殿下。まんまとわたしの術にかかりましたね。

はい。今先ほど殿下がこじ開けていようとしていた扉は幻視の扉です。

そこから先は何もありません。

さ、殿下。無駄なことはやめて部屋にお戻りください。

…殿下。恐れながら申し上げます。

殿下はいささか責任感が強すぎます。

元はといえば、これは天界と地獄との問題。

本来、人間である殿下の出る幕はございません。

殿下は悪魔に人質にとられてしまっただけの被害者。

こうして我々に奪還された以上、殿下が気に病むことなど何もないのです。

なぜそうまでして、ここを出ようとするのですか？

地獄の魔王が、殿下の友人…？

なるほど。事情は大体理解しました。

しかしながら、魔王に身を落としたのは彼自身の意志。

彼が魔王となって世界を滅ぼすと決めた以上、殿下にそれを変えるすべはございません。

はい。悪魔の寵愛を受けるとはそういうことです。

残念ながら、彼は二度と元の人間に戻ることはできません。

堕ちるところまで堕ちた以上、我々の手で倒すしかありません。

まだそのように仰るのですか…

半端な希望に縋りついてると、苦しむのは殿下なのですよ？

はっきり申し上げますが、彼のことは諦めてください。

いくら殿下といえど、彼を救う手立てはございません。

それにこれは、我々からの慈悲でもあるのですよ？

はい。ご友人を一刻も早く、穢れという苦しみから解放するためには、この世から消滅させるしかないのです。

殿下…お辛い気持ちは分かります。

しかし、ご友人のことを思えばなおのこと、こうするしかありません。

いいえ。殿下がそのような辛い役回りを必要はございません。

天帝陛下と、我々天使にお任せください。

必ずや彼を救済してみせます。

殿下は我々を信じて、ここでお待ちください。

殿下…？いかがなされましt……ッッ！

殿下…先ほども申し上げたはずです。

無駄なことはやめて部屋にお戻りください、と。

わたしに対して不意打ちをしかけるとは…

いいえ、卑怯だとは申しません。

なんとなく予想はできていましたから。

それに今の殿下ではわたしには敵いません。

地獄の慣れない空気にあてられた疲労、まだ抜けきっていないでしょう？

無理もありません。

あそこは空気が澱(よど)み切っていますから。

天界の清浄な空気に慣れてきたそのお身体で地獄に行けば、万全の状態になるまで、どうしても時間がかかるでしょう。

殿下…疲れているところ申し訳ありませんが、これをご覧ください。




いかがでしたか？

皆、いかに殿下のことを心配していたか、これでお分かりいただけたでしょう？

はい。先ほどの映像はわたし、ラミエルの能力。

わたしには神々のメッセージを映像化して見せる力がありますから。

これを見てまだ、戦場に出向くと仰りますか？

…仕方ありません。

申し訳ありませんが念のため、御身(おんみ)を拘束させていただきます。

これでもう動けないでしょう。

わたしは雷(いかづち/かみなり)の力を持つ天使ですから…

わたしの許可がなければ、その痺れはとれません。

気持ちが落ち着くまで、大人しくするのがよろしいでしょう。

…強引なやり方なのは謝罪します。

しかし、こうすることが殿下とご友人のためなのです。

天使の名にかけて、お二人のことは救済してみせますから。

殿下…貴方はこれまでも天界のために立派に戦ってこられました。

だからこれ以上はもういいのです。

殿下は天帝陛下と結婚しさえすれば、それでよいのです。

そうすれば天界の秩序は保たれ、殿下の幸せも保証されますから。

改めてラミエルからのお願いです。

我々を信じてここでお待ちください。

万事、上手くやってきますので。

ご自身を大切になさることこそ、貴方のなすべきことなのです。

ご理解のほど、どうかよろしくお願い致します、殿下…

・台本（ゆるボイ！）
何が何でも天帝の夫にしたい大天使に監禁された〜慈悲のラミエル編〜
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
松平蒼太郎