500年に一度、生贄として清らかな乙女がお狐様への生贄として捧げられる村。
今年がその500年目に当たり、身寄りのない娘が選ばれた。

その日の夜、お狐様が社台の中に現れて…

気がついたか？
ここか？ここはお稲荷さんと人間たちに呼ばれておる社台（やしろ）じゃ

妾か？
その前にそなた、昨日今日の事は覚えておるかえ？

うむ、その通りじゃ
そなたの村では500年に一度、清らかな乙女を妾に花嫁として…正確に言うなら生贄として捧げれば村が安泰になると本気で思うておるようじゃの

分かったかの？
そうじゃよ。そのお狐様というやつじゃ
少々歳を食うておるだけの、ただの狐じゃよ

うん？狐にも年寄りにも見えぬ…とな？
あっはっはっはっ！
二千年ほど歳を重ねておるが、そのように頬を紅く染めて妾に見惚れる娘御（むすめご）はそなたが初めてよのぅ

前に捧げられた娘たちかえ？
青ざめてずっと震えておったわ
あまりにも哀れでな
ここから遠く遠く離れた村に嫁に出したのじゃ


なっ…何を急に泣き出すのじゃ？！

妾か？
確かに贄として人間の娘が来た事は何度かあったが、もう長いこと一人じゃの

あー！これ！なぜそうも泣くのじゃ！
泣くな！困るではないか！


［間を置く］


泣き止んだかの？
少しは落ち着いたようじゃの

なんだ、そのような事か
村で妾のことをそのように教えておるのは知っておる
妾ほど長く生きておれば食うものはほとんど要らぬ。故にお主ら贄にされたおなごを、ましてや生きたまま腑（はらわた）を喰らうなど全く必要のない事なのにのぅ

そなたが謝ることではなかろう

人間とは弱くて醜いものよ
理解を超えたものを恐れて、要らぬ犠牲を仲間に強いる
差し出される者たちも身寄りのない、立場の弱い者ばかりじゃ
そのような犠牲の上にある安寧なぞ、何の価値もありはしないのじゃ


妾か？
寂しくはないぞ
ここら一帯が荒れることのないように守るのが妾の役目なのじゃ
ゆえに妖（あやかし）共や獣ども、もちろん人間たちも見守っておる

妾の主である宇迦之御魂大神(うかのみたまのおおかみ)と天界で囲碁を打つこともあるしの
供物の酒を酌み交わす仲の妖（あやかし）もおるし、喧嘩仲間の佐保姫もおる

寂しくしておる暇などないのじゃ


そなたは心優しい娘御（むすめご）じゃの
妾の手伝いをしたいなどと言う人間がおるとは、思いもせなんだぞえ
だがの、人間にできる仕事などない

人間を捨てると申すか？
待て待て、そなたにも良い縁を探してやるつもりでおるのだ
おなごの幸せを持てるのだぞ？

妾の幸せとな？
それはそなたとは関わりのない話よ

妾と一緒にいたいとは、変わった娘じゃの
しかしの、妾と共に歩むには人間の身体は弱すぎるのじゃ
妾の仙気は人間には強すぎる
眷属にする事もできなくはないが、お主への負担が大きく時間もかかる


どんな事でもすると申すか

ふむ…
一週間ほどかけてそなたの身体に妾の仙気が入った血をすこしずつ含ませてやらねばならぬ
その間ずっと苦しいままになるゆえ、気が狂ってしまう者が多いのじゃ
そうやって苦労して仙気を身体に入れても、それを馴染ませるには妾とそなたがまぐわう必要があるのじゃ

そなたのように優しい娘御には到底耐えられまいよ
ましてそなたは乙女であろう？

む？女同士ではまぐわうのは無理？
ほほほっ
妾とて伊達に長生きしておらぬぞ
この姿は仮初のものに過ぎぬ
そうさの、お主の願望がこの姿を形作っておるようなものじゃ

仙のものとはそういうものよ
そなたらの理（ことわり）から外れた場所におるのじゃ
望むなら男の姿になる事も容易い事よ

このままが良いとな？

くっ…はははははっ！
そなた、おもしろい娘御じゃの

気に入った！
妾の本殿に番として連れてゆこう
狐の姿になるゆえ、妾の背に乗るが良い

ん？この尾が気になるか？
これが我が通り名の所以じゃ
うむ、九尾の狐がそれじゃの

これ！モフるでない！
やめろと言うに…！


まったく、仕方ない奴じゃの

連れて行く前に、聞いておくことがある

そなた、名をなんと申すか

・台本（ゆるボイ！）
お狐様と生贄
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
凛