これは、とある事情で耳かきが管理された世界のお話

(ＳＥ：荒くドアを叩く音)

おい！居るのは分かっている！

開けろ！

開けなければ、ドアを壊させてもらう！

５秒数える間に開けろ！

でなければ、ドアを壊す！

５！、４！、３！、２！、１！

(ＳＥ：ドアの開く音)

ほう、素直なのは褒めてやろう

上がらせてもらうぞ

貴様には話がある

(間)

さて、貴様は何故、私がここに来たか分かっているか？

(間)

心当たりがないだと？

貴様！しらばっくれる気か！

自分がどれだけの事をしたのか分からないのか！

悪い事などしていない、だとぉ？

ふざけるのも大概にしろ！

３０分ほど前、貴様の体から耳かきの反応が検知された！

この国では、個人の耳かきは禁止されている！

知らない訳ではあるまい。

出せ。

何を？ではない！

耳かき棒を出せと言っている！

反応があったという事は、貴様は耳かき棒を所持しているはずだ！

禁止されている耳かきのみならず、耳かき棒まで所持しているとなれば、貴様は重罪だ！

終身刑も覚悟しておけ！

この国に住んでいる以上、貴様は知っていたはずだ。

この国で個人の耳かきは違法。

私のような耳かき管理官でなければ、耳かきを行えない。

耳かきの資格を持っている管理官に連絡し、耳かきをしてもらうのが常識であろう！

まさか貴様、耳かき税を納めていないのか？

耳かき税を納めていれば、耳かき管理官から無料で耳かきを受けられる。

耳かき税は自由納税ではあるが、納めていなければ、我々耳かき管理官から耳かきを受ける場合には高額なお金がかかる。

国民のほぼ１００％が納めているのだぞ。

税金を払うのも、耳かき料を払うのも嫌だという事か？

税金を納めて無料で合法的に耳かきを受けるのと、税金を納めず、自身で違法な耳かきをし、２度と牢獄から出られなくなるのは、どちらが良いか言うまでもないはずだ！

貴様の場合は、耳かき棒を所持しているのも原因だがな。

(間)

ん？

貴様、他国から来た人間なのか。

仕事の都合で先日越してきたばかりか。

(間)

うむ……身分証か。

確かにそのようだな。

貴様の国では自由に耳かき出来るのか。

耳かき棒もその国から持ち込んだと。

何故、検問で没収されなかったのかは疑問だが、持ち込んでしまったものは仕方ない。

今回は特例として、注意に留めておく。

次からは気を付けろ。

何度も言うが、この国で個人の耳かきは禁止だ。

来たついでだ。

話を聞かず、一方的に色々と行ってしまった詫びに、耳かきをしてやろう。

ソファーを借りるぞ。

っしょ。

よし、私の脚に頭を乗せてくれ。

遠慮はするな。

これは詫びだ。

それに耳かき管理官の私の仕事でもある。

私にされるのは嫌か？

無論、強制ではないが、どうする？

(間)

ふむ、耳かきしても良いのだな。

(どちらの耳からでもオッケー)
ではまず、右耳(左耳)からやっていくぞ。

動かないでくれ。

(耳かき開始。時間は自由)

(しばらく無言で耳かきした後に台詞)

先程はすまなかったな。

貴様の話を何も聞かずに声を荒げてしまって。

しかし、他国から来たとはいえ、入国する国の重要な法律くらいは事前に頭に入れておくものだぞ。

でなければ、今回のような事になる。

この国では、耳かきの資格を持った管理官以外が耳かきを行うのは重罪なのだ。

貴様は知らないだろうが、今この国では病が流行していてな。

耳の神経が異常に敏感になり、耳かきにより発生する快感が常人の数倍から数十倍になってしまう。

それ故、耳かきの快感に溺れ、中毒になり、やめられなくなってしまうのだ。

少し耳かきに集中するぞ。

(無言で耳かき。時間は自由)

(耳かき終わり)

よし、後は梵天で仕上げだ。

(梵天。時間は自由)

よし、終わりだ。

次は反対の耳だ。

頭の向きを変えてくれ。

(間)

それでいい。

では、失礼する。

(耳かき、反対側。時間は自由)

(しばらく無言で耳かきの後に台詞)

先ほどの話の続きだが、他国の者からすれば、耳かき程度で大袈裟な、と思うかもしれない。

だが、病によって敏感になった耳の快感は想像を遥かに越えるものだ。

だから貴様もこの国に長期滞在するのは避けた方がいい。

仕事を早々に終わらせ、出来る限り早く帰国すべきだ。

知らず知らずの内に病に侵されていて、耳かきをしてしまった人達は、みな正気を失い、耳から出血しても尚、耳かきを延々と続ける。

そして最後は、再起不能になる。

脳が快感に耐えられず壊れてしまい、廃人と化してしまうのだ。

私達、耳かき管理官は、それを防ぐ為に存在している。

適切な角度や速度、力などで耳かきを行い、必要異常に快感を与えないようにしている。

罪が重いのは、絶対に自分で耳かきをさせない為だ。

税金は、病の研究や、私達の給料に充てられている。

耳かきを高額にしているのも、納税を促す為だ。

不本意だが、運営していくには、税金が不可欠なのだ。

厄介な病だよ……全く。

本来は必要のない税金だ。

耳かきをするのも本来は自由なものだ。

管理されるのは苦痛でしかないだろう。

あっ、すまんな。

耳かきの最中にこんな話をしてしまって。

しばらく黙るぞ。

(無言で耳かき。時間は自由)

こんなものか。

梵天で仕上げるぞ。

(梵天。時間は自由)

よし、終わりだ。

両耳とも綺麗になったぞ。

これで、しばらくは耳かきしなくても大丈夫だろう。

先ほどは早く帰れと言ったが、貴様は一時滞在か？

一時滞在の他国の者は納税義務が発生しない。

１回の耳かきも高額にはならないから安心しろ。

１年以上の長期滞在になる場合は、我々、耳かき管理官が耳のメンテナンスも兼ねて、定期的に税金を徴収しに来る。

原因が分からない病だが、くれぐれも気を付けるんだぞ。

本当は他国からの人間は受け入れない方が良いのだが、物資のやり取りで、どうしても入国してもらわねばならない事が多いのだ。

これ以上、長話するのも貴様の仕事の邪魔になるな。

私はこれで失礼する。

何か分からない事があれば、ここに連絡するといい。

また会おう。

貴様の耳かきに幸多からん事を願う。

(ＳＥ：ドアの閉まる音)

・台本（ゆるボイ！）
耳かきが管理された世界
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
如月英梨