おや、ようやく目が覚めたんだね……おはよう、気分はどうかな？
あはは、君がそんな顔してるの、初めて見たかも。
仲間……じゃなくて、元仲間の子達には、そういう可愛い顔をいっぱい見せてたのかな。
もしそうだとしたら、なんだか羨ましいな。
魔王と勇者っていう立場の違いさえなければ、僕も君の傍で──って、今はそんな事どうでもいいか。
大丈夫、僕はもう君に手を出したりしないよ。
僕は君と正々堂々と戦って、そして負けたんだ……悔しいけど、それは事実だからね。
魔王と勇者の戦いは、勇者である君の勝ちだ。
あー……でも、その後に起こったことは……本当、なんて言ったらいいのか……

まさか君、味方に裏切られちゃうなんてね。

誤解されたくないから言っておくけど、僕はあの子たちには何もしてないよ。
あれは間違いなく、君の仲間達が自分の意思でやった事だった。
君を後ろから斬りつけた騎士……あの子、君の相棒だっけ？
「魔王が居なくなったこの国には、お前みたいに突出した個人は必要ない」って言ってたけど……彼女、本心からそう言ってた。
まぁ、僕と僕の部下が君を助けたおかげで、勇者殺害は未遂で済んだけどね。
あはは、そう残念そうな顔しないでよ。
確かに余力は残してたけど、それも君の救出と治療で使い果たしちゃったから。
自分で言ってて悲しくなるけど……今の僕は、君がその気になれば簡単に殺せるようなザコ魔族さ。

あー……それとも、残念だったのは裏切られた事の方かな？
確かに、ずっと一緒に居た大切な仲間に裏切られるのは、言葉では表せないくらい辛い事だよね。
しかも、裏切った動機は君が必要なくなったから。
大元の原因が僕にあるとはいえ、君の境遇には流石に同情するよ。
ありがとうって……ふふ、どういたしまして。
今の僕達には敵対する理由もないし、これからは同居人として仲良く──ん、どうかした？
あぁ、腕の傷ね……これ、君を庇った時に出来たやつ。
君の仲間にやられたんじゃないよ？

これは味方……というか、味方だった奴らにやられた傷。

僕の配下もさ、やっぱりというかなんというか、全員が揃って僕の行動に賛同してくれた訳じゃなくてさぁ……
勇者を助けるなんて許さない！ って奴らが襲い掛かってきたの。
ほら、僕達からすれば、君って仲間をいっぱい殺してくれた仇敵じゃん？
普通に考えて、そんな奴は殺せる時に殺したいって思うでしょ？
でも僕がそれを邪魔したせいで皆からのヘイトを稼ぎ過ぎちゃってさ……

だからね、僕は自分の民を裏切って隠居生活を始めたの。
ちなみに今はね、僕に従ってくれた配下と君を連れて、人も魔族も居ない場所でのんびり羽を伸ばしてる最中だよ。
ここなら君もゆっくり休めると思ったんだけど……どうかな？
そっか、それならいいや。
何かあれば遠慮せずに言ってね、僕に出来ることがあるならなんでもするから。

ん？ 質問？
いいよ、なんでも答えてあげる。
後悔はしてないのかって……別に？
そんなの、これっぽっちもしてないよ。
だってさぁ、僕は君の事を心の底から助けたいって思っちゃったんだもん。
例え仲間に裏切られたとしても、僕を打ち負かした勇敢な君のことを助けたいって。
それにさ、もしあそこで君を見殺しにしてたら、それこそ一生後悔を引きずる事になってたと思う。
だから気にしないで、これは僕が本当にやりたかった事なんだから。

という訳で、これからは一緒に寝食を共にする仲として、よろしくね♪
このままのんびりゆったり生活するもよし、僕達を裏切った奴らに復讐するもよし。
魔族のルールに従って、僕は君の選択を尊重するよ。
まぁでも、まずはその傷を治して、体を万全の状態にしておかないとね。
眠れないなら魔法で眠らせてあげるけど……そっか、それじゃあ僕は一旦外すね。

おやすみなさい。
僕にこんな事を言われてもって感じだけど……今までの旅、本当にお疲れさま。

・台本（ゆるボイ！）
【ファンタジー/女魔王】仲間に裏切られた勇者のアナタはボーイッシュなボクっ娘魔王に助けられる
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
霜月鷹