両親が事故で死んでから、引きこもってしまった妹。
大学院をやめて、働き始めた兄。
苛立ちと不安の中で、やがて暴力が始まる。
きっと、この後も。

（場所//自宅の居間）

ああ、おはよう
朝はなんとか起きられるようになったか
どうだ。夜は、ちゃんと眠れてるのか

そうか　よかった
次、病院行くのは……確か、来週だったっけ
そうだっけ、って……おいおい、自分のことだろ
ああ、大丈夫。その日は休み取ったから、車で送っていくよ

それで
お前、今日……学校はどうするんだ
休む？……そうか。

……。
……いや　やっぱいい
ああ、ゆっくり休んでろ
仏壇に線香、上げとくんだぞ

早く元気になるといいんだけどな
お前、学校好きだったろ。友達も心配してるんじゃないか？
事故のこと、いつまでも気にして元気が無いと、母さんも成仏できないぞ

……成仏、か
はは　俺はそういうのは信じてない
いや、信じてなかった
いまも、心霊番組だのなんだの、ばかばかしいと思ってるよ
医学部だったしな　そんなもんいりゃ世話ないって思ってる

でもなんでだろうな
今は、母さん達がどっかで見守ってくれてるような　そんな気はするよ
……なんてな

じゃ、俺、仕事行ってくるから
ああ、頑張ってくる。……お前のためにも。

よく休むんだぞ

それじゃ

（状況//時間経過）
（場所// 妹の部屋の前　ドア越し）

おい

何の真似だ。開けろ。

誰が、鍵なんか掛けていいって言った

……返事しろ

調子に乗りやがって……
おい、開けろ！
開けろって言ってるだろ！

ちっ
何の真似か知らねえが
お前、今日からすむ家がなくなってもいいんだな

（状況//ドアが開く　妹が出てくる）

何してるんだ？
これ。なんで部屋に鍵なんか付けた。
だいたいどうやって……

なるほど、通販か。
あの箱はそういうことだったんだな。

お前、最近反抗的だな。
余計な金は持たせてないはずだが……
確か……本買って家で勉強するって言ってたっけ？

ああ、そーか、兄ちゃんの事騙してたのか

何とか言ったらどうなんだ！
もういい、もうお前に金は渡さない。
どうせずっと家にいるんだ。必要ないだろ。

兄ちゃんはなあ！
お前が！学校続けられるように働いてるんだよ！
なんもしてねえガキにプライベートなんかいらねえだろ！
……こんなもん、あとで外しておくからな

は？
……ヒイヒイ泣いてんじゃねえよ
ちょっと怒鳴られたくらいで大げさな……っ

で？
どんな了見で、鍵なんかつけたんだ

いいから答えろ。

ふうん　なんとなく　なんとなく、ね

……そんな言い訳が通用すると思ってるのか？
思ってるんだな　そういうふうに
そんな適当な嘘でにいちゃんのこと騙せるってお前は思ってるんだ

誤るな。
薄っぺらい謝罪なんかいらない。
お前のやっすい「ごめんなさい」は聞き飽きたんだよ。

お前はいつもそうだ……
甘えてばかりで、適当な嘘でごまかして、自分じゃ責任を取らない。
適当に、ごめんなさいごめんなさいって口先だけで謝って許してもらおうとする。

謝るなって言われたら、何も言えなくなったか？
そうだろうな、普段から、考えなしに謝ってるだけだもんな
謝ってればいつか許してもらえるもんな
「ごめんなさい」って言ってれば何にも考えなくていいもんなあ？

……なんだよその顔は！

はぁ　もういい

お前にはがっかりだ

お前は、俺がいない方がいいんだろ
だから鍵なんか掛けたんだよな
望み通り消えてやるよ
好きにしたらいい

お前はもう、俺の妹じゃない
家族でも何でもない

……何？
…………
別に、部屋行って寝るだけだよ

何？　お前何なの？　いいよ、兄ちゃんなんかいらないんだろ？
お前みたいな妹、俺は持った覚えはないって言ってるんだ
はあ？　誰だ？　お前。見たことないガキだな。
どうしてここにいるんだ？　もうお前と俺は関係ない、面倒も見ない。
勝手にしろ。

