画がひとつ投稿されていました
再生してみると、白い背景に「成就しました」という文字だけが表示されて、
一体何が成就したのだろう、と
変わらず隣にある誰かの気配を感じながら、Aさんはずっと怯え、自分の頭を引っ掻いていました
カリカリ、カリカリ、と
今でもAさんは、隣に誰かがいるような気配を、ずっと感じています
彼は、何を開けてしまったんでしょうね
(余韻で無言の耳かきを数秒)
(左耳かき終了)
はい、おしまいです!
どうでした?結構怖かったんじゃないですか?
え?そんなに怖くない?
その割には、僕の太ももに頭を埋めて震えているように見えますけれど?
耳かきが気持ちよかったから、ねぇ
ふふ、それなら、そういうことにしておいてあげます
疑ってないですよ、そうですよね。あなたはそんな怖がりさんじゃないですもんね
でも、気持ちよかったなら本当によかったです
またいつでも、耳かきして欲しくなったら言ってください
あ、ちょっと待って
まだイヤホン外さないでください。イヤなものが聞こえちゃいますから(さりげなく)
ん?なんですか、その顔
ふふふ
ねぇ、Aさんって、本当は誰のことだと思います?(耳元で)
クレジット
ライター情報
BLとボクっ娘系が好きです。よろしくお願いします。
有償販売利用の条件
当サイトの利用規約に準ずる
利用実績(最大10件)
闇兎チニソム の投稿台本(最大10件)