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“人間くさい”物語①
公開日2025年08月14日 20:15 更新日2025年08月14日 20:16
文字数
935文字(約 3分7秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
本編
夢は忘れてないけれど、夢の追い方は忘れてしまった。

高橋が遅れて到着した。
大衆居酒屋の空気に似合わない、小ぎれいなスーツを着てやってきた。
俺はちょうど2杯目のビールを飲み干したところだった。

「ははっ、変わらないなお前」
「高橋は変わったな」

大学時代の同期だった俺と高橋。
共に文芸サークルに所属し、俺は作家として、高橋は編集として何冊も同人誌を作った。
1回生の夏、初めて作った同人誌をコミケに持ち込むも、1冊も売れなかったのは今となっては良い思い出だ。

「お前、仕事は?」
「営業成績ダントツ最下位」

 先月も今月も、上司に怒鳴られてばかり。
 と付け足した。

「だろうな」

高橋は悪気無く笑った。
スーツに時計にと見てくれは変わったが、あの頃と変わらない、くしゃりと歪む無邪気な笑顔だ。

「まだ書いてんの、小説?」

高橋が問う。
それもまた、悪気無く。

「……まさか。仕事で忙しいし」
「そっか」

この話題を打ち切りたくて、店員を呼んだ。
俺は3杯目のビールを、高橋はハイボールと焼き串の盛り合わせを注文。

「俺の人生って何なんだろうな」

なんて、ネガティブで哲学的なセリフを吐いたのは、意外にも高橋の方だった。

「インスタ見てるよ。楽しそうじゃん」
「虚像だ、あんなのは」

先んじて配膳されてきたビールとハイボールのグラスをコツン、とぶつけて同時に呷る。

「成功して、周りに期待されて、それに応えようとする。それって“俺の人生”なのか?」
「お前の努力の結果だろ」
「空っぽなんだよ。器だけゴテゴテと飾り付けられてる気分だ」

不思議だと思った。
俺と違って、さっさと夢という呪いから逃れた男がこんなことを考えているだなんて。

「俺、実はまだ書いてんだ。小説」

なぜ、そう言ったのか、自分でも分からない。
でも何だか、伝えた方が良い気がした。

「やっぱお前はすげえよ」

高橋はため息交じりに呟いて、ハイボールを一気に飲み干した。

「読んでほしいんだ」
「おう、もちろん。ボッコボコにしてやるよ」

俺は原稿ファイルを開いたスマートフォンを高橋に渡した。
液晶を見つめる高橋の目は、大学時代に戻っているように思えた。

「ん? なんだお前、嬉しそうだな。大学時代に戻ったみたいじゃん」
「うるさい、良いから読めよ」

俺は綻ぶ口元を、ビールのグラスで隠した。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
“人間くさい”物語①
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
エンタメビジネス編集者ツッツー
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