……へえ？
これからがんばる、って、何を頑張るんだ？
明日から学校行く？　俺の金で？
じゃ、学校辞めて俺みたいに働くか？
できないだろ、お前には

じゃあ、何を「頑張る」んだ？

……ほら、もう何も出てこない
お前の「頑張る」は所詮その程度なんだよ。

はあ、何でも言うこと聞く、ねえ
反抗しないで、俺の言うとおりにするって言うんだな

ははは
よく言ったもんだよ

わかった、来い
こっち　そこで後ろを向け
壁の方

じっとしてろよ
罰だ。

なんでも言うこと聞くんだろ？
口答えできる立場だと思うか？
なあ。どうなんだ、自分で。どう思う？
どういう立場か。分かって言ってるんだよな？

……「でも」？
「でも」って言ったかお前？
なあ　言ったよな今、「でも」って
なんでも言うこと聞くってのはウソだったのか？

泣けなんて言ってないだろ！
お前の泣き声聞いてるとイライラするんだよ。
気がおかしくなりそうだ……！

ああ、もういい。
お前と少しでも話そうとしたのが間違ってた。
そのまま、壁のほう向いてろ。少しでも動いたら承知しないからな。

（状況//ベルトを外す）

動くな。

引きこもりの役立たずの癖に
兄ちゃんに嘘ついて
部屋に鍵なんかつけて
ふざけた態度をとった罰だ

どんだけ痛くても、絶対動くんじゃないぞ。
ヒイヒイ泣くのもやめろ。気色悪い。
面倒見られてる分際で、これだけのことをしたんだ
こんなもんで許してもらえることに感謝するんだな

おい
返事はどうした
「ありがとうございます」だろ！

（状況//妹の背中をベルトで打つ）

煩い！
喚くな、じっとしてろ

（状況//妹の背中をベルトで打つ）

なに動いてるんだよ
何でこんな状況になってるのかもう一度考えろ

（状況//妹の背中をベルトで打つ）

口を閉じろ！！
何度言ったら分かるんだ……
物覚えも悪くなったんじゃないか！？

（状況//妹の背中をベルトで打つ）
（状況//妹がしゃがみ込んで泣く）

おい！！
まだ終わってないぞ
戻れ

戻れ！！

この……！！
なあ　俺は　俺はなあ
お前を殺してやりたいよ
なあ　こうやって！

（状況//妹の首を絞める）

息の根を止めてやりたい

なあ、どっちがいい
今、俺に殺されるか
大人しく、罰を受けるか

（状況//手を離す）

元の姿勢に戻りなさい

もうこんなことしないか？
兄ちゃんに黙って勝手なことしないな？

じゃあ、そのままじっとしてろよ
兄ちゃんが反省させてやるよ

（状況//妹の背中をベルトで打つ、複数回）

静かにしろ、近所中に聞こえるぞ
ああ、そうかあ　そうやって俺を悪者にしようとするんだな？
自分は暴力を振るわれてる可哀想な子ですってご近所様にアピールか？
あ！？

ごめんなさいごめんなさいって、ホントお前はそれしか言えないな……
何がごめんなさいなんだ
なにも考えずに許してもらおうとするな！

（状況//妹の背中をベルトで打つ、複数回）

ほら、

言えよ、ほらどうした
お兄ちゃんに迷惑かけてごめんなさい
なんにもできない役立たずのガキでごめんなさい
大人しく罰も受けられなくてごめんなさい
ほら謝れよ、謝るんなら、俺の言うとおりに！

（状況//妹の背中をベルトで打つ）

はあ……っ
はぁ、はぁ、はぁ……

…………。

あぁ……
もういいぞ

終わりだ、終わり
もういいよ　こんなもんで

せいぜい泣いて後悔してろ
今日は晩飯いらねえな
反抗的なヤツに食わせるもんなんてない
許して家に置いてやるんだから感謝しろ

あとで外しに来るから
鍵　閉めるなよ

（状況//時間経過）
（状況//妹の部屋のドアをノックする）

入るぞ

…………いや

その

今日は………

………なんだよ
そんなに怯えることないだろ

……もう怒ってないよ

鍵　掛けなかったんだな
いや……　まあ、俺が「掛けるな」って言ったんだけど

………

寝てたのか

そうか

今日は……　悪かったよ　少し酷いことを言いすぎた
ちょっと頭に血が上った

ホントに全部、お前のため……だと、思ってるんだよ
俺だって

学校のことだって……
お前には、早く元気になって欲しいんだけど
このまま留年なんかしたらさ　お前が困るだろ
進学も、就職だって不利になるし
お前が将来やりたいことも……

あ……いや
今は、やめるか　この話は

だけど　本当なんだよ
俺は……兄ちゃんは、お前のことを本当に大切に、思ってるんだよ
お前のことまで失いたくない……

もっと近くに来てくれ
わかってくれ……　にいちゃんがお前の事、本当に大事だ、ってこと
それだけは、信じてほしい……

お前も小さい子供じゃない
ずかずか部屋に入ってこられるのがイヤだとか
プライバシーがどうとか
少しは分かってやれるはずだよ
でも　黙って鍵なんか掛けられてさ、
……お前が、俺から離れてくみたいで、やだったんだ

お前は大切な、たったひとりの……俺の家族だ

ああ　ごめんな　悪かった
泣いていいから……こんなにいちゃんのこと、許してくれ

大丈夫だ
もう怒ってない
不安がらなくていい
お前とにいちゃんは、ずっと一緒だ

ずっと

……ごめんな

・台本（ゆるボイ！）
【DV/暴力】両親を事故で失った日から壊れてしまった兄妹
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
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