《扉のSE》
《彼女帰宅、彼氏を見つけ恐る恐る「ただいま」と声をかける》
《ため息》
ただいま？…他に言うことあんだろ。
今何時だと思ってんの？

今日女子会で飲みに行ったのは知ってる。ちゃんと聞いた。
お前が終電までには帰るからって言ったのも聞いた。
なのに、何？お前時計見てみろよ。
終電なんてとっくの昔に終わってる。

あのさ。
何回もLINEした。電話も掛けた。でも繋がらない。
女の子だけでこんな夜遅くまで外にいて、
もしかしてなんかあったのかって、めちゃくちゃ心配した。
すっげえ焦ったし、もう気が気じゃなくて、
どこの店か聞いときゃ良かったって後悔して。
警察に連絡することまで考えたよ。
まだ連絡するには早いよな、だけど何かあったなら早い方がいいよなって、
何度も何度も110番しようとした。

お前さあ、分かってる？
お前のことになると俺、冷静でなんかいられないの。
何かあったらどうしよう、もう帰って来なかったらどうしようって、
そうやって悪いことばっかりずっとずっと考えて、
生きた心地がしなかった。
その時間がどれだけしんどかったか、お前分かんの？
《ため息》
泣くなよ。泣きたいのはこっちなの。

《少し声色を和らげて》
…あのね。
そんくらい焦って心配して、どうしようってなってる時にさ、
突然電話鳴って、お前かも、いやもしかしたら警察とか病院かもって
慌てて確認したら、お前の友達からで。
今解散した、お前はタクシーに乗ったけど、
お前のスマホ充電切れてたから代わりに連絡したって。
それ聞いてさあ、もう一気に脱力したんよ。俺。

…うん、そう。
お前と別れた後、ふと俺が心配してんじゃないかって思い立って、
わざわざ電話してくれたんだってさ。
優しくて気の効く友達持って良かったな、お前。
それがなかったら今頃こんなもんじゃ済まなかったからな？
もしかしたら警察がお前のこと探してたかもしれないんだからな？

まあ、その連絡があったから冷静にはなれたけど、
そこからふつふつと怒りが沸いてきちゃったから、
今こうしてお前は俺に怒られてる訳ですけど。

てかお前、いつもモバイルバッテリー持ち歩いてんじゃん。
それどうしたの。
…充電するの忘れてたあ？
あのなあ…今どきコンビニでも売ってるし、
でかい駅とかにレンタルもあるし、
タクシー会社によっては充電させてくれたりもする。
どうとだってできただろ。
まあでも多分、俺に心配かけてんじゃないかって不安になって、
とにかく早く帰ろうってそればっかり考えて、
全然思い付かなかったんだろ。しかも酔ってるしな。

はあ…まったく。
で、反省したの？
だったら、俺に言うことあるよね？
…ん。もういいよ。
ほら、こっちおいで。

《抱き締める》
おかえり。
何事もなく無事に帰ってきてくれて、本当に良かった。
…もういいって。久々の女子会でつい盛り上がっちゃったんだろ。
どれだけ遅くなっても、ちゃんと帰ってきてくれるなら、それでいいから。
でも次からはちゃんと連絡取れるようにして。絶対に。
分かった？
…ん。良し。

あーでも、俺をこれだけ心配させた罰はちゃんと受けてもらうからな？
はあ？当たり前だろ。お前に拒否権、ある訳ないだろ。
そうだな…じゃあとりあえず、
明日から1週間、家事当番全部代わってもらおうかな。
なに？なんか文句ある？
…だよねえ。ある訳ないよねえ。
あと明日の晩飯、生姜焼き作って。あと大根の味噌汁と、ポテトサラダ。
それから、んーっと…
…あ？当然、まだあるよ。
俺が心配した分、全部償うにはこんなもんじゃまだまだ足りないっての。

んー…よし、決めた。
今日は俺とくっついて寝ること。
そんで、朝は俺がいいって言うまで、ベッドから出ないこと。
ただでさえ女子会にお前取られたってのに、
こんなことにまでなって心配して、そのせいでお前が不足して大変なの。
一晩中ぎゅーってしてなきゃ、充電追い付かない。
もっかい言うけど、お前に拒否権はありません。

はい、分かったらとっとと風呂入っといで。
お前も酒飲んで帰り遅くなった上に泣いちゃって、疲れただろ。
それに、ちょっと煙草と酒の匂いもするし。
沸かしてあるから、ゆっくり浸かっておいで。
俺はここで待ってるからさ。
うん、行ってらっしゃい。

・台本（ゆるボイ！）
夜遅くに帰ってきた彼女に説教する彼氏の話
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
ちとせあられ