現世で交通事故に遭って生死の境を彷徨っている貴女は、魂のみ冥界に迷い込んでしまう。
途方に暮れていた貴女に声をかけてきたのは、自分より年下の少年で…？

あれ？お姉さん、なんでこんなところにいるの？

え、だってお姉さん、死者じゃないよね？死んでない人がここに来れるはずないんだけどなぁ…

うん、そうだよ。ここは死者のみが来れる世界、冥界ってとこ。

あ、いやいや！お姉さんは死んでないって！ホントに！

うん。僕は冥界の住人だからね。ここにいる人が現世で生きてるか死んでるかの判別くらいはつけられるよ。

まぁね。お姉さんみたいな、現世でまだ生きてる人がたまに迷い込んでくるんだ。

死んでない人が長時間ここにいると、現世の肉体の方がそのうち死んじゃうから、早く戻らないとね。

そうだよ。今、お姉さんは魂だけの状態でここにいるからね。

現世でのお姉さんの肉体は魂が長時間離れた状態だから、そのまま放っておくと死ぬってこと。

焦らなくても大丈夫だよ。お姉さん、まだ大丈夫っぽいし、僕が出口まで案内するから。

ううん、気にしないで。僕もタダ働きしてるわけじゃないし。

そ。現世で生きてる人を外まで案内したら、王様からお駄賃がもらえるんだ。

…？王様は王様だよ？この冥界を支配してる王様がいるんだ。

ま、王様のことは置いといて、早く行こ。あんまり長居してもお姉さんに得はないしね。




お姉さん、大丈夫？しんどくない？

あ、やっぱり？冥界の空気に当てられちゃった？

じゃあ…はい。僕が背負ってあげる。乗っていいよ。

あはは、遠慮しないで。こう見えても僕、力持ちだから。

(背中に乗っかられる)

じゃ、出発するよ。僕の背中でゆっくりしてて。




どうしたの、お姉さん？何か思い出した？

そうなんだ。交通事故に遭って、ね…

そっか…うん、なるほど。やっぱりお姉さん、現世で死にかけてたんだ。

あ、言ってなかった？ごめん。

そう。生きてる人がここに来るのって、大抵は現世で生死の境を彷徨ってる時なんだ。

でも思い出せてよかったね。あとは生き返るだけだ。

ん？僕？僕はここの住人だから出ないよ。なんで？

あはは…お姉さんは優しいなぁ。一緒に出ようって誘ってくれたの、お姉さんが初めてだ。

でもいいんだ。僕、ここでの暮らしけっこう好きだし。

それに…分かってるでしょ？死んだ人間が生き返ることは絶対にないって。

生きてる頃の記憶はほとんどないけどさ、お姉さんみたいな人に優しくしてもらったのはなんとなく覚えてる。

だからきっと、僕の人生も悪いものじゃなかったんだって思うよ。

ありがとね。僕のこと、気にかけてくれて。

多分、ずっと先のことになるだろうけどさ、お姉さんがおばあちゃんになって寿命を全うしたら、またここで会お。

その時は冥界の面白いところ、たくさん案内してあげる。楽しみにしててよ。

うん。お姉さんが今度は死者としてここに来るの、待ってるね。

さ、そろそろ出口が見えてきた。

うん、一旦ここでお別れ。行ってらっしゃい。

また会おうね、お姉さん。バイバイ。





あれ？そこにいるのって……あの時のお姉さん？

あ、やっぱり！久しぶり！ちゃんと寿命を全うできたんだね！よかった〜！

それにしても…ふふっ。お姉さん、おばあちゃんになっても綺麗だ。

あはは…僕は冥界で暮らしてるから、歳はとらないんだよ。

そんなことより…また会えて嬉しいよ、お姉さん。

そう？見た目はおばあちゃんでも、僕にとってはずっとお姉さんだよ？

…どうしても気になる？おばあちゃんなのにお姉さんって呼ばれるの…

じゃあさ、一回だけ魔法かけてあげる。

お姉さん…ううん、おばあちゃんは頑張って人生を生き抜いたんだから、これくらいのご褒美があってもいいよね？

(キス)

ね？魔法のキスでおばあちゃんからお姉さんに早変わりだ。

うん、昔のままのお姉さんだ。とっても綺麗だよ。

あはは、口説いてないよ。ホントのこと言っただけ。

それでなんだけど…昔、僕が言ったこと覚えてる？

そう、冥界の面白いところ、たくさん案内してあげるって。

時間はたっぷりあるしさ、今から色んなところ、ゆっくり案内してあげる。

うん！またよろしくね、お姉さん♪

・台本（ゆるボイ！）
冥界で迷子になっていたら、親切な少年に助けてもらった
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
松平蒼太郎