深夜の繁華街。
彼氏と大喧嘩をした末に別れることになったあなたは、終電もなく道端でぼんやりとしていた。
そこに、優しく声を掛ける男性。投げやりな気分のあなたはいっときの人恋しさに男性に身を委ねてしまっても…と思うが、彼の正体はヴァンパイアだった。

※作中表記についての説明

・―…状況、情景の説明(例:彼の部屋のソファに座りながら話している…等)
・()…心情(例:笑いながら…、泣きそうなのを堪えて…等)
・【】…SE、BGM(例:インターホンの鳴る音、雨音…等)
・｛｝…リップ音、吐息、溜息、喘ぎ声など

――――――――――――――――――――――――――――――

―繁華街、終電を逃し、路肩に座り込んでぼーっとしていると見知らぬ男から声を掛けられる。

おねえさん？
大丈夫？…一人？

(苦笑しながら)キャッチじゃないですよ？
ナンパ…？
うん、まぁ、どちらかと言えばそうかな。
電車は…そっか、終電、もうないか。

タクシー呼びましょうか？
え、「なんでこんな私に構うのか」…って？

(微笑を浮かべつつ)そりゃあ、終電逃して、泣き腫らしてぼろぼろの女の子がいて…放っとく奴なんて、いる？

ー側に座り、近い距離感で。

何かあったんですか？
僕でよかったら聞くよ？
…ほっといてって…ほっとけない。

唇、どうしたの？
切れて血が出てる。

…転んだ？
嘘でしょ、だったらそんな痣なんて出来ない。

もし、転んだとしてもちゃんと手当しなきゃ。
それもしてないってことは、おねえさんは今、普通の状態じゃない。

そういうことでしょ？
ちょっと驚いた？

…ふふ、だいたい合ってるでしょ。
こう見えて人生経験長い方だから。

ーあなたから、彼氏と大喧嘩の末、フラレたと話しをする。

…本当はその顔、彼氏に殴られた…の？
そうなんだ…。

遅い時間に会いに行ったのに、帰ることもどこかに行くことも出来なくて。
(少し微笑みながら)で、僕みたいな男にナンパされた訳だ？

でもさ、それは…フラレた、じゃなくてフッていい男だよ。
女の子の顔に傷をつけて、深夜にひとりぼっちにして。
僕なら絶対にそんなことはしない。

僕もね、相手に裏切られたり、ずっと側にいるって約束した子が先に、死んでしまったり…、よくフラレるんだ。

おねえさんの寂しさはよく分かる。
好きになった人が、僕のことも好きになってくれて…それが永遠に続けばいいのにね。

でもね、おねえさん。
そんな時にひとりぼっちでこんな街中にいたら、駄目だよ。

悪いやつに付け込まれる。

…「それでも、いい」？
どうして？

…ねぇ、自分を安売りしたら駄目だ。
今は、そう…投げやりになってるのかもしれないけど、いつかきっと後悔する。

ーハグをしてほしい、とヴァンパイアは女性から求められて。

ん？ハグ？
…いいけど…、でも、心から好きじゃない奴にハグされても、その寂しさは埋まるのかな？
それでもいい？…そっか。

ーハグ。耳元で囁くように。

一瞬でも、おねえさんの寂しさは埋まった？
え？もっと…違うことがしたい？
…キス？頭を撫でたり…もっときもちいこと？

前の彼氏のことなんて、二度と思い出せなくなるように…？

(声のトーンが変わって)…ねぇ、もしおねえさんが望むなら、俺は永遠にその孤独を埋めてあげられる。

俺の秘密を教えてあげるよ。
俺はね…ヴァンパイアなんだ。

…はは、ちょっと笑ったね？

さっきよりずっと魅力的な顔になった。
別に、信じてくれなくてもいいけど。
…本当は、あなたに目をつけたときから、感じてたんだ。

あなたが欲しいって。

優しいふりして、声かけたりしてごめんね？

ーより強くハグ。

{首筋を舐め、吐息混じりに｝

よく知らない男にさ、…気安くハグなんかさせちゃ駄目だよ？
ハグなんてさせたら…あぁ、噛みつきたい。

他の男がつけた傷を、俺の噛み跡で上書きしてやりたい。
すごくいい匂いで、ほっとけないくらい…美味しそうな血の匂いで。
貪りつくして、愛して、全て奪って、俺だけのものにしたい。

…それを地獄だと、裏切った女は何人もいたよ。
俺のものになってくれなくて、先に死んでいった女もいた。

俺は何度も死にかけて、殺されかけたけれど、結局死ぬこともなく…残念ながら、生きながらえている。

どうする？
あなたが望まないなら、それでもいい。
タクシーを呼んであげるから、家に帰って、眠って忘れてしまえばいい。

でも、今、心から俺を選んでくれるなら…
永遠に、あなたが持て余すほどの愛をあげる。

ねぇ？
日が昇る前にどちらかを選んで？

・台本（ゆるボイ！）
かみつきたい
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
灰塔アニヤ