お化け屋敷に怖がりまくる彼女を宥めてたらなんか変な方向にヒートアップしてく彼氏の話です。

　　
……んだよ、自分で入るって言ったんだろ？
ほら、俺が先頭立ってるから、いい加減さっさと歩くよ？

背後が怖いんなら振り向かなきゃいいだろ。
そんな目つむってたって、どーせ真っ暗なんだし大して意味ないって。
大丈夫。
まだなんも出てきてないから。

は？　目開けた瞬間に襲われる？
（鼻で笑い）何にだよ。
ゾンビ？　幽霊？
こんな序盤で出ない出ない。
普通な、もっと気を抜いた瞬間に出てくるもんだから……
（ゾンビ登場）
って、はぁー！？
お前空気読めよなぁー！？

……ちょっとキミ、そうゾンビ、今せっかく俺の彼女がなんとか目開けて歩き出したとこだったんだけど！？　
何故に今、登場した！？

ほら見ろよこの子、くっそビビって縮こまっちゃったじゃねーかこんな序盤からさぁー！
ねーちょっと、この子このまま動かんくなっちゃったらどーしてくれんの！？

いや、俺に謝んな。彼女に謝って。


ん。
……ほら、ゾンビ君もこーやって素直に謝ってくれたから、もう大丈夫だろ？
ね、立てる？　

よし。
じゃあ俺と一緒にあのゾンビ君に手を振ってさよならしよう。

はい、バイバーイ。


……冷たっ。
てこれ、コンニャクかよ今時……

あ、笑ったな？　
つーかお前も大分冷静になってきたな？

うん。
結構良い奴だったもんな、さっきのゾンビ。
みんな同じ人間なんだから、話せばわかんだよ……っと……
（幽霊登場）
ハイこんにちはー！！

いやお前、何そんな悲鳴上げてビビってんの……さっきまで冷静だっただろって。
よく見ろほら、怖くないだろ全然。

ね、顔上げてみ？　
な？　
お前と同じ女子だぞ、女子。

そういやお前この間、髪伸ばしたいとか、色白になりたいとか言ってたじゃん。
ほら、この人、憧れの大先輩だって。
この人多分、お前と仲良くなってくれるって。

……ね？　そんな俺の背中にずっと隠れてないで、ちゃんと挨拶してみたら。

……な？　色白だよな。
記念に握手しとけ。握手。
（彼女、幽霊と握手）
ハイ、和解しました〜
それでは幽霊さんさようなら〜



……さ、もうそろそろ出口かな……
よくここまで頑張ったね。よしよし。


……どうした？
なんで立ち止まってんの。

は？　最後は集団でお化けが襲ってくる……？
いや、今時そんなつまんないオチないから。

んーと、多分あれだ。
お化けのキャストがズラっと横に並んで、ありがとうございましたーとか言いながら、俺らの頭に花の冠みたいなの乗せて、見送ってくれるとか、そーいうファンシーな奴だと思う。

は？　なんで信じないんだよ……
だから、大丈夫だって。
ね、行くよ？

だーかーら大丈夫。
俺が絶対、誰にもお前に指一本触れさせたりしないから。

……は？
（ため息）
ギュッてしたら、ちゃんと歩けるんだな？

……はい。
ぎゅ。
（顔を見合わせて笑う）
よし。さっさと脱出するよ。



（お化け集団に追いかけられ息を切らしながら）
……っざっけんな！　なんでこんな大勢の奴らに追いかけ回されんだよめんどっくさっ！！

手離すなよ？　今は走ることだけに集中すればいいから！　いちいち怖がるヒマないよ！？

……あーもうだからなんでそんな悲鳴上げてんだ……って……

（ゾンビが彼女の両肩を掴んでいる）

（舌打ちをして引き剥がし、キレ気味に）
おい……ゾンビ野郎……

何勝手にヒトの彼女の両肩掴んでんの？

誰に許可を得てやってんだよ。

俺今、めっちゃくちゃ気分悪くなったんだけど。
エ？　聞こえてますか？？　ア？？

"耳ケガしてます"じゃねーんだよ。
それじゃなんでそんなに全身血だらけで元気よく走れてたんですかねー？

（ため息）
……あのさー、君たちもそれが仕事なのはわかる。
わかるけど、だからって誰がコイツに好き勝手触っていいってことになってんのかって聞いてんの！

……触るんだったら、最初からそういう注意書きでも貼っといてくんない？
「我々は異性であろうとも関係なくあなたの恋人に触って脅かすことがあります」って。
そしたら俺ら、

ぜっっっっっったい

入場してねーから。

わかった？
ソー、シャル、ディス、タン、ス。
はい。
下がってね。
キミも、キミも、キミたちも。はい。


……はい適度な距離どうもありがとう。

……あとまぁ……

一応、場違いなとこに来た俺らも悪かったので、代表して俺が謝ります。

えー、お騒がせして、すみませんでした。


……さ、行くよ。
はい、最後に手振ってあげよ。

バイバーイ。



はいお疲れ様。

な。そんなに怖くなかっただろ？

でももうお化け屋敷に行くのはなしで。

いや、別に怖いとかじゃなくて。


……これ以上、俺意外の奴にお前が触られんの、本気で無理だから。








おわり

・台本（ゆるボイ！）
オバケ役相手に嫉妬と説教する彼氏
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
蚊ネコ