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【ミステリー・ルーム1】
written by 東田旧作⚯✦
  • ミステリー
公開日2022年07月02日 15:54 更新日2022年07月02日 15:54
文字数
3934文字(約 13分7秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
2 人
演者役柄
【男性】:探偵/【女性】:女学生
視聴者役柄
聞き手
場所
探偵事務所
あらすじ
密室で起きた事件のみを解決する、【密室派探偵】と、探偵助手になりたい【女学生】の押し問答。探偵は助手を取るつもりはさらさら無い。今日も探偵事務所に押しかけてきた女学生を追い返すべく、探偵はとある謎掛けを始めるのだが……
本編
【ミステリールーム】東田旧作
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【役表】
【男性(1)】:探偵(先生)…密室で起きた事件のみを解決する探偵。密室派探偵。
【女性(1)】:学生(助手)…自称、探偵助手に憧れるうら若き女学生。
※最後の文章を読むか読まないかはお任せします。
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【数回つよめに、ドアをノックする音。】
 
学『——先生。せんせー、入りますよ!』
 
探『…なんだ、夕刻に、騒々しいな。』
 
学『私です!あなたに憧れて探偵を目指すうら若き女学生です!』
 
探『その小説の書き出しみたいな自己紹介文は何度も聞いた。君の名前なんて知らないが、懲りないね。最近毎日来ているじゃないか。』
 
学『ふっふっふ、今日こそ、あなたの助手にしてもらう為に、心を込めて!お願いしにきました!たのもーーッ!』
 
探『叫ぶな。道場破りか君は。ご近所さんに迷惑だろう。最近苦情が殺到していることを知らないのか。誰かさんのせいでな。』
 
学『これじゃ、道場破りならぬ、探偵事務所破りになりますね!血が騒ぐなぁ、燃えてきました!是非、お手合わせ願いたいものです!』
 
探『案外、好戦的なんだな。唐突な挑戦状に戦々恐々《せんせんきょうきょう》だよ僕は。どうしてくれるんだ。苛烈《かれつ》な言い合いに膝が震えてしまうね。もうガクガクしてるよ。』
 
学『へー。大変ですね。膝はお大事になさってください。グルコサミンいりますぅ?』
 
探『いらん!いいから帰れ。毎日来るんじゃない、僕は忙しいんだ。』
 
学『継続は力なり!元気いっぱい、質実剛健《しつじつごうけん》なのが私の取り柄なので!簡単には折れませんよ。で?なーに小細工してるんですか。ドア、開かないんですケド。』
 
探『ああ。君の推測通り、扉を背にして寄りかかっているよ。これでもかと、体重を、し、っ、か、り、掛けてね。君が僕の拒否に関係なく、否応《いやおう》なしに、ドンドンガチャガチャとうるさいドアノブを、力一杯、押さえ付けているところだ。』
 
学『わッかりやすい状況説明、ありがとうございまーす。さっすが、探偵さんですネ。じゃあそろそろ、無駄な抵抗やめて、大人しく出てきてください。』
 
探『探偵に言うセリフじゃあないな。上等だ、居直《いなお》り強盗にでも言ってやれ。立てこもり事件の時に聞きたいね。』
 
学『ええ!勿論。それはそれはぁ、先生の助手になって、是非、言ってみたいですねぇ。そろそろ、いい加減にしないと、この扉蹴破りますよ。いいんですか先生。私、実は格闘技習ってるの、言ってませんでしたっけ。』
 
探『おっと。探偵を脅しに来るとは中々やるね。扉を破壊されるのは予想外、修繕費も馬鹿にならないな…仕方ない、入りたまえ。』
 
学『はい!お邪魔します!』

【——扉の開く音。】
【入室、椅子に座る。】

学『お茶まで出してもらって、ありがとうございます。お菓子も食べたいです。』
 
探『わがままだな。せんべいしかないぞ。醤油味。』
 
学『運動部だから、お腹すいちゃって。いただきます。』
 
探『ちなみに、なんの部活なんだ。』
 
学『空手にムエタイ、テコンドーです。』
 
探『勇ましいな。』
 
学『助手になるための努力のひとつに過ぎませんよ。』
 
探『しかし毎日毎日、本当に懲りないな。そんなに僕の助手になりたいのかね。』
 
学『はい!小さい頃からの夢です。密室事件専門の探偵、先生の助手になることが。』
 
探『なんだ、君は進路希望調査の用紙に、探偵助手とでも書いたのか。』
 
学『ええ書きましたよ!第一希望の欄に、習字の楷書体で達筆に。』
 
探『しかし、探偵業も大変だよ。見習いも、助手も然り。』
 
学『心得ておりますとも!雑用でもなんでもやっちゃいますよ!』
 
探『へぇ、君に何ができると言うんだ。』
 
学『おっ、アピールしちゃっていいんですかぁ?
エート、特技は……掃除洗濯、家事全般できます。料理も。それから華道茶道嗜んでます。裁縫も大丈夫です。英語、中国語、韓国語、アラビア語、スペイン語、フランス、ドイツあたりは一通り話せます。それから……』
 
