45
おやすみ前の朗読「夜の霞が晴れたら」
written by 須藤水波
  • ファンタジー
  • 少年
  • 寝かしつけ
  • 癒し
公開日2021年07月22日 20:20 更新日2021年08月25日 20:40
文字数
2570文字(約 8分34秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
あらすじ
ミーティアという町に住む男の子・フレッドのお話です。童話調。
キャラごとの台詞は声を変えても変えなくても大丈夫です。

【登場する名前】
フレッド:男の子。6歳~10歳をイメージしています。
アルヴィール:男女不明の旅人。実は”人”ではない。
【そのほか】
フレッドのお母さん

***

一応、聞くのは寝る前向けのお話です。寝かしつけのような。
ささやきでも、普通に読んでも、バイノーラルでも、モノラルでも、ステレオでも。
配信や、動画投稿などにいかがでしょうか。

「朗読本文」部分だけ読むのもOKです。
「明日」は あす・あした、どちらでも。
本編
〈役柄・キャラがある方はそれで〉
こんばんは、今日もお疲れ様でした。
もうお布団の中ですか?
まだなら寝る準備をしてください。

……いいのですね?
では、こちらを読みましょう。
今日のお話は『夜の霞(かすみ)が晴れたら』ですよ。

----朗読本文----

森に囲まれた町、ミーティア。
この町に住む男の子のフレッドは、星空が大好きです。

昼間、木々の間からさしこむ陽射し(ひざし)を眩しいと感じ、
夜は、町の広場にある噴水のふちに腰かけ満天の星空を楽しんで、一日、一日を大事に過ごしていました。

そして今日も、彼は広場にやってきました。
夜なので、人通りは多くありません。

にぎやかな昼間とは違い、なんだか大人の時間のような気がして、フレッドはそんなひとときが好きでした。

そこに、声をかけてくる人がいました。
見た目では、男性なのか、女性なのか、わかりません。

「こんばんは」
「……こんばんは」
「隣、いい?」
「いいよ!」

フレッドは うなずきました。
立たせたままは、かわいそうだと思ったのです。

二人は、星空を見上げたまま、話をします。

「俺、フレッドっていうんだ。君は?」
「私は、アルヴィール。この町には、初めて来たんだ」

声を聞いても、やっぱり男性か女性かわかりません。

けれども、フレッドにとっては、問題ありませんでした。

星空を眺めている自分たちは同じだと思ったのです。

「どこかに行くの?」
「ああ、旅をしているんだ。今日はこの町の宿(やど)に泊まろうと思って」
「どうして旅をしてるの?」
「こうやって、出会う人との時間をもっと知りたいからさ」

不思議な答えでした。
フレッドには、アルヴィールのいっている意味がよくわかりません。

「たくさんの人に会いたい、ってこと?」
「それもある。今のうちにやりたいことをやろうと思ってね」
「お家には帰らないの?」
「帰る必要はないんだ。誰も待っていないから」

アルヴィールは、フレッドの質問にどんどん答えてくれます。
時には難しい言葉を使いましたが、分かりやすく言い換えてくれたりしました。

フレッドにとって、アルヴィールは見知らぬ人から、知り合いへと変わったのです。

「フレッドはこの町から出たいと思ったことはないのかい?」

その質問に、フレッドはちょっとだけ悩んでしまいました。

出たくないと答えれば、嘘になる気がしたのです。

フレッドは、誰に対しても、素直でいたい性分でした。

「あるよ」

そう答えると、アルヴィールは星空ではなく、フレッドを見ました。

「じゃあ、私についてこないか?」

突然の誘いです。
でも、フレッドはやっぱり、素直でした。
彼も、星空ではなく、アルヴィールの顔を見つめます。

「それはいやだ」
「町から出たいんじゃないのかい?」
「そうだけど、パパとママといたいから」

フレッドだって、冒険をしたい年頃です。憧れもありました。

でも、大好きな両親から離れることは嫌だったのです。

「そうか。フレッドはいい子みたいだね」

アルヴィールがほほえみました。

「私だったら、ついていってしまうのに」
「君は大人だから、一人でも平気なんだよ。きっと」
「……そうだね。それでも、一人がさみしくなるときがあるんだよ」
「だったら、気が済むまでこの町にいればいいよ。みんな優しいから、大丈夫!」
「ありがとう」

