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かえる姫とかに王子
  • ファンタジー
公開日2022年07月17日 14:11 更新日2022年07月17日 14:23
文字数
2365文字(約 7分53秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
あらすじ
絵本みたいな朗読
本編
むかしむかしあるところに かえるのお姫さまがいました

かえる姫は島の人気者でした

だれよりも歌が上手で、だれよりもとおくの葉っぱにジャンプできます

ある日、お散歩にでかけようとすると、家来のからすが心配そうに「カァー」と鳴きました

「お散歩なら わたくしめもついていきます」

からすはいっつも心配する役目でした

でも、かえる姫はもう大人です

しっぽだって昨日なくなったんです

「だいじょうぶ、遠くまでいかないわ」

ぴょんと城門をひとっとび!

そうして畑をひとりで歩いていると

今度はかかしが声をかけてきました

「こんにちは、お姫さま。今日はとびっきり暑い日なのでお気をつけてくださいね」

かえる姫は不思議そうにかかしを見上げました

「こんなに暑いのにどうして畑に立っているの?」

「畑を身守るのがかかしの役割ですから」

かかしはお辞儀をして小さな日傘をかえる姫にプレゼントしました

そうして浜辺を歩いていると かに王子にばったり出会いました

かえる姫はにっこり笑顔でごあいさつ

「ごきげんよう、シザーハンズ」

かに王子もハサミでチョキチョキごあいさつ

「ごきげんよう」

しかし兄弟かにたちのようにはうまくいきません

かに王子のハサミは兄弟かにの中でいちばん小さかったのです

かえる姫は思わず けろけろと大声で笑ってしまいました

「あなたはかにのクセに ハサミが小さいのね!」

かえる姫のきれいな声は島中に広がり

かえるたちがいっせいに かに王子をばかにしはじめました

「いちばん小さなハサミ!」
「おくびょうな かに王子!からだも小さい かに王子!」
「枝も切れない!海藻も切れない!」

かに王子はついに泣きだしてしまいました

かえる姫が帰っても丘の上でずっと泣いていました

涙をふこうとしても自分の顔をきずつけてしまいます

かに王子の家来のかたつむりが言いました

「かには涙をながしてはいけません。涙をふこうとして自分をきずつけてしまうからです」

かにはつよくなければなりませんでした

そして、ながい雨がおわり

お祭りの日がやってきました

島中のいきものがあつまり

かえるのお姫さまの歌でおどり 歌を歌います

かえる姫もこの日のために 1年もがんばって歌をれんしゅうしました

なんたって主役はかえる姫!

「わたしの歌声をきいて王子さまたちがうっとりしてくれるはずだわ! 誰と結婚しましょうか!」

かえる姫はドキドキしていました

しっぱいはできません

しかしたいへんなことに気がつきました!

「ドレスがないわ!」

歌のれんしゅうで すっかりわすれていました

きれいなドレスがなければ誰も歌をきいてくれません

家来のからすは一目散にお城をとびだし

ドレス職人をさがしました

東にも、西にも、南にも、北にも、岬にもドレス職人はいませんでした

もう島中のいきものがお城にあつまっています

「たいへんもう時間がないわ!」

そこにあらわれたのは かに王子です

かえる姫はまた かに王子をばかにしました

「小さなハサミで何ができるの?」

かに王子は小さな声で言いました

「僕の小さな ハサミでは枝も切れないし、海藻も切れない。でも君のためにきれいなドレスはつくれるよ」

かに王子はからすの羽で、あっという間にきれいなドレスをこしらえました

まっくろなドレスなんて誰も見たことがありません

「あなた わたしをばかにしているのね!」

かに王子は横に歩きます

「つよきな君に黒はとってもよくにあっているよ」

かえる姫は黒いドレスを着たまま

おこって みんなの前にとびだしました

黒いドレスを見た島中のいきものは

いっぱいの拍手でかえる姫を歓迎しました

「すてきな黒いドレス!」
「だれがつくったの? とてもせんさいでしんぴてき」
「何色にも染まらない黒 かえる姫にぴったりだわ!」

かえる姫が歌いだすと 島中のいきものたちが歌いだします

かえる姫がおどりだすと 島中のいきものたちがおどりだします

お祭りがはじまりました

歌は大成功!

でも かに王子の姿はありません

かえる姫は家来のからすにききました

「かに王子はどこ? わたしお礼を言わなきゃ」

「かに王子はお城をでていきました。また泣いていましたよ」

かえる姫はお城をとびだし かかしに聞きました

「かに王子はどこ? ばかにしたことを謝らなきゃ」

かかしはグーっと背伸びをして島中を見回しました

「かに王子は丘にいきました。お祭りなのにひとりぼっちですね」

かえる姫はぴょんぴょんと丘をのぼり かたつむりに聞きました

「かに王子はどこ? 会いたいの」

「かに王子は丘のてっぺんにいます。だけどいまさら かに王子と仲直りするんですか? これだけ かに王子をばかにして いまさら仲直りしようとするんですか?」

かたつむりのことばは ゆっくりでしたが

かえる姫は胸がはりさけそうでした

丘のてっぺんに かに王子がいました

かに王子は ハサミでチョキチョキとごあいさつ

「こんばんは、かえる姫」

「こんばんは、シザーハンズ」

かえる姫は かに王子をばかにしたことをあやまりました

「小さいハサミだってばかにして、ごめんなさい」

かに王子は はにかみながら「いいんだよ」と言いました

「君のドレスすがたが みんなにほめられた時、ぼくはうれしくて泣いたんだ。ぼくのハサミはたしかに小さいけれど、だれかの役にたつんだって。社会で生きるためにはどうしても1つくらい役割が必要らしい。ぼくの役割は食料問題を解決したり経済を動かしたりできないけれど、君を笑顔にできた。それがぼくの一生の役割で良いと思えたんだ」

かえる姫は かに王子の涙をふきました

「かに王子 わたしをゆるしてくれる?」

「もちろんさ」

お祭りはおわりです

でもいきものたちの歌が鳴り止みません

「かに王子 わたしをだきしめてくれる?」

かに王子はチョキチョキと小さなハサミをうごかして 困ったように笑いました

「できないよ 君をきずつけてしまうから」
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
かえる姫とかに王子
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
中尾孝雄 a.k.a エマノン
ライター情報
生粋のポエマーです。
ポエマー乙!!!!

読み終わって、ちょっとでも心動く。
そんなものを書きたいという漠然とした衝動に駆られてキーボードをぽちぽちします。

情景描写は自慰行為
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