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火が禁止された世界であなたと本を読む
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公開日2022年06月28日 00:59 更新日2022年07月14日 23:59
文字数
3104文字(約 10分21秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
光のないあなたの部屋
あらすじ
真っ暗闇の中で、あなたとお話をする

私は、あなたよりも上の階層から、あなたの元にやってきた
あなたの趣味は読書だったから
私は、この都市では禁止されている火を使って灯りを点します。
そうして、文字が読めないあなたに代わって、
天蓋よりも昔に在った物語を読み聞かせするのでした
本編
ねえ……、いる……?

あなたは、そこに居る?

手、握ってもいいですか?

……良かった

ちゃんと、あなたが、居た

……真っ暗、ですね

天蓋てんがいの灯りが消えたらいつもこうなんですか?

……この階層ではそうなんだ

うん……

少し……、怖い

私が居た階層では、灯りが消えてからも少しだけ明るかったから

こんな、目を開けていても、閉じているのと変わらないほどの闇は初めてです

(首を横に振って)ううん

後悔は、していませんよ

私の階層は灯りが消えた後も少し明るかったけれど

この階層には、あなたが居る

それだけで……全てを置いてきた意味はあったと思うのです

ねえ

もう少し、しっかり手を握って?

……うん

そうですね。……少しだけ、怖い

……。

ねえ、あなたの趣味は読書、でしたよね

この暗闇の中、どうやって読んでいるんですか?

……うん

……それじゃあ、貴方は

オリーブ畑の労働から帰ってから

天蓋てんがいの灯りが消えるまでの

そんなわずかな時間しか読むことができないの?

……そう、なんだ

(間)

……ねえ、火って知っていますか?

そう。「火」

やっぱり、知りませんか?

そっか……

ううん

幻滅したわけじゃないですよ

私たちの階層でも、火を見たことがある人はほとんどいなかった

ごく一部を除いて火は禁止されたもの

禁止されたのは、今ある大木が苗木の頃だった、とも聞くから

私が元居た階層より下で生きている人に、「火」を知る人は少ないと思います

ええとね、火は温かさと光をもたらすものです

……そうですね

「灯り」が、近いかもしれません

けれど、火の温もりは灯りとは違っていて

時に、とてもとても激しくて、危険なものでもあったの

火は生き物ではないけれど、触れたものを食べて

灰っていう砂のようなものに変えて崩してしまう

だから、火は禁止された

全てを、灰に変えてしまうかもしれないから

それでも、ね

それまでずっと、火は人と共にあって

火無しに人は生きることはできなかった

……だから、ね

私は、火が人から忘れ去られてしまうのは

とても悲しいと思います

……どうして、急にそんな話をしたのかって思ってますか?

(間)

あのね

……私、「火」を扱えるの

ええとね、「ライター」っていう古代の遺物なんですけど

うん。そう

……頭上を天蓋が覆うより前の世界にあったもの、です

それでね……

この部屋、明るくすることができるの

灯りがあれば、ものを読むことができます

……ふふ、そう

火を扱うことは、いけないこと

天使様に見つかったら、きっと罰を受けることになるわ

でも、ここはあなたの部屋で、私の他には誰もいない

ふたりっきりの空間

ふふ、そう

……だから、ね

ふたりだけの秘密……もう一つ、増やしませんか?

……うん

待って

……ポケットにあるの

触ってみますか?

はい、これ

かたくて、四角い

意外と軽くて小さいでしょう?

じゃあ、火をつけるから少し離れてください

(ライターのSE)

見えますか? これが、火

……どうです? 初めて見る火は

あ、気を付けて、とっても熱いから

うん

綺麗……ですよね

オレンジ色の光が揺らめいて、柔らかく周りを照らす、この感じ

ふふっ

あなたの顔、火の光で赤くなって見えます

……ねえ、火を別のところに移しましょうか

今朝とったオリーブを絞った油があったでしょう?

本来ならお父様への捧げもの、だけど

そうね

ふふ、これも、『悪いこと』ですね

あ、ちょっとライター、持っていてください

準備しますから

ふふ、大丈夫

でも火に触らないように、気を付けてくださいね

(間)

ほら、こうすれば

もっと明るくなったでしょう?

……ね

これで、本が読めます

図書室から借りたままのもの、いくつかあるんでしたよね?

読みませんか?

……うん

……そうなんだ

つまり、挿絵を見て、お話を想像して……っていうことなんですか?

じゃあ、さ

私が、朗読しましょうか?