二人は笑いあいます。フレッドは、それに、と続けました。

「きっと、君の町の人も、帰るのを待ってるよ」
「そうだろうか」
「うん。俺と町の人が同じなように、君と君の町の人も、同じくらい優しいと思うんだ」

アルヴィールは、フレッドの答えが意外だったようで、少し黙ったあとで、笑いました。

「その考え方は、いいかもしれないね」

優しい声を聞き終わらないうちに、気づけば、フレッドが見ている世界は黒くなっていました。

いいえ、黒いというよりも、そう、目を閉じていたのです。

さっきまでアルヴィールと話をしていたというのに。

そして、寝てるんだ、とわかると同時に、名前を呼ぶ声がします。

フレッドが目を開けると、そこにはお母さんがいました。

「あんた、どうしてこんなところで寝てるの」
「寝てなんかないよ」
「寝てたよ。フレッドが噴水のところで寝てるよって教えてもらって来てみたら、本当にすやすや眠ってるんだから……」

フレッドは隣を見ます。アルヴィールはいません。

「ねえ、アルヴィールは?」
「誰のこと? あんた一人だったよ」
「そうなんだ…。この町の宿に泊まるっていってた旅人さんだよ」
「さっき宿屋の主人と話したけど、そんなお客さんがいるなんて聞いてないよ」

あれれ。
フレッドは首をかしげます。

確かにアルヴィールはいました。話もしました。声も覚えています。そして、顔も。

「……でも、本当なんだよ」

お母さんは、フレッドが素直なことを知っています。だから、もちろん。

「うん、あんたが言うならいたんだろうね。今はいないだけ」
「また、会えるかな」
「会いたいの?」
「いろんなことを教えてくれたんだよ。本みたいな人だった」
「物知りってこと? それはいいね」

お母さんが笑えば、フレッドも嬉しそうにうなずきます。

「ねえ、また星空を見に来てもいい?」
「寝たりしなければね。風邪をひいちゃうかもしれないでしょう」
「気をつける」
「それならいいよ」

二人は手をつないで、家路へとつきます。

もうそろそろお父さんが帰ってくる時間でしょう。

三人そろったら、夕飯を食べて、今日だけの時間を過ごすのです。


風が、そよそよと吹いています。
雲がはれ、お月さまが見えました。煌々(こうこう)と町を照らします。

アルヴィールは、町の外で足を止めて振り返ります。

「家を思い出させてくれてありがとう」

そう呟くと、歩きはじめました。
そして、風がふくとキラキラと銀色の粉が舞います。

アルヴィールは人ではありませんでした。
これまで旅をしてきた彼は、あるべき姿に戻り、いるべき場所へ帰るのでしょう。

でも、フレッドは知りません。
これからも知ることはないかもしれません。

それでも、その日の不思議な経験を、フレッドはずっと覚えていることでしょう。

----朗読本文 ここまで----


――ここまでになります。いかがでしたか?

少し不思議な、優しいお話でしたね。
……もうすぐで寝てしまいそうですね。

それでは、おやすみなさい。
あなたの明日が、いい日でありますように。

(あなた、は君やお主、各演者様の役柄に応じて、ご主人さま・お嬢さまなどなんでも変更可能)
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
おやすみ前の朗読「夜の霞が晴れたら」
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
須藤水波
ライター情報
須藤水波です。投稿台本を利用してくださる方の活動を応援しております!
連絡先はTwitterにしています。何かあればDMよりご連絡ください。
有償販売利用の条件
当サイトの利用規約に準ずる
利用実績(最大10件)
須藤水波 の投稿台本(最大10件)