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定められた運命と時の牢獄
written by 松平蒼太郎
  • ヤンデレ
公開日2021年06月05日 18:00 更新日2021年06月05日 18:00
文字数
1787文字(約 5分58秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
本編
いらっしゃいませ。……あっ、もしかしてあなたが…

(咳払い)

失礼しました。こちらへのご来店は初めてですか?

そうでしたか。ここは見ての通り時計屋です。

時計の制作や販売、修理等を行なっております。

はい、時計のことならなんでもお任せください。

なるほど。恋人さんに似合う腕時計を探していると。

何かご希望のものがあれば、オーダーメイドでもお作りできますが、いかがいたしましょう?

そうですか。それでは気に入った品が見つかるまで、ゆっくりお探しください。


お決まりになられましたか?

あ、これにしますか。

なるほど、恋人さんは銀色がお好きなのですね。

ふふ、そうですか。クールな性格にも合っていると。

お客様はお目が高いですね。

これ、見た感じは新品に見えるでしょう?

はい、そうですよね。

ところがですよ、これは腕時計の黎明期に作られた代物なんです。

はい、信じられませんよね?こんなにピカピカなのに。

これには不思議な力が宿っている、とでも言いましょうか。

どれだけ時が経っても、ずっとこの輝きを保っているんです。

もっとも、これはわたしの祖父から聞いた話でありますから、真偽の程はわかりません。

ふふ、そうですね。黎明期は言い過ぎにしても、わたしの祖父の代からこのように輝いていたことはたしかですよ。

小さい頃、わたしもこの輝きに見惚れていましたから。

そうですね。ここは祖父、父、わたしの親子三代で続いている時計屋です。

え?……あぁ、いえいえ。ご購入していただいて全然構いません。

むしろこうしてお客様に見つけてもらうために、この時計はここにあったのでしょうから。

はい、お会計ですね。プレゼント用に包装いたしますので、しばらくお待ちください。



いらっしゃいませ。

ふふ、そろそろ来る頃だと思っていました。

はい、これはどういうことだと思いますか?

えぇ、見ての通り、貴方以外の時間が止まっています。

察しがいいですね。

そうです、このあいだ購入していただいた時計の効果です。

あれには世界の時間を止める力があります。

えぇ、時計がこれと見定めた人物とその伴侶以外の時間をすべて止めてしまうんです。

すごいでしょう?こんな時計、どこの世界を探しても見つかりませんよ。

夢ではありません。これが現実ですよ、お客様。

あぁ、お客様。時計を壊そうとしても無駄です。

どうしてって、その時計は何をしても壊れないからです。

信じられないというのであればどうぞ、存分に壊していただいて結構ですよ。



いい加減、おわかりいただけましたか?

それはいわば、永遠を司る時計。どんなことがあっても壊れるどころか、傷一つつきません。

いいえ、一度止まってしまった世界の時間を動かす方法はありません。

時は永遠に止まったまま。なんせ「永遠を司る時計」ですから。

こうなった理由?簡単な話です。

これが運命だったからですよ。わたしと貴方が結ばれるためのね。

わたしは運命の人をずっとここで待ち続けていました。

正確には、代々わたしの家の当主が待ち続けていたんです。

けど祖父も父もそのような人には巡り会えなかった。

いえ?祖父も父も独身ですよ。

わたしの家は代々養子をとって、その養子に家督を継がせていました。

父はどうしても娘が欲しかったようなので、男ではなく、女のわたしを養子にしたみたいですが。

ここまで話せばもうおわかりですよね?

そう、わたしの家が時計屋を営んでいるのは、すべてこの瞬間のため。運命の人に出会うためです。

貴方の持ってる銀時計は、その運命の相手を選定するためのもの。

貴方がそれを手に取った時点で、もうこうなることは確定していたんです。

運命の相手の意味?もちろん、わたしの夫になるということです。

いいえ、あなたに拒否権はありません。

そしてもう二度と世界は動きません。

残念ながら、恋人さんとはこれで永遠のお別れです。

わたしとあなた、この時の止まった世界で二人でずっと暮らすんです。

え?わたし、あなたのこと好きですよ?

なんでって、一目惚れです。きっと時計もわたしのこの感情に反応したんだと思います。

さて…それではそろそろ、わたしのモノになっていただきましょうか。

抵抗しても無駄ですよ。すぐにあなたの心も止まりますから。わたしの方を向いたまま、ね。

えぇ、ここにある時計たちの針が止まっているのと同じように、あなたの心も止まるんです。

さ、おいで?この時の牢獄の中で、永遠に二人っきりで過ごしましょう…?
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
定められた運命と時の牢獄
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
松平蒼太郎
ライター情報
マツダイラソウタロウ
 pixivにてフリー台本を投稿しています。
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