主人公が自室にいると、未来から来たという謎が目の前に現れて…。
フリー台本です。ご自由にお使いください。

えへ。こんにちは。

ちょ、ちょっと、そんなに大声出さないで。

怪しいものじゃないよ。

どこから入ったかって？

今あなたも見てたでしょ？

パッ、て目の前に現れたと思うんだけど。

幽霊じゃないよ。失礼だなぁ。

私は未来から時間移動してきたの。この時空間ベルトを使ってね。

何？その顔は。信じてないね。

おっと、そんなことを話している場合じゃなかった。時間がないんだ。

ね、ほら。私の膝枕。ここに寝転がって。

(膝を叩く音)

ぼーっとしてないで急いで。

んもう、早く。

事情は後で話すから！



よしよし、いい子だ。

何するのかって？

耳かき。耳掃除をするよ。

いいから、右耳上にして。

えーと、耳かき。あれ、耳かきがない。

持ってきたはずなのに。

仕方ない、耳かきを分子形成！

よし。これでいいや。

え？どこから取り出したかって？

えーと、これは空気に含まれるチリやその他余分な元素を操作して形を作り出す……ってそんなことはどうでもいいから。

ほら、入れるよ。

(右耳かき開始)

あちゃー、やっぱりこんな感じかぁ。

うん、汚いと思うよ。すごく。

あなたの耳垢を一つ残らず綺麗にしなきゃいけないんだ。

これは骨が折れそう。



かりかり、かりかり。

どうだろ、気持ちいいかな。

ん……なんでこんなことをしてるか知りたい？

じゃ、教えてあげる。

バタフライエフェクトって知ってるかな。

1匹の蝶の羽ばたきが、巡り巡って遠くの場所に竜巻を起こすこともあり得るかもしれないって話。

今回もそれに似たようなことが未来で起きちゃったの。

今あなたが、私の耳かきを拒否すると、数時間後にあなたの耳垢が落ちることでね、結果的に未来に大災害が起こるの。

過去にない規模の竜巻が起きて、地上が大変なことになっちゃうんだ。

しかもその影響で、他の大陸も凍りついちゃったり……。

私達や生命が長く生きられる気温じゃない。

だから私が未来を変えるためにここに来たってわけ。

何？その顔。馬鹿にしてる？これは未来のスーパーコンピュータが出した答えなんだよ？

信じられないって、うーん……。

じゃあもっと分かりやすく説明してあげる。

風が吹けば桶屋が儲かる……というのはこの国のことわざだっけ。

強い風で砂ぼこりがたつと、それが目に入ったために目が見えなくなる人が出る。

その人たちが三味線を弾いて生計を立てようとして、三味線がたくさん売れる。

すると、三味線に使う猫の皮の需要も増えて、猫がへり、その結果、増えた鼠が桶をかじる。

最後には、桶がたくさん売れて、桶屋さんが喜ぶ、って話。

もちろんこれは作り話だけどね。

でも論理はこんな感じ。

どんなに小さなことでも、未来にどう干渉していくかを特定するのは非常に難しいんだよ。

今回はあなたの耳垢が結果的に大災害を引き起こす鍵になってたってわけ。

あなたの耳垢はある程度の質量を持ってる。それがね、運悪く引き金だったんだ。

(ため息)

んー、なんだか分かってなさそう。

まぁ……とにかくあなたは大人しく耳かきされてればいいの。



で、それはともかく。

どうかな。気持ちいい？

えへへ、それは良かった。

うんうん。

まぁ、ただでこんな美少女に気持ちいい耳かきをしてもらえるんだから悪い話じゃないよね。

普通この時代の価値観なら、お金が発生してるところだよ？

さて、こんなところかな。

じゃ……

(耳ふー)

うわ、ビクッとした。びっくりした？ごめんね。

でも良かったでしょ？えへへ。

はい、右耳終わり。

世界の危機が半分去ったよ。

じゃ、左耳上にして。

うん、両耳に決まってるじゃん。

はい。じゃあ入れるよ……。

(左耳かき開始)

かりかり。かりかり。

私がここにいるのは問題ないのかって？

うん。特殊なスーツを着てるから、私から塵とかゴミが落ちることはないし、大丈夫だよ。

それに、時間は線路みたいになってて、基本的には同じところに行き着くから。

線路の横で何をしたって、線路のレバーを切り替えないと電車の進行方向は変わらないでしょ？

えへ、混乱してる。いいんだよ、そういうものだって思っておけば。

だからね、あなたの耳垢は本当に特殊なケースなの。

時間の進行方向を丸ごと切り替えちゃう。

これってすごい小さい確率なの。

未来のコンピュータでも特定するのに7年かかってるんだから。

でも、その代わりあなたの耳垢を取り除けば災害は来ないことが分かったから。頑張らなきゃ。

かりかり。かりかり。



え？未来はどんな所かって？

えへ、もしかして信じてくれたの？

なんとなくって……まぁいっか。

未来はね、うーん……。

あんまりいいところではない、かな。

人間のやれることはもうほとんどなくて、労働力は全部ロボットが担ってるから。

人間は頭脳労働ばかり。それも必要ない時は、遊んでばかりだよ。


羨ましいって？

そうなのかな……。

生きがいがないのもあんまりね。

娯楽ばかりが蔓延しても、人は飽きちゃうから。

でも何もしないと、それはそれで気が狂いそうになるし。

暇つぶしに一生を捧げなきゃいけない人生って辛いと思わない？

私からは、時間を観測してる時、あなたたちは素晴らしく魅力的な生活を送ってるように見えるよ。

あー、楽しそうだな、羨ましいなぁ……って、思ってる。

まぁ、私は今みたいに、時間を移動したりして面白おかしく生きてるつもりだけど。

それでも、あなたたちみたいにキラキラした生活とは、思えないな……。



さてと。

それじゃ、こっちも耳ふーするよ。

覚悟はいい？

(左耳ふー)



それじゃ、終わり。
えへへ、ご協力ありがとう。

未来の危機は去ったと思う。ほんとにありがとね。


今日は私も会えてよかった。

一度あなたに会ってみたかったんだ。

こういうとあれだけど、こんなことになってよかったなって思ってたり。


ん……？ううん。

私がここにいたことは、しばらくすれば忘れちゃうよ。

私は元々この時間に存在するものじゃないから、そのうち存在した痕跡が無くなると思う。

だから残念だけど、これでさよなら。

それじゃ……。



あ、そうそう。最後に一つ。

ちゃんと未来では、私のママと仲良くしてね。

えへへ。

じゃあね、おじいちゃん！

・台本（ゆるボイ！）
未来から来た謎の少女の耳かき
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
白浜22