（ドアをノックする音）
空いている。
ん、なんだお前か。
どうした？今は仕事中なんだが。
あぁ、もう散歩の時間か。
すまないな、少し待っててくれ。
……ダメだ。
一人で行くことは許可できない。
だから何度も言っているだろう、外は危険がたくさんあると。
必ず私と一緒に外に出るんだ。
それに、お前が私と出会った時のことを覚えているだろう。
捨て犬のように弱ったお前を助け、ここまで育ててやったのは私だ。
その恩を忘れたとは言わせないぞ。
お前の人生は私のためにある。
お前は一生、私のそばにいればいいんだ。
幸い生きていくのに苦労しないぐらいの財産と権力はある。
いいな？お前の仕事は私に仕えることだ。
……さて、仕事もひと段落ついたし散歩に行こうか。
（間）
おい、何をしている。
はぁ……言っただろう、お前は何もしなくていいと。
何故私の仕事部屋にいる。
全く、少し目を離すとこれだ。
いいか？お前にはただ私のそばにいることだけを求めているんだ。
勘違いするなよ、お前にそれ以外の価値はない。
書類を整理するのも、お茶を淹れるのも、お前よりうまい奴はいるんだ。
だからお前は黙って私に従っていろ。
……すまない、お前のことになると少し冷静さを失ってしまうんだ。
お前がいなくなると考えただけで私はどうにかなりそうだ。
お前の意思は極力尊重したいんだけどな。
あぁ、すまない。
分かってくれるか。
こっちへ来てくれ。
ほら、遠慮しないでくれ。
……うん、やはりお前は暖かいな。
こうしてお前を抱いている時間が幸せなんだ。
（間）
何かできることか……？
ふふ、そうだな、それじゃあお茶を持ってきてくれるかい？
ああ、こぼさないようにゆっくりな。
（間）
ま、待て！どこへ行くんだ。
ここを出る？
なにを言っているんだ。
ここを出てしまったらお前は生きる術を失ってしまうんだぞ。
お前が今まで暖かい食事を食べ、安心して眠ることができたのは全て私のおかげなんだ。
その恩を忘れてお前は出て行くというのか。
待て！許さないぞ。
お前が一人で出て行くなんて決断ができるわけがない。
唆したやつがいるはずだ。
いつも屋敷にくるあの女か？それともうちのメイドか？
まあ誰でもいい。
とにかく私は認めない。
例えどんな手を使ったとしてもお前をここに繋ぎ止める。
そして……考えたくもないがお前がここからいなくなれば地の果てでも追って探し出してみせる。
（ベルの音）
ん？あぁ、来客……そうか、あの女が来る時間か。
でも今はそんなことどうでもいい。
さぁ、早くドアから離れてお前の部屋へ帰るんだ。
（ドアを開ける音）
おい！待て！
その男を捕まえてくれ！
な……
何故見逃した……
まさかお前……お前が唆したのか。
あいつを。
私だけの愛おしいあいつを。
許さないぞ。
お前だけは絶対に地獄に叩き落としてやる。
二度とこの大陸で商売ができると思うなよ。
ちっ……今すぐ貴様を消してやりたいが私にはやるべきことがある。
首を洗って待っていろ、必ずあいつを見つけ出し、貴様を絶望させてやる。
（間）
あぁ……久しぶりだな……
ずっと……ずっと会いたかった……
お前が出て行ってから私は何もすることができなくなってしまったんだ。
皮肉な話だ、依存しているのはお前かと思っていたけど、私の方だったんだな。
お前が今日来た理由は分かってる。
私の商会を買収するんだろ。
あの女の商会もお前が買収したそうだな。
驚いたよ、まさかお前を唆したあの女自身が身を滅ぼすことになるなんてな。
まさに自業自得というやつだ。
だが、私の商会も今となっては何の価値もないものだ。
けど、それがお前の……復讐なんだろ？
お前から自由を、思考を奪った私への。
あぁ、好きにしてくれ、例えどんな形だろうとお前と一緒にいられるならそれでよかったんだ。
私はそれに気がつくのが遅すぎた。
……ど、どうした？！急に抱きつくなんて。
まさか……私の勘違いだったのか？
私は、お前に嫌われていなかったのか…？
どうしてだ？！お前にとってはもう何の価値もない女だろう！
いいのか…？これからも一緒にいて。
そう…か…
もう少しだけ……このままでいさせてくれないか……
あぁ、この震えが止まるまでで構わない。
本当は怖かったんだ。
けど嘘じゃないんだな、この温もりは。
ふふっ、久しぶりに抱き合うとやはり暖かいな。

・台本（ゆるボイ！）
ヤンデレ商人を没落させて分からせる
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
リトルブリッジ