探『思った以上に器用だな。優秀すぎて怖いまであるぞ。探偵なんかより、他のことに活かしたらどうだ。警察とか公安、FBIの方が向いてるんじゃないか。』
 
学『shukranjazilan《シュクラン ジャジーラン!》!(ありがとう!)』
 
探『アラビア語で礼を述べるな。然し、ひたむきだな……では物は試し。君が助手になれるかどうか、ひとつテストをしてやろう。』
 
学『よーし、望むところです!』
 
探『僕が試すのは君の推理力だ。実際に僕が解決した、密室で起きた事件を問題にする。』
 
学『エッ、本当にあった事件ですか!?しかも、密室トリック。』
 
探『ああ。水平思考クイズの形式にしよう。』
 
学『ウミガメのスープで有名な、はいといいえで答えられる質問をして、事件の真相に迫るッてヤツですね!』
 
探『そうだ。君にこの謎が解けるかな?……ぜひ、これを聞いている皆さんも、一緒に考えてみてくれ。 』
 
学『……せんせい?一体誰と話しているんですか?』
 
探『いや、君には関係のない話だ。では問題。』
 
学『はい!』
 
探『これはとある地下室の話だ。小さな女の子は、両親にこう言いつけられていた。
 「決して、地下室の扉を開けてはならない。見てはいけないものがあるから」と。』
 
学『はあ、見ては、いけないもの。』
 
探『しかしある日、女の子は、両親がいない間に、地下室の扉を開けてしまったんだ。そこで、あるものを見てしまったのだが……』
学『その、「見てはいけないもの」とやらの正体を、言い当てればいいんですね。』
 
探『ああ。質問を開始してくれ。』
 
学『やってやりますよ!んー…見ちゃダメ、見てはいけないもの……ハイッ、それは死体ですか?』
 
探『いいえ。安直だな。これは密室で起きた事象だが、殺人事件とは言った覚えはないぞ。』
 
学『密室殺人じゃないのかぁ。えーと…じゃあ、女の子は地下室の扉を開けてしまったんでしょう。なにか、危ない目にあっちゃったのかな。』
 
探『NO。危険な目には遭っていないよ、 強いて言うなら、女の子は驚いた。それを目にして驚いた。』
 
学『驚いた。ふーん、びっくりしたんだ…意外性のあるもの。驚愕。地下室には隠されていた。両親は、何かを隠していた?』
 
探『YES。本来ならば入れられるハズのないものが、地下室に隠されていた。』
 
学『無機物ですか?』
 
探『違います。』
 
学『ならば生き物!』
 
探『その通り。いい質問だ。』
 
学『回答に、迫る迫る。迫り来る。真実を。謎を説き明かす。紐解くの。親は見せたくなかった。女の子に、生き物を見せたくなかったのには、なにか理由があった?』
 
探『限りなく近い、近い。これもまた、いいえ。両親が見せたくなかったのは生き物じゃない。』
 
学『——ア。解った。先生、分かりましたよ、私。』
 
探『では、君の推理を聞かせてくれ。』
 
学『聞かせましょう!聞いて驚いてくださいよ先生!理屈で推し量る推理ッてやつを!目にもの見せてやりましょう!結論からいいます。「見てはいけないものの正体」。それは、——女の子ですね。』
 
探『ほう。どうしてそう思った?』
 
学『話を聞いて、最初、私てっきり、扉は地下室側に開かれたと思っていました。でも、違ったんですね、先生。——扉は、地下室から、「外」に出る為に開かれたんだ。』
 
探『続けてくれ。』
 
学『女の子はその日、言いつけを破って外に出た。両親の手によって地下室に閉じ込められていたのは、「女の子」だった。』
 
探『それが君の答えかね。』
 
学『…ッはい。』
 
探『ファイナルアンサー?』
 
学『ファイナルアンサー!最終回答です。』

探『……正解だ。お見事だな。』
 
学『やったーーッ!どうだ見たか先生!やりましたよ私!』
 
探『補足をつけるまでもない、綺麗な回答だったが、まだ序の口だ。調子に乗らないこと。』
 
学『でも!当てられましたもん。ところで女の子は、無事だったんですか。』
 
探『ああ。僕が保護した。今は別の親元でたくましく育ったよ。最近も会いに来るくらいだ。当の本人は、覚えていないようだがね。』
 
学『へー。助けて貰っておいて薄情なヤツですね、そいつ。』
 
探『まだ小さかったからな。覚えていないのも無理ないよ。しかし、約束は約束……ふむ。君、明日、学校は休みか?』
 
学『え?はい、部活もないですけど…』
 
探『実は依頼が来ている。勿論、密室事件だ。明日の早朝に出発する。折角だから同行してみるか、探偵助手見習いとして。』
 
学『それは勿論、ッ行きます!絶対行きますッ!』
 
探『…解った。あとで詳細を送る。君、学校帰りにそのまま来たんだろ。もう晩御飯の時間だ。食べてくか。』
 
学『いいんですか!ちなみに今日の献立は?』
 
探『ハンバーグとオムライス。』
 
学『かわいいところあるんですね、先生。』
 
探『…まぁな。にんじんのグラッセもついてる。』
 
学『女子力高。カロリーも高い。サラダつけてくださいよ。』
 
探『まだ見ても食べてもない飯に文句を付けるなよ、文句を。ホラ、手、洗ってきなさい。ご飯にするぞ。』
 
学『はーい!』
 
探『——これもまた因果律か。大きくなったな、……春。』

(間)

学『(密室専門の探偵と、その助手見習い。二人が挑む謎とはこれ如何に。活躍が待ち遠しいですが、この話は一旦、ここでおしまい。いつかまたミステリールームでお会い出来ることを、楽しみにしています。それでは、お先に失礼。)』

【——バタンと、扉の閉まる音。】
【密室から、謎掛けから、そしてふたりがいた、|ミステリールーム《謎解き部屋》からの退室。】
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
【ミステリー・ルーム1】
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
東田旧作⚯✦
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