村が盗賊に襲われた。
攫われてやってきたのは盗賊のアジト。目の前には一人の男。
彼はかつての幼馴染だといい――。

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こっちだ。
そう、ここへ下ろせ。

ははっ、これか？
これは最高のお宝だ。
今から楽しむんだから、邪魔するなよ。

分かったら、さっさと部屋から出てけ。

（間）

待たせたな。

暴れんな、暴れんな。
今、目隠し外してやるからな。

手枷と足枷は……。
後でいいか。

さぁて、お嬢さん。
俺になんか言うことあるだろ？

そうそう。
俺はお前の村を襲った極悪非道の盗賊だ。
馬鹿であほで間抜けで――。

いや、そうじゃねぇだろ。
本当に分かんねぇのか？

ったく。
俺の顔よく見ろ。

ッ――。
普通、頭突きするか？
怖いもん知らずは相変わらずだな。

しゃあねぇ。
ほら、お前がガキの頃、よく遊んでた年下の幼馴染がいたろ？
覚えてるか？

誰が子犬だ！？
た、確かにあの頃の俺はよわっちくていつもお前に守られてはいたが……。
子犬はねぇだろ。

あぁ？
そうだ。あれが俺だ。

死んでねぇよ。
今、こうしてここにいるんだから。

嘘じゃない。

そう。
すぐ迷子になったのも、夜にずっと泣いてたのも、将来お前と結婚すると約束したのも――。
なんでそんな恥ずかしいことばっかり覚えてるんだよっ！

やめろよ。
はぁ、無理、恥ずかし。
やってらんねぇ。

やっと笑ったな。

またしかめ面に戻りやがって。
そのまま笑っとけっての。

俺のこと、認めてくれたか。
じゃあ――。

は？
どうして村を襲ったか？

そんなの決まってんだろ。
あの村が腐ってるからだ。

お前もどこか気づいてただろ。
あの村長、人身売買に手ぇ染めてたんだよ。

俺も売られた人間の一人。
そして、お前ももうすぐ売られる予定だったんだろ？

だから攫（さら）った。

ああ。
今回の目的はお前だ。
お前を盗みたかったんだ。

だって、お前が隣町のジジイの妾にされるなんて、絶対嫌だったから。

借金のかただから仕方ない？
馬鹿野郎。
俺が嫌なんだよ。

本当はもうお前には二度と会わないようにしようと思ってたんだ。
だって、俺、お前に顔向けできないことたくさんしたから……。

でも、今回の話を聞いてどうしても嫌だって思ったんだよ。
で、本当は混乱に乗じてお前を逃がすつもりだったんだ。
どこか遠い街でいい男見つけて幸せに、って。

そうするつもりだった。
つもりだったんだけどよ。

お前の顔見たら手放したくなくなった。

無理だ。
お前が他の誰かのものになるなんて考えたくもない。

だから、俺と一緒に来てくれないか？

ダメ、だよな。
だって、俺、盗賊だし。
昔と違うし。
言葉も汚いし。
お前は、いや、お姉ちゃんは、王子様みたいな人が好きって言ってたもんな……。
俺はお姉ちゃんの王子様にはなれない……。

あ、悪い。
手枷と足枷外さねぇとな。

はぁ。
こういう気遣いもできない。

な、なにすんだよ！？
別に泣いてねぇし！
よしよしすんな！

……。
やっぱり、もうちょっと撫でてくれるか……？

懐かしい。
あったかくって優しい手だ。

……。

お姉ちゃん、ごめん。
俺、悪い子になっちゃった。

でも、お姉ちゃんといたい。

こんな俺でも隣にいてくれる？

（ノック音）

今、取込み中だ。
邪魔すんじゃねぇ！

はぁ、間の悪い奴。

わ、笑うなよ！

で？
返事は？

イエスなら俺の手を取れ。
ノーなら俺の手を払え。

さぁ、どうする。

迷うか。
じゃあ、仕方ねぇ。

捕まえた！

ははっ。
俺は盗賊だ。
奪ってやるよ、何もかも。

もうこの手は離さない。
俺から逃げられると思うなよ。
お姉ちゃん。

・台本（ゆるボイ！）
弱虫だった幼馴染が盗賊になって誘拐しに来ました。
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
シノト