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雨の夜、コーヒーと愛の話
written by ねむりはり
  • おやじ
  • 癒し
公開日2026年05月15日 01:22 更新日2026年05月15日 01:22
文字数
3570文字(約 11分54秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
男性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
寡黙な喫茶店の店長
視聴者役柄
場所
喫茶店
あらすじ
雨の夜だけ開いているような、静かな喫茶店。
愛想のない元刑事の店主が淹れるコーヒーと、ぽつりぽつりと語られる過去。
傷を抱えた大人同士が、少しだけ心を軽くして帰っていく、雨音とコーヒーの物語。
本編
■ パート1:導入 店に入る(目安:約3分)

(ドアベルが鳴る音。雨の音が少し聞こえてから、扉が閉まり室内の静かな空気になる)

……いらっしゃい。

(低く、愛想はないが拒絶もしない声)

ああ、また来たのか。
今日で……何日連続だ?
数えてないか。俺も数えてなかった。

(椅子を引く音)

座れ。
どこでもいい。どうせ今夜は客、おまえだけだ。

(雨音が窓に当たっている)

……こんな雨の夜に、よく来る気になったな。
傘、持ってたか?
……ずぶ濡れじゃないか。
ちょっと待ってろ。

(引き出しを開ける音。タオルを出す)

ほら。
返さなくていい。どうせ押し入れに山ほどある。
女房が買い込んだやつだ。
……もう使う人間もいないしな。

(ぼそっと、独り言のように)

まあ、座れ。

コーヒーでいいか。
聞くまでもないか。いつもそれだしな。

(カウンターの奥へ移動する足音。豆を挽く音が始まる)

今日のはちょっといい豆だ。
知り合いから譲ってもらった。
グアテマラのやつ。
深煎りで、後味に少し煙みたいなのが残る。
嫌いか?

……嫌いじゃないか。よし。

(グラインダーの音が続く)

■ パート2:沈黙と雨音(目安:約4分)

(豆を挽く音が終わる。湯を沸かす音)

静かだな、今夜は。

雨の夜の喫茶店ってのは、なんというか……
余計なものが全部、外に洗い流されていく感じがする。
昔から好きだった、こういう夜。

(ぽつりと)

刑事やってた頃は、こういう夜が一番しんどかったけどな。

……ああ、言ったことあったか?
昔な、刑事だったんだ。
20年くらい。

今となっちゃあ遠い話だが。

(湯を注ぐ音。ゆっくりと)

おまえに話したことあるか……。
たぶん、ないな。
俺はあまり自分のことを喋らない。
喋ると、余計なことまで出てきそうで、な。

(少し笑う。自嘲気味に)

でも今夜はなんか、喋りたい気分だ。
おまえが聞きたくなくても、聞いてくれ。

客が一人しかいない夜の特権だ。

(コーヒーを置く音)

はい。どうぞ。

……熱いから、気をつけろ。
急いで飲まなくていい。
今夜は時間があるだろう。
どうせ俺も閉める気ないし。

(椅子を引いてカウンターの内側に腰かける音)

■ パート3:昔話 刑事時代(目安:約6分)

刑事を辞めたのは……
もう12年前だ。

理由は色々あったが、まあ一言で言えば、疲れた。
体じゃなくて。
ここが。

(胸のあたりを軽く叩く音)

20年もやってると、色んな人間を見る。
悪い人間も、善い人間も。
けど一番しんどいのはな……
どっちでもない人間を、見るときだ。

普通に生きてたやつが、ちょっとした歯車のズレで、取り返しのつかないことをしてしまう。
そういう場面に、何度も立ち会った。

……おい、コーヒー、どうだ?

(間)

ああ、そうか。美味いか。よかった。

(すこし表情が和らぐ気配)

刑事時代の相棒に、よく言われてたんだ。
「おまえは感情移入しすぎる」って。

俺みたいな顔してると、みんなそう思わないらしいけどな。
こんなしかめっ面してたら、感情なんてなさそうに見える。
……でも実際は、逆でな。

気にしすぎて、考えすぎて、眠れない夜が何年も続いた。

だから酒に頼った時期もあった。
……かなり頼った。
今は飲んでないけどな。この店でも出してない。
出したら俺が飲みたくなるから。

(短く笑う)

相棒は……今も現役だ。
たまに来る。ここに。
コーヒー飲んで、何も喋らないで帰る。
それでいい。それで十分だ。
言葉にしなくても、わかるもんがある。
長い付き合いってのは、そういうもんだ。

おまえも、そういう相手、いるか?

……まあ、いいか。答えなくていい。
聞いてみただけだ。

(雨音が少し強くなる)

あの頃よく来てた喫茶店が、あった。
捜査の合間に、相棒と入ってコーヒー飲んで。
マスターは寡黙な爺さんでな。
何も言わないんだが、座るともうカップが出てくる。
砂糖もミルクも聞かない。
ブラックだとわかってて、出してくる。

俺はあの店が好きだった。
追いかけてくるものから、少しだけ、逃げられる気がして。

……そのマスターが、もう何年も前に死んだ。
店も閉まった。
それで俺、思ったんだ。
自分でやろうって。

だから今ここにいる。

(静かに、噛みしめるように)

■ パート4:女房の話(目安:約5分)

……女房の話、少しだけしていいか。

(間)

俺の女房はな……
俺が刑事を辞める3年前に、死んだ。

病気だった。
そんなに長くかかったわけじゃなかった。
あっという間だった。

(声が少し低くなる)

