年末は田舎の本家に親戚一同集まることになっていたが
成人してからは中年になるまで忙しくて来れなかったアナタ（聞き手）。
今年も田舎に行けそうに無かったのだが上司から突然休みをとるように言われ
集まりに参加することになりました。
そうして訪れた元旦。休日は遅くまで寝てしまうのに何故か今日は早朝に目が覚めます。
雪がしんしんと降る中、誘われるように幼い頃に連れられた土地神の祠にむかう。
祠の雪かき、自分がよく飲む日本酒のお供えをして挨拶をして帰ろうとしたとき
強い力を受けて転倒してしまう。
不思議と痛みは無い。
そこにはアナタを覗き込む白い着物に黒髪の妖艶な女性が怪しく微笑んでいた。

SE：雪を踏み歩く音
SE：二拍手
（少しの間（アナタ（聞き手）が祈っている（新年の挨拶）））
SE：雪を踏み歩く音

これ、わっぱ、どこへ行く気だ。
ふふ
そう驚かれるといくら我（われ）が竜の身といえど傷つくのぅ
ははは
冗談だ
とはいえだ、わっぱよ、久々にこうして再会したのだ

（いたずらっぽくすねた声）
新年の挨拶だけして帰ろうなど、薄情ではないか

（すこし寂しげに）
あぁ、そうか、そうだった
わっぱに付けた印（しるし）が記憶を遠のかせたのか

（軽くうっとりするように）
あぁ、しかし良い男に育ったものだ

ふふ
よい、よい、気にするな
さぁ、こちらへおいで、道中寒かったであろう？
ん？あぁ、ほれ
近う（ちこう）寄れ、我の膝を貸そう

どうだ？
暖かいか？
結界を張ったからな
しかし今は眠ってはだめだ
ようく、ようく我にわっぱの顔を見せておくれ

ん？
なにやら分からぬという顔をしておるな
ふむ、そうだな

わっぱよ、今まで不可思議な運を感じたことはないか？

死の気配に直面した時、謂れ（いわれ）のない悪意を向けられた時
困難に膝が折れた時、

どうだ？

そんな時に限って助かる道が、光が、糸口が、わっぱの前に現れ
何度も救われる。
悪い状況でしか発揮されない強運を？

あれはな、わっぱよ、
我がおぬしを見初めた時にかけた呪いだ。

困難を与えて立派な男になるように、
我の好みの強い男になるようにと、あえて困難に会うようにしたのだ
かといって死んでしまっては意味がない。
ぎりぎりのところで助かるようにはしておいた。

（うっとりとするように）
ほれ、おかげで今やこんなに
こんなにも我の好みの男に育った。
それにの

（近づいて耳元で囁くように、多少の狂気を含んで）
他のどことも知れぬ有象無象（うぞうむぞう）のメスどもに
我の見初めた男を取られぬように
女難（じょなん）の印（しるし）もつけた
ふふ
おぬしはなぁ、我のものだ
我だけの男だ
あぁ、本当にようやく、ようやく
あぁ、本当にこの時をどれだけ待ち焦がれたことか

ん？ふふ
顔を赤くしおって、愛い（うい）のう
女の胸に抱かれるのは初めてか？
そうであろうなぁ
遠慮をするな
この体はおぬしのものだ
これからは、ずぅっとこの体はおぬしのものだ
おぬしだけのものだ

（声を低くして脅すように）
よもや我の好意を手放すなど言わぬよな？
おぬしが手に入らぬというならこの土地など守る価値もない
我のいう意味がわかるか？

（うれしそうに）
そうかそうか、わかってくれるか
あぁ、あぁ、本当に今日は良い日だ

（少しの間）

もうじき日が昇る
初日の出が昇る
のう？ぬし様よ、旦那様よ
我は良い女であろう？
見目も良い、旦那様を襲うあらゆる困難は
我が尽くし、そして支えてやろう

我は竜の身ではあるが、同時にはるか昔にこの土地を護らんとし
人柱となった巫女の身でもある
あらゆる悪から鬼からさえも、旦那様を護ってみせよう

（懇願するようにすがるように）
だから、な？
我を、私を旦那様の傍（そば）に置いておくれ？
永く、永く1人寂しい思いはもう、したくないのだ
だから、な？
私を、私と、1つになってはくれないか？
人柱としての役目はもう十分に果たした筈だ
だから、ね？
私を、幸せにしておくれ、お願い

（恍惚として）
あぁ！本当に？うれしい
旦那様、旦那様！
ようやく現れた私だけの旦那様！

（ひとりごとのように）
あ、朝焼け

（慈しむように）
旦那様、新年あけましておめでとうございます。
今年から末永く
「我」と「私」を、よろしくお願いします。

・台本（ゆるボイ！）
辰年に水神の巫女と初日の出を
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
ハカラス・カイナ