公開日2025年07月11日 21:00
更新日2025年07月11日 21:00
文字数
852文字(約 2分51秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
本編
借り物のマイクに向かって、叫ぶように歌った。
……違うな。
アイツっぽく言うとしたら、歌うように叫んだ。
ステージ上から見える、退屈そうなフロアの観客たち。
俺たち目当ての客なんて片手で数えるほどしか居ないだろう。
熱狂の最中に居るのは俺たちバンドメンバーだけで、客は気を遣ってかリズムを刻んだり横に揺れてくれているくらいだ。
それでも良いんだと、今の俺は心から思えるようになった。
マイクも、バンドも、メロディーも、歌詞も。
そのすべてが借り物だ。
アイツは自らの命と魂を削り、このバンドを、ひいては世界を作ったのだろう。
ライブハウスには臓を打つ低音が響く。
俺の叫びは果たして、生バンドの大音響にかき消されてはいないだろうか。
アイツの歌はせめて、ファンの皆に届いているだろうか。
借り物のマイクに向かって、歌うように叫ぶ。
今になってようやく、涙の気配が近付いてきた。喉が絞まる。
負けるな。叫べ。音楽を途切れさせるな。
間奏に入ると、途端にアイツの気配を傍に感じられた。
俺の歌声が無い、その時間だけは本物の“アイツの歌”だった。
なあ、友よ。
俺はお前の音楽が本当は大好きだったんだぜ。
評論家ぶってさ、売れないだの古臭いだの言っちまったけどさ。
俺はお前の音楽が世界で一番、カッコいいと思うよ。
もうすぐ間奏が終わりオチサビに入ってしまう。
惜しい。
お前の音楽が俺みたいな情けない小心者の声で、言葉で上書きされるのが悔しい。
だからせめて最後に聞かせてくれよ。
お前は何のために音楽をやっていたんだ?
このライブが終わったら墓参りに行くよ。
お前の好きだった安酒を買ってさ、二人分だよ。
そして一緒に飲もう、メジャーアーティストの愚痴でも話しながらさ。
だからさ、友よ。
俺は歌うよ。
間奏が終わる。
さっきまで退屈そうにスマホを操作していた観客と目が合った。
ともすれば虚勢とも呼べる笑みを浮かべ、その観客へ指をさす。
アイツの音楽をただひとりの観客へ届けられるように。
今度は借り物じゃない、俺の叫びに乗せて。
胸の内で数えるエイトカウント。
俺は深く息を吸った。
……違うな。
アイツっぽく言うとしたら、歌うように叫んだ。
ステージ上から見える、退屈そうなフロアの観客たち。
俺たち目当ての客なんて片手で数えるほどしか居ないだろう。
熱狂の最中に居るのは俺たちバンドメンバーだけで、客は気を遣ってかリズムを刻んだり横に揺れてくれているくらいだ。
それでも良いんだと、今の俺は心から思えるようになった。
マイクも、バンドも、メロディーも、歌詞も。
そのすべてが借り物だ。
アイツは自らの命と魂を削り、このバンドを、ひいては世界を作ったのだろう。
ライブハウスには臓を打つ低音が響く。
俺の叫びは果たして、生バンドの大音響にかき消されてはいないだろうか。
アイツの歌はせめて、ファンの皆に届いているだろうか。
借り物のマイクに向かって、歌うように叫ぶ。
今になってようやく、涙の気配が近付いてきた。喉が絞まる。
負けるな。叫べ。音楽を途切れさせるな。
間奏に入ると、途端にアイツの気配を傍に感じられた。
俺の歌声が無い、その時間だけは本物の“アイツの歌”だった。
なあ、友よ。
俺はお前の音楽が本当は大好きだったんだぜ。
評論家ぶってさ、売れないだの古臭いだの言っちまったけどさ。
俺はお前の音楽が世界で一番、カッコいいと思うよ。
もうすぐ間奏が終わりオチサビに入ってしまう。
惜しい。
お前の音楽が俺みたいな情けない小心者の声で、言葉で上書きされるのが悔しい。
だからせめて最後に聞かせてくれよ。
お前は何のために音楽をやっていたんだ?
このライブが終わったら墓参りに行くよ。
お前の好きだった安酒を買ってさ、二人分だよ。
そして一緒に飲もう、メジャーアーティストの愚痴でも話しながらさ。
だからさ、友よ。
俺は歌うよ。
間奏が終わる。
さっきまで退屈そうにスマホを操作していた観客と目が合った。
ともすれば虚勢とも呼べる笑みを浮かべ、その観客へ指をさす。
アイツの音楽をただひとりの観客へ届けられるように。
今度は借り物じゃない、俺の叫びに乗せて。
胸の内で数えるエイトカウント。
俺は深く息を吸った。
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