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愚かな老人の昔話を聞いてくれないか
written by 弐橋 葉
  • シリアス
  • 切ない
  • 父親
  • お爺さん
公開日2024年04月07日 13:45 更新日2024年04月07日 13:47
文字数
1022文字(約 3分25秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
男性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
あらすじ
家族との不和から、公園に逃げてコーヒー片手に時間を潰すことが日課のあなた。
そこに、公園でよく見かけるお爺さんが声をかけてきて……。

『お爺さん役』を要求する台本です。
あまり多くないのではないかなと思ったのと、『過去に戻ることは出来ない』『後悔しても遅い』というメッセージを込めたものを書きたくて書きました。
俺はお爺さん役も出来るぞ! という方にしっとり演じて頂ければなと思います。
本編
キミ。

ベンチの隣、いいかな。

……ありがとうね、どっこいしょ……っと。


私は散歩の途中この公園で一休みするんだけどね。

キミはよくコンビニのコーヒーを持ってボーっとしているよね。

暇なら、老人の独り言を聞いちゃくれないかね。

……ふふふ、ありがとう。


私にはね、息子と娘がいたんだ。

ひとりずつね。

でも、2人とも私のことが大嫌いだったよ。

良かれと思ってあれやこれや口出ししたのがどうもやりすぎだったらしい。

大人になって、子どもの目線を失ってしまったんだと気が付いたときには、もう全てが遅かったよ。


就職して家を出てから、めったに帰ってこなくなってしまった。

妻には寂しい思いをさせてしまったと思っているよ。

孫が生まれて、正月やお盆なんかの節目には帰ってくるけどそれだけだ。


そんな妻も2年前に死んでしまってね。

私以上に声を張り上げて泣く子どもたちを見て、バカな私はようやく気が付いたんだ。

妻にも、感謝の言葉をもっとかけておくべきだった……って。


きっと妻は、子どもたちにとっては盾だったんだろう。

怒って辛辣なことを言う私に泣かされたとき、決まって子どもたちは妻に抱きしめに貰いに行っていた。

私にとっても、これ以上なく良い妻だったよ。

いつだって私に寄り添って、一歩下がって後をついてくる、理想的な昭和の妻だった。


だから、妻が毎日私にしてくれていることが当たり前になってしまっていたのを後悔してしまった。

『ありがとう』という言葉はいつでも言えたはずなのに、妻がよく出来ていることに甘えて言わないでいた私の怠慢だ。

感謝していたことを、愛していたことを、きちんと伝え続けるべきだった。

言わなくても伝わるものもあるが、言わないと伝わらないことだってたくさんある……。



……何かを言いたいとき、相手に言える状況なら言ったほうがいい。

本音を言いたくなったときにもう手遅れということもあるんだ。

ましてや、空に昇られてしまっては言葉を届けようもないからね。


今の私は、妻の墓参りのたびにありがとうを伝えるようにしているよ。

今更かもしれないが、それでも言わないよりマシだと思ってね。

妻が亡くなってからあちこちがめっきり弱ってしまってねぇ、本当に参った。

私をどれだけ支えてくれていたのか、失くしてから気が付くなんて愚かな老人だろう?


……さて、独り言はこのくらいにしてそろそろ帰ろうかね。

キミもあまり長居しないで、日が暮れる前には帰りなさいよ。

もしキミからも話したいことがあるのなら、喜んで聞こう。

私も、とても暇だからね。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
愚かな老人の昔話を聞いてくれないか
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
弐橋 葉
ライター情報
イラストレーター、ボイスコとして活動中です。
文章を書くのも好きなので合間合間に台本も投稿していきたいと思います。
pixivにも台本をマルチしていますがこちらのほうが早いです。

何か琴線に触れたものがあればお気軽に演じてくださいませ。
使用報告も不要、口調や固有名詞の改変についても良識の範囲でいくらでもどうぞ。
楽しく使って頂くためでしたら如何様にもしてください。
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