両親が離婚することになった。

僕は母に、姉は父についていくことになり、僕と母は、明日にこの家を去っていく。
これまで一緒に過ごしていた家族が、明日からいなくなる。
そんな日に、どうにも眠れなかった僕は、姉の部屋を訪れた……。

（ドアのノック音）
どうしたの？

うん、起きてるよ。
いいよ。入っておいで。

（ドアの開く音）

どうしたの？
明日、早いんだから、ちゃんと寝ないとダメじゃん。


……ふふっ、ごめんね。少し意地悪言ったかも。

明日から、両親が別々の家に暮らすことになって、私はお父さん、弟くんはお母さんについて行くわけだから。

一緒に過ごせるのは、これで最後。

私もね、そんなこと考えてたら、眠れなくてさ。
弟くんから部屋に来てくれて、良かった。


ねえ、最後にお姉ちゃんらしいこと、してもいい？

耳かき、してあげたいの。お願い。

小さい頃は、私が弟くんの耳かき、よくしてたでしょ？
物心ついた辺りから、弟くんが恥ずかしがってしなくなったけれど。

今日で最後だからさ、お願い。

ふふっ、ありがとう。
それじゃ、用意するから少し待っててね。


確か、この辺りに……あった。

はい、それじゃ、お膝においで。

耳かきなんだから、膝枕は当然でしょ？

膝枕ぐらいいいじゃない。
今日ぐらいは、恥ずかしさとか捨てて、甘えておいでよ。

私も、最後に、弟くんのこと、甘やかしてあげたいの。


うん、ありがとう。
何だかんだ、私の言うことを聞いてくれる弟くんのこと、好きだよ。
ごめんね、たまにパシリに行かせたりとかして。
お詫びってのとは、少し違うけど。今日は私がたっくさん甘やかしてあげるから。


はい、お膝にごろん。
まずは、右耳からやってくね。

かりかり、かりかり。

懐かしいね、ねえ、覚えてる。
昔は、弟くんの方から耳かきをせがんできたんだよ。
「お姉ちゃん、耳かきして！」って。

覚えてないの？　それとも、照れ隠し？
まあ、どっちでもいいけど。

私は、結構好きだったよ。弟くんに耳かきしてあげるの。
なんか、すごくお姉ちゃんしてる！　って気分になれたんだよね。弟のお世話をしてる私、マジでお姉ちゃんって感じで。

耳かきするのは、姉弟としてはやりすぎ？

そうかなぁ……でも、別にいいじゃん。うちは、そういう家庭だったってことで。

かりかり、かりかり。

ほら、ふーってするよ、
ふーっ……

あっ……体、跳ねた。
今の弟くんは、耳が弱いんだ。

ねえ、もう一回やってもいい？

ダメか……残念。
可愛い声聞きたかったのに。


はい、おしまい。
反対の耳やるから、体、ごろんってして。

よし、それじゃやってくね。


かりかり、かりかり。

少しさ、聞いてもいいかな？

私、ちゃんとお姉ちゃんやれてたかな？

ごめんね、変なこと聞いて。
でも、今日、思い切って聞いておかないと、もう聞けない気がして。

私が、君のお姉ちゃんで、良かった？

そっか。
その言葉が聞けて、私は幸せだよ。

こんなにも立派な、自慢の弟がいてくれて、お姉ちゃんは嬉しい。

酷いこと言ったり、酷いことしたり、ホントごめんね。
お姉ちゃんだからって、偉そうに説教したりして、ごめんね。
一緒について行かなくて、ごめんね。私がついて行かないと、お父さん、絶対まともに生活できないからさ。

……頑張るんだよ、弟くん。お男として、母さんをしっかり支えてやるんだよ。
私がいなくても、しっかりね。

ああっ、ごめん。
泣かせるつもりはなかったのに。

よしよし、ごめんね。
大丈夫だよ。両親は離婚するけれど、私たちが姉弟なのには変わらないんだから。

永遠の別れじゃない。
いつだって会えるから、ねっ？
だから、泣かないで。

うん、偉いぞ。さすが、私の弟。

頭撫でて、耳かき止めちゃっててごめんね。
続き始めるね。


かりかり、かりかり。

よし、おしまい。
どう？　少しは弟くんの癒しになれたかな？

お姉ちゃんらしく、やれたかな？

うん、ありがとう。
それじゃ、お休み。

……ごめん、やっぱ最後にわがまま、言ってもいい？

一緒に寝てくれない？
お姉ちゃんらしくなくて、ごめんね。
今夜は、今夜だけは、一緒に居たい。


うん。うふふ、やっぱり、お姉ちゃんの頼みに弱いんだから。

ほら、こっちおいで。
改めて、お休み、弟くん。
大好きだよ。

・台本（ゆるボイ！）
離れ離れになる姉との、最後の耳かき
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
チョンマー