最後の方は入院してたから、俺は仕事終わりに毎日病院に寄った。
仕事が終わらない日も、途中で抜けて行った。
上司には怒られたよ、何度も。
でも行かないわけにいかなかった。

女房はな……俺が来るといつも笑うんだ。
しんどいはずなのに。
「お帰り」って言う。
病院なのに「お帰り」だ。

……俺はそのたびに、うまく返せなかった。
「ただいま」って言えばよかったんだが。
なんか照れくさくて。
バカだろ。

(苦く笑う)

最後の日も、俺は間に合わなかった。
仕事で動けなくて……
電話が来て、駆けつけたときには、もう。

……

(長い沈黙。雨の音だけ)

悔やんでも悔やみきれないってのは、こういうことを言うんだな。
頭ではわかってた。
でも体が追いつかなかった。

葬式の後、相棒が一晩付き合ってくれた。
何も言わなかった。ただそこにいてくれた。
俺も何も言わなかった。

それで十分だった。

(静かに)

おまえ、今、何か言いたそうな顔してるな。
……言わなくていい。
その顔だけで十分だ。

ありがとな。

(ぼそっと、少し照れくさそうに)

■ パート5:この店のこと(目安:約4分)

この店、もう8年になる。

最初は全然客が来なくてな。
立地も悪い、宣伝もしない、愛想もない。
俺でも来ないと思う。

(ちょっと笑う)

でもな、不思議と常連ってのはつく。
少なくていいんだ。
毎日同じ顔が来てくれれば、それで店は回る。

おまえみたいなやつがいてくれると、助かる。
……ああ、商売上の話じゃなくてな。
なんというか。

(少し言葉を選ぶように間を置く)

この店に来てくれる人間を見てると、みんなどこか、疲れた顔してる。
外の世界で何かを持って、持ちきれなくなって、ここに来る。
そんな感じがする。

それでいいと思ってる。
俺の店はそういう場所でいい。
コーヒーを飲んで、黙って座って、少し楽になって帰る。
そのためだけにある店でいい。

(静かに)

女房も、そういう場所を作れって言ってたな。
まあ、女房はもっと明るいイメージだったと思うけど。
こんな暗い店じゃなくて。

……でも俺には、これが精一杯だ。

コーヒー、おかわりどうだ?

(間)

ああ、そうか。じゃあ淹れる。
同じのでいいか。

(立ち上がる音。再び湯を沸かす音)

■ パート6:夜が深まる 少し打ち解ける(目安:約4分)

(コーヒーを淹れながら)

雨、弱くなったな。

こういう夜はな、なんか話したくなる。
普段は全然喋らない俺が、だ。
おかしなもんだ。

……ひとつ聞いていいか。

おまえ、最近ちゃんと眠れてるか?

(間)

顔を見てたら、なんとなくわかる。
目の下が少し、重い。
眠れない夜が続いてるだろう。

俺にはわかる。
俺もずっとそうだったから。

(コーヒーをカウンターに置く音)

眠れない夜ってのは、頭が勝手に動くんだよな。
止められない。
考えたくないことを、考えてしまう。

そういうときはな……
俺の経験では、一つのことだけ考えるといい。
何でもいい。
コーヒーの匂いでも、雨の音でも。
一つのことだけに絞ってやると、少し楽になる。

(優しく、でも淡々と)

まあ、人それぞれだから、俺の言う通りにしなくていいけどな。

……ただ、無理するなよ。
体は正直だ。
悲鳴を上げる前に、ちゃんと休め。

俺みたいになるなよ。
ギリギリまで動いて、気づいたら全部終わってた、なんてことに。

(静かに笑う)

おまえにはそうなってほしくない。

■ パート7:クロージング 雨上がりの見送り(目安:約5分)

(雨音が少し弱くなっている)

……雨、止みそうだな。

(カップを片付ける小さな音)

長居させた。
悪かったな。

……いや。
別に帰れって意味じゃない。
ただ、こんな時間まで付き合わせるつもりはなかった。

(少し笑う)

でもまあ、久しぶりにこんなに喋った。
おまえのせいだ。

(静かな間)

……少しは、楽になったか?

(間)

そうか。
ならよかった。

この店はな、
そういうふうに帰ってくれるやつが一人でもいれば、それで十分なんだ。

(窓の外を見る気配)

外、空気が冷えてるな。
帰り道、気をつけろ。

……ああ、待て。

(紙袋の音)

これ、持ってけ。
余った豆。
家でも飲めるように、挽いてある。

別に大したもんじゃない。
眠れない夜にでも、淹れろ。

(少し照れくさそうに)

案外、落ち着くぞ。

(静かな空気)

……また、しんどくなったら来い。

喋らなくてもいい。
座ってコーヒー飲むだけでもいい。

そういう場所くらい、
一つあってもいいだろ。

(扉の鍵を外す音)

……じゃあな。

気をつけて帰れ。

(少し間)

また来い。

(ドアベル。雨上がりの外気)

(扉が閉まり、静かな店内)

……さて。

(小さく息を吐く)

明日の豆、挽いとくか。

(コーヒーミルの音が静かに回り始める)

(フェードアウト)
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
雨の夜、コーヒーと愛の話
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
ねむりはり
ライター情報
はじめまして
趣味でただ私が聞きたいフリー台本を書き投稿しているオタクです。
「こういう台本が欲しかった」
「よかった」
と思ってもらえる作品を書けるように頑張っています。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。

◇フリー台本に関して
詳細な言葉遣いや言い回し、台本内のセリフの順番など、読みやすいように改変していただいて構いません。
性別変更及び、大元の流れが変わらない範囲でのアドリブ等も可能です。

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