ホストにハマった借金で大学をやめ必死で働くあなた。突然訪ねてきた幼馴染は、借金をすべて返済してきたと言いだして……

（SE：ノック）
（ドアの向こうから）……おい、いるんだろ？
（SE：ノック）
（ドアの向こうから）……借金取りじゃねえから、開けてくれ。

（SE：ドア開）
　よ、久しぶり。つっても誰だかわかんねえか、十年ぶりだもんな。
　顔見てわかったか？　……正解。
　高校時代の面影、まだ残ってる？
　そっか、忘れられてなくて良かった。
　とりあえず中入れてくれよ、立ち話もなんだしな。
（SE：ドア閉）

　お邪魔します、っと。しかしお前んちどんだけ入り組んだとこにあるんだよ。
　歩いても歩いてもたどり着かないから、一生来れないかと思った。
　電話も出ねえし、表札も出てねえし、そんなんじゃ生活にも支障きたすだろ？

　ああ、大丈夫。事情は知ってる。
　勝手にいろいろ調べちまった、ごめんな。
　ホストにはまって借金こさえて、大学やめて働いてるんだろ？
　ま、それについてどうこう言う気は無いから安心しな。
　おじさんとおばさん、心配してたぞ。
　地元に帰れないにしても、たまには電話してやれよ。
　合わせる顔がない？　そんな事二人とも気にしないだろ。

　俺も心配してたんだぞ。こうして顔見て話せて、少しは安心した。
　何で来たのかって？
　話したい事があったから、かな。
　あのさ、お前の借金、一人で返せる額じゃないだろ？
　利息で膨らんじまって、桁も一個上がってたし。
　だから、許可取りに来るより先に片づけちまおうと思ってな。
　全額返済しておいた。
　鳩が豆鉄砲食らったような顔するなよ。
　借金はもう無い。お前はもう綺麗な身体だ。

　そんな事してもらう訳には、っつったって、どうやって返すつもりだったんだ？
　月給の大半利息で吹っ飛ぶような状況で、返済なんて無理だろ。
　それに、そんなにやせ細って、目の下にでかいクマもできてる。
　必死で働いてたのは知ってる。でも、自分の手に負えない事はちゃんと他人に頼れよ。俺でも親御さんでも、話せば助けになれるんだから。
　あーあー、泣くな泣くな。泣かれるような事してないから。

　何でここまでしたかって？　そりゃ、幼馴染がボロボロになってるの放っておけないだろ。
　それに……ホストにハマるのを止められなかったのは、俺の責任でもあるしな。
　本当はさ、高校の卒業式でお前に告白しようと思ってたんだ。
　でも勇気が出なくて、そのまま離れ離れになっちまった。

　彼氏ができた経験もないお前が、都会の大学で変な男に引っかからないか心配してたんだけど、予想が当たっちまった。
　同じ大学に行こうとしたんだけど、俺の家、商売やってるだろ？
　だから、地元の大学しか許さないって反対されて。

　何度も会いに行こうと思った。
　で、実際に会いにいけたときには、もう大学をやめていなくなっちまってたって訳だ。

　ありとあらゆる手段を使って探したんだぞ？
　でも、ほとんど痕跡が残ってなくて。
　同級生だった子から聞いた情報をたどったら、あのホストクラブに行きついたって訳だ。

　俺さ、いつかあの時できなかった告白をしようと思って、
　学業も仕事も相当頑張ってきたんだ。
　不自由させないくらいの金も稼げるようになったし、
　商売も安定してるから、これから困る事も無い……と思う。
　まあ、借金の額が額だったから、今の貯金は殆ど無いんだけど。
　でも、毎月ちゃんと稼いでくるよ。

　だからさ……お前さえ良ければ、だけど。
　俺の所に来ないか？

　こんな告白の仕方、ずるいのは解ってる。
　でも、やっと会えたから、もう手放したくないんだ。
　大学も行き直したければ行けばいいし、働きたいならうちで雇えるし、家に入りたいならそうしてくれれば良い。
　他の誰でもない俺が、幸せにしたい。

　……答えを聞かせてくれ。
　……本当か？　俺でいいのか？
　そうか……いざ望んでいた答えが聞けると、嬉しくて言葉が出ないな。

　ありがとう。幸せ過ぎて、天にも昇る気持ちってやつだ。
　あの……抱きしめても、いいか？
　触れるぞ。
（耳元で）好きだ……ずっと、ずっと好きだった。
　これからも、一生誰よりも愛し続けるし、死ぬまで側で支えていきたい。
　二人で幸せになろうな。

・台本（ゆるボイ！）
借金地獄のあなたに手を差し伸べる幼馴染
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
惹尾くろん