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通り雨、時が止まった廃ホテルで
written by 暇崎ルア
  • 耳かき
  • 睡眠導入
  • SF
  • 人外 / モンスター
  • アンドロイド
公開日2026年01月06日 19:06 更新日2026年01月06日 19:06
文字数
2145文字(約 7分9秒)
推奨音声形式
バイノーラル
推奨演者性別
男性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
接客サービス向けの男性型アンドロイド
視聴者役柄
崩壊後の終末世界を旅する若い女性
場所
兵器によって崩壊した終末世界
あらすじ
 西暦2187年、地球はほとんどの生命体を脅かす汚染物質が漂う惑星(ほし)となっていた。
 細胞を持たない無機質なアンドロイドと、過酷な環境にも耐えられる性質を持った主人公のような新人類を除いて。
 主人公は長い旅の途中、通り雨に降られる。
 雨宿りで立ち寄った寂れたホテル。広いフロントには誰もいないようだが、何かの気配がする……。
本編
()内 ト書き
//SE SEの指示

シーン1 ホテルのフロント
(主人公、雨宿りのために寂れたホテルに入る)
//SE:激しめの雨音
//SE:早歩きの足音
//SE:硬いものを蹴りつける音
(アンドロイド、主人公のそばにやってくる)
雨宿り、でございますか
(主人公、驚いて後ずさる)
//SE:一歩、後ずさる音
大変、失礼致しました
わたくしはここで活動するアンドロイドでございます
役割は、何と申せばよろしいのやら……
(少し考える間を置いて)
ホテルマン、といえばおわかりになるでしょうか?
今から100年以上昔の話です
最高級の食事から遊戯、ありとあらゆる娯楽がここには詰まっていました
夢のようなひと時と贅を味わうために、数多の客人がお越しになりました
わたくしは、客人に奉仕するために作られたうちの一体でございます
こなさなければいけない仕事はもうありません
しかしこのような身の上、行く当てもなくこうして残っているのです
ご心配には及びません
わたくし一体分が動くための供給電源はございます
この身体がどれだけ持つのかなどわかりませんが……
ところで、あなたは旅のお方でしょう? 
失礼ながら、どこからいらしたのかお聞きしても?
そうでしたか。ここからはるか遠い場所ですね
恐縮でございますが、お顔の色が少々よくないようにお見受けします
寝泊りには適しませんが、多少はくつろげる部屋がございます
そちらでお休みになられてはいかがでしょう?
かしこまりました、すぐにご案内致します
どうぞ、こちらへ
//SE:二人分の足音とともに、フェードアウト

シーン2 スイートルーム
//SE:軋む蝶番とともにドアが開く音
//SE:ゆっくりとした足音
(アンドロイド、主人公を案内している)
ええ、広いお部屋でしょう?
今ではもうすっかり寂れきっていますが
この部屋もかつては煌びやかな装飾がされていたのですよ
そう、どれだけ豪華に飾り付けようとも、いつかは朽ちてしまう
失礼致しました。余計なお話を
そちらのベッドに横になっていただけますか?
怖がる必要は決してありません
これから特別なおもてなしを致します。それだけです
向こうの、壁の方をお向きください
不用意に動かれることのないようにお願い致します
//SE:ベッドに横たわる音
では、始めます
(右、耳かき開始)

これは「耳かき」という、人間のマッサージ方法の一つです
在りし日は、わたくしも幾人もの客人に耳かきを施してまいりました
気持ちがいい、ですか
そう言っていただけたらわたくしも本望でございます

//SE:遠くで降る雨の音
ええ。一向に止みそうにありませんね
こういった雨のことを「狐の嫁入り」と呼ぶ
……と、ホテルに来た客人から聞いたことがあります
狐というのは、昔この世に生きていた動物のことです
なんでも狐には人を化かす、驚かせる能力があると信じられていたそうで
「雨雲がないのに雨が降る」というおかしな天気なのは「狐」の仕業だ
という意味なのだそうです
そうですね。「ロマンチックな言葉」と言うべきなのでしょう
わたくしには「ロマンチック」の真の意味を理解はできませんが
(右、耳かき継続)

(右、耳かき終了)
かき棒の方はこれでよろしいのですが
「梵天」と呼ばれる、棒の反対の綿状のもので仕上げをしていきます
(右、梵天開始)

心地よかった、ですか。それは何よりでございます
反対のお耳もいたしましょう
こちらの方をお向きくださいますか
//SE:寝返りを打つ音
結構でございます
(左、耳かき開始)

わたくしの製造年は何年前か、ですね
西暦2095年でございます。今から92年前です
あの頃は何体ものアンドロイドの仲間たちに囲まれておりました
それが今では、このホテルで動いているのはわたくし一体のみ
皆部品が少しずつ壊れ、やがては完全停止しました
わたくしだけが今も動いているのはなぜ、なのでしょうね
今日ここに来たあなたに耳かきをしてさしあげるため、かもしれません
左様です、アンドロイドジョークでございます
(左、耳かき継続)

50年以上前のXデーでございますね
勿論、覚えております
わたくしの電子脳内には、約100年間の映像データが残っております
そのほとんどがどれも色鮮やかなものなのですが
あの日だけは、全て灰色の映像で残されております
ええ、そうですね
あなたの先祖たちは皆、あのようなことが起こるなど想定していなかったでしょう
ここにあったものはほとんどがなくなってしまった
無論、ここだけではありませんが
しかし、全てがなくなるということはありえないのです
汚染物質に耐えられるあなたのような新しい方たちが生まれ
この世界は続いていくのでしょう
おや、お眠りになってしまいましたか
では、このまま仕上げも
(左、耳かき終了)
(左、梵天開始)

お目覚めになりましたか
お顔の色も通常のものに戻っています
やはり、長旅でお疲れだったのでしょう
礼には及びません。これがわたくしの務めですので
(主人公、立ち上がる)
//SE:立ち上がる音
そうですね。あれだけ降っていた雨もすっかり止みました
かしこまりました
またここに戻ってきてもいいか、ですか
勿論でございます
最もわたくしがいつまでここにいられるかはわかりませんが
はい。あなたの言う通り、部品を大切にするようにしましょう
どうか、お気をつけて。良い旅を
またのお越しをお待ちしております
//SE:遠ざかっていく足音。徐々にフェードアウト

クレジット
・台本(ゆるボイ!)
通り雨、時が止まった廃ホテルで
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
暇崎ルア
ライター情報
小説執筆の傍ら、「安心して眠りたい」と言う欲望から主に睡眠導入シチュエーションボイスのフリー台本を書いている台本師です。
Youtube等、基本無料配信でのご使用であればご自由にお使いください。
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