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【朗読劇】金平糖と夜の空
written by 弐橋 葉
  • 寝落ち
  • 睡眠導入
  • 癒し
  • 少年
  • お姉さん
  • 朗読
  • 童話風
  • 読み聞かせ
公開日2024年01月18日 15:40 更新日2024年01月18日 15:40
文字数
2035文字(約 6分47秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
語り部
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
あらすじ
1人で語り部と2つのキャラを演じる朗読劇です。
カッコは台詞、それ以外はナレーションです。

童話のように、ゆっくりと読み聞かせや寝落ちにちょうどいいものを目指して書きました。

キャラの性別改変や不要な描写の変更などはご自由にどうぞ。
本編
この国の夜空には、星が光りません。

太陽が沈むと、空には紺碧のカーテンがゆっくりとかかり、ぽっかりと浮かぶ月明かりだけが、優しく大地を照らします。

これは、はるか昔に王様が空の女神様を怒らせてしまったせいで星の輝きを奪われたと言い伝えられています。


「……はぁ。絵画じゃなくて、本物の星が見たいなぁ。この国にいる限り、星を見ることは出来ないのかな」


人々は、金平糖を星に見立てて年に一度星願いのお祭りを開きます。

金平糖を入れてリボンを巻いた小瓶を人と交換し、お互いの幸せと平和を祈るというものです。

小瓶は次々と交換されて、多くの人の手に触れられるほどよいとされます。

これは、『星が手に入りますように』という願いが込められているという考えもあります。


「やっぱり、金平糖じゃ満足できない! 本物の星を探すために、空の女神様に会いに行こう!」


少年は、勇気を出して旅に出ました。

その足で他の国に渡ることも出来たでしょう。

しかしそうではなく、彼は故郷の空に星を取り戻したかったのです。


朝露に濡れる葉っぱ。

朝日がカーテンのように降り注ぐ霧の立ち込めた森。

一面に広がる草原を駆け抜ける、緑のにおいがする風。

木漏れ日の下で眠ろうとすると遊びにくる小鳥たち。


たくさんの美しいものを見て、星を取り戻したいという気持ちは強くなるばかりでした。

少年は、旅立ちの前にお祭りで貰った小瓶の中の金平糖を見つめます。


「本物の星は、どのくらい綺麗なのかな。月より小さくて、太陽ほど明るくないけど、でも、空にたくさん浮かんでる『星空』が見たい」


長い長い旅の末、少年は空の女神様が暮らす神殿へと着きました。

白い大理石には繊細な彫刻がほどこされ、歩くたびにかつん、かつんと足音が響いて遠くへと溶けてゆきます。

少年は膝をつくと指を組み、熱心に祈りました。


「女神様、女神様、お願いします。どうか僕たちを許してください。星をもう一度、空に浮かべてください」


その言葉から少しして、しゃらり、と鈴が鳴るような音がします。

驚いてまぶたを開ければ、銀糸の髪を長く伸ばした美しい女性が、少年の前に立っていました。

涼やかで透明な声が、少年の耳たぶを撫でます。


「ようこそ、小さな旅人さん。わたしは、あなたたちから星を奪ったりなどしていません」

「なら、どうしてこの国には星が光らないのですか?」

「それは、わたしが涙を流さなくなったからです」


女神様は語りました。

かつて、多くの戦争でこの国は火に包まれました。

それを嘆き悲しんだ女神様はぽろりぽろりと涙をこぼし、それがそのまま星となって空で光りました。

皮肉なことに、その星明かりは争いにとって便利なものでした。


女神様の悲しみに気付いた王様が、これ以上苦しめてはならないと国民に戦争をやめさせたのです。

そのことを女神様に伝え、もう泣かないでくださいとひざまずき、この国の平和を永遠に守ることを誓ったのでした。


そこまで語ると、女神様は困ったように言います。


「星を返したくても、どんなものか忘れてしまいました。言い伝えが間違ってしまうほど長い間、わたしは泣いていませんから」

「女神様、それなら……」


少年は荷物から小瓶を取り出して、金平糖を女神様に見せました。

女神様は目を丸くして、瓶の中の砂糖で出来た星を眺めています。


「今の僕たちにとっての星はこれです。女神様に謝るために、いつか星を取り戻すために、毎年お祭りで願いを込めてプレゼントするんです」

「まあ……可愛らしいですね。確かに、星はこのようなきらめきだったかもしれません」

「女神様、どうかお願いします。この砂糖で出来た輝きではなく、本物の輝きを取り戻したいんです」


それを聞いて、女神様は頷きました。

少年は無意識に小瓶を差し出して、気が付けば金平糖は女神様の手に渡っていました。

白く細い指がリボンをほどきコルクを抜くと、金平糖を一粒、女神様は口に運びます。


「……なるほど。この甘いきらめきが、あなたたちにとっての星なのですね」


微笑んで頷いた女神様は、ゆっくりと空を見上げます。

飾りの付いた杖を持ち上げ、天へと掲げました。


「かつての星とは違うかもしれませんが、甘く喜びを与える、そんな優しい星をもう一度。今度は悲しみではなく、優しさの輝きを空に与えましょう」


すると、真っ暗だった空にぽつり、ぽつりと輝きが生まれます。

やがてそれは無数のきらめきとなり、大小さまざまな星が、絵画よりも美しく大空に広がりました。


「さあ、これは喜びの星。人々のさみしさに気が付けなくてごめんなさい。これからは甘い光であなたたちを照らしましょう」

「女神様……ありがとうございます!」


少年は、目が熱くなるのを感じました。

しかしこれは、悲しみからではないと分かっていました。

空に輝きを取り戻した喜びが、少年の目から星をこぼしたのです。


後に、星願いのお祭りは星祝いのお祭りへと変わりました。

金平糖は女神様のお気に入りで女神様からの贈り物。

可愛らしいリボンを巻いて、さあ、たくさんの人をお祝いしましょう。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
【朗読劇】金平糖と夜の空
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
弐橋 葉
ライター情報
イラストレーター、ボイスコとして活動中です。
文章を書くのも好きなので合間合間に台本も投稿していきたいと思います。
pixivにも台本をマルチしていますがこちらのほうが早いです。

何か琴線に触れたものがあればお気軽に演じてくださいませ。
使用報告も不要、口調や固有名詞の改変についても良識の範囲でいくらでもどうぞ。
楽しく使って頂くためでしたら如何様にもしてください。
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