(ヒグラシの鳴き声)

.....みぃつけた。
誰？とは酷い事を言うの。
ワシとは血の契りを交わした仲ではないか。

幸福でワシの顔も思い出せぬか？

なあ、愛おしい眷属よ。

思い出したか？ワシの顔を。
にしても、十年も逃げ続けるとはやるなあ？
鬼ごっこが得意なのじゃな。

何事にも逃げ続けたお前にぴったりだわい。

...女子供は黙っておれ。

悪いがワシはこやつに話しかけておるんじゃ。でないとその醜い面を喰い破ってしまうかもしれん....冗談じゃよ。はは...

何、そう怯えるな。
別に、取って食おうなど考えておらんよ。
態度次第じゃが...

とりあえず、ワシをもてなせ。

(ふすまを開ける音)

邪魔するぞ。よいしょっと...
それじゃあ早速ウヌに問おう。
今、ワシは怒っておる。何故か？
さあ、答えよ。

腹が減っておるから？違うわ。

何故お前が女子供と歩いておる？
ワシをほっぽってままごとに耽っていたとは、嘆かわしいのお。

はん、ままごとではないと申すか。笑わせるのお？貴様は既に人間ではないと言うのに。
化け物が一丁前に人間の真似をするでない。

何故、何故ウヌもあやつと同じ道を辿ってしまうんじゃ。言ったはずじゃ...ワシから逃げるなと...何故こうも破ってしまうんじゃ...

殺すか？ああそうじゃろうな。ワシはウヌらを殺す。あやつらと同じ様にな。

俺を殺したら師匠が黙ってない？
ほお...それはどっちの首の事を言ってるんじゃ？こっちの首か？それともこっちの首か？
ああ、そうじゃよこれは、

ウヌの師匠とやらの首じゃ。

師匠の名を冠するにはまだ少し浅かったようじゃがな。ほれ、土産じゃ。くれてやる。

(落とす音)

あー...騒ぐな騒ぐな...特にその女。
耳障りじゃから殺そうか？

妻と子供は見逃してくれ？....はあ、どうしてこうもあやつと似ているんじゃ...あやつも同じ事を言っておったわい。

ダメじゃ。ウヌらは全員殺す。

...ふむ。土下座か...子供の前でよく恥ずかしげもなく出来たものじゃ。

いいじゃろう。
ここはお前の顔を立てて食わないでいてやろう。裏切り者とてかつてワシが愛した男じゃ

食ろうでもワシの目覚めが悪かろう。

ただし条件付きでな。

ほーん...どうしようか...悩ましいのお...

はあ...

それにしても羨ましいのお...そのままごと。
どれ、ワシも混ぜてくれんかのお？

あ、思い付いたわい。
そのままごと、ワシにやらせてくれ。
そうしたら、ウヌら全員食わんでやる。

さあ、そのボンクラの脳味噌で考えるのじゃ

おい女。何を悩んでおる。
早くその男を渡さんか。

無理？....はあ...
おい坊主。歳はいくつじゃ？ほーん...九か。

(撫でる音)

ほお...目も鼻も口も全てそっくりじゃの？
これはこれで愛おしく感じるなあ？
この愛おしさはなんじゃ？まるで...まるで。
死んだ牛の肉のようじゃ。

九つか...やはり食べ頃なのじゃろうな？
うーむ...ワシは我慢がきかんからのお....
食ってしまうかもしれぬな？

やめろ？やめて欲しければウヌにはすべき事があるんじゃないかの？

....ふふん。そうじゃそうじゃお前は素直で可愛いワシの眷属だったよな？うむ、泣くな泣くな。これはワシとウヌが出会った時から決まっていた事なのじゃ。

(リップ音)

おい、女子供。何を見ておる。
ワシら夫婦同士の接吻を見るでないぞ。
穢らわしいのぉ。

そんなことよりじゃウヌ。
折角のままごとなんじゃ、ワシら二人では味気ないと思わぬか？だからのお、

帰ったらワシと子孫を残そう？なあ？
ワシも家族というものに興味があってな？
一度は己の子供を拝んでみたいのじゃ。

なあに、恥ずかしがらなくてよい。
なにせワシらは夫婦、なのじゃからなあ？

ほんじゃ、世話になったのお。

おい女。
二度とワシの亭主に手を出すんじゃあないぞ？分かったな？たわけが。

(ふすまを閉める音)

なあ、ウヌよ。後悔しておるか？
じゃろうな。でも、もっと後悔させてやろう

(火炎を出す音)

どうだ、軒並地獄と化したぞ？
あーあー...ウヌの家、ほうきが引っかかって出れないんじゃないのか？

何？どうした？殺さないと約束した？
ワシは食わないとは言ったが殺さないとは言っとらんが？

これこれ、ダメじゃ。逃げるでない。
まだままごとの最中だぞ？

今更怖気付いたかの？

ウヌは後戻り出来ないんじゃ。
これはお前が選択した地獄じゃろ？
たっぷりと味わっていけ。

現世の地獄をな。

・台本（ゆるボイ！）
妻と子供で暮らしていたら見知らぬ女が訪ねてきて...
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
ドドめ