うん

私が居た階層では、文字の読み書きはみんなできましたから

大丈夫です

分からないことがあったら教えますから

うん

じゃあ……はじめますね

『昔々のお話です。ある時、太陽と北風が喧嘩をしていました』

ん? 太陽……ですか?

あー、ええと、なんて言ったらいいんですかね

私たちの頭上にある天蓋が存在する前は、天蓋より上の世界、というのがあったのだそうです

太陽というのはそんな、天蓋より前の時代に、天蓋の向こうにあった設備で

とても大きくて明るい、光る玉だったそうですよ

天蓋の灯りが無かった頃だから

この太陽、という設備が都市の端から登ることで、一日が始まって、

頭上を通り抜けて、反対側の端に沈んだ時が一日の終わり、だったんだとか

うん

ふふ、とても信じられないですよね

そんなふうに、頭上を通るようにとっても大きな球を持ち上げるなんて

でも、天蓋ができる前の話だから

そのころの人は、きっとそれくらいのことは造作ぞうさもなくできたのでしょう

え? うん、北風、というのはとっても冷たい風、という意味です

北という言葉の意味は分からないけれど、ここでは寒いという意味ですね

ええと、続きを読みますね

『すると、ふたりの下を、ひとりの旅人が通りかかりました。旅人は厚い上着を羽織っています。それを見て北風は言いました』

『「太陽さん、私は強いから、あの旅人の上着をあっという間に吹き飛ばすことができる。どちらが先に旅人の上着を脱がせられるか、勝負をしよう」』

旅人……というのは、ええと、都市の各地を回っている人ですね

お父様に命ぜられた労働をどうしていたのかは、分かりません

天蓋が存在するよりも、ずうっと前のお話ですから、そういう不思議なところもありますね

続けますね

『太陽がその申し出を受けるや否や、北風は大きく息を吸って、旅人に向かって「びゅう、びゅう」と吹きかけました』

『旅人は、寒さに震えながら上着の前を合わせます』

『北風は、もっと大きく息を吸って、「びゅう、びゅう、びゅう」と、顔を赤くしながら、更に吹きかけました』

『旅人は、こんな寒さに上着を吹き飛ばされてはかなわないと、更に強く、ぎゅっと上着を握りしめます』

ふふ

そうですね

天蓋が存在するより前は、

そんなふうに、恐ろしく寒い風が吹いたりすることもあったのでしょう

だから私たちがその気持ちを本当の意味で知るのは難しいでしょうね

……続けますね

『北風はそのうち苦しくなって、疲れてしまいました。「これは手ごわい、これ以上は息ができない。次は君がやるといい」』

『そう言われた太陽は、ゆっくりと頷くと、身体を輝かせ始めます』

『そうしているうちに、辺りはどんどん温かくなっていきます』

『さっきまでの寒さとは打って変わっての温かさに驚きます』

『それでも太陽は、まだまだ、と、より一層身体を輝かせました』

『その暑さに旅人は『これは手ごわい、これ以上は我慢ができない』と上着を脱ぐのでした』

(間)

……というお話でした

そうですね

天蓋の前のお話だから、難しくて分からないことも多いけれど

寒さのような力で、言うことを聞かせるのは難しい

……そんなことも、ここに書かれている教訓のひとつなのかもしれませんね

だって、ほら

暗闇を与えられることを良しとせず

こうやって、禁を破って火を使っている人がここにふたりも

ふふふ

……

ねえ、お父様は、どうして天蓋の灯りから光を奪い、暗闇をもたらすのでしょうね

……うん

確かにそうですね

人は眠らないといけない

ずっと灯りのあるままではいけない

でも、いつ眠るかを、人は選ぶことができるはず

うまく選べない人も、いるかもしれない

けれど、それよりも、こうして

暗闇の静かな時間に、部屋に灯りをともして

大切な人との時間を過ごすことだって

本当はできるはずなのに

……寝物語には、少し、難しい話だったかもしれませんね

ふふ、そうですね

私ももう、眠たくなってきました

あなたも、瞼が落ちそう

揺らめく火の光が、気持ちを落ち着かせるから

かもしれませんね

(間)

じゃあ、火を消しますね

(──フッ)

(間)

ねえ、

あなたは、天蓋の外に行ってみたい?

……そうですね

はい……、おやすみなさい
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
火が禁止された世界であなたと本を読む
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
剣城・アイスドーラ・凍子
ライター情報
つるぎ あいすどーら とうこ
剣城・アイスドーラ・凍子です。

駆け出しの台本師

Twitter:@Ice_dola

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