君。ちょっといい？

そう、君。少し相談がある。ついてきて。



忙しいところごめん。

けどこっちも火急の用があるから。

うん、実は……

あの子…うちの営業部の可愛い後輩って言ったら分かる？

そう、その子。

で、君も知っての通り、あの子は配信者。

最近グッズ販売されたのも知ってる？

そう、さすが。情報が早い。

…っ、もうここまで言ったら、わたしが何を言わんとしてるか、分かるよね？

グッズ、全部売り切れた…！最悪…！

一番欲しかったアクリルスタンドも売り切れちゃって…！

あのクソ上司が…！

一番間の悪いタイミングで仕事入れやがって…！

ねぇ、どうすればいいと思う⁉︎

わたし、あの子のグッズないと生きていけないんだけど！

無理！あの子のグッズの代用品なんてこの世に存在しないもん！

…え？ほ、ホントに？嘘じゃないよね？

あとで返せと言っても返さないよ？

やった…！明日もなんとか生きていけそう…！

それで？いくら払えばいい？10万？

そんなに要らない？

えー…いくら二つ購入してるからって、一つをタダで譲ってもらうのは流石に気が引けるんだけど…

え、そんなのでいいの？お金じゃなくて？

うん…それくらいならお安い御用。まかせて。

じゃあ今度の休日、いつもの駅前集合で。

時間？じゃあ10時で。よろしくね。



お待たせ。それじゃ、行こっか。

それで？双子の妹さんの誕プレ選びだっけ？

ふーん、そうなんだ。

双子なのに全然好みが違うから、毎年困ってるって…

けど、それなら大体把握してるんじゃないの？妹さんの好み。

あ、そう…好きなものが毎年変わるんだ。

それは大変だね…

わたし、一人っ子だからきょうだいいる大変さとか分からないけど。

うーん…とりあえずそこの百貨店で何か探そ。

意外とあっさり、良いの見つかるかもしれないし。



君、ホントに毎年苦労してるんだね…

たしかに君のセンスじゃ、妹さんに文句言われても仕方ないよ…

だって独特すぎるもん。

あれもらって喜ぶ女の子の方が稀(まれ)じゃないかな…

まぁとりあえず、無事に買えてよかったね。

うん…っていうか、こんなのでよかったの？グッズ譲ってもらったお礼。

そっか…君がいいって言うならいいけど…

あ、そうだ。そろそろお腹空かない？

お昼くらい、奢ってあげるよ。

いいよ、それくらい。

あの子のグッズ譲ってもらったこと考えると、むしろ安すぎるくらいだし。

うん、行こ。

今なら少し時間も遅いし、フードコートも空いてるんじゃないかな。



はぁ〜…緊張した。死ぬかと思った…

毎日職場で顔合わせてますよねって…何言ってるの！

ラフな私服姿のあの子とばったり遭遇したんだよ⁉︎

友達とあんな楽しそうに遊んで…！

笑顔が尊い…むり、しぬ…

え？そりゃそうでしょ。

こんなオタク全開したら、キモがられるし。

一リスナーとして、あの子には笑顔でいてほしいからね。

そう？活動者に元気でいてほしいって思うのは普通じゃない？

あはは、ありがと。

でも君も結構な隠れファンだよね、あの子の。

あの子のシチュボ、コンプしてるでしょ？

わかるよ。だって全部の動画に君のコメントあるし。

あ、うん…あの子はわたしらがリスナーだってこと知らないね。

そう、だね…あの子には悟られないようにしないと。

同じ職場だし、配信者だって知ったのもたまたまだし…

ま、とにかく今日はお疲れ様。

うん、とりあえずこれで貸し借りはなしね。

じゃ、今日もまたあの子の配信あるし、そこでまた会お。

あ〜、今日の配信楽しみ！

そう！セリフの生読みだって！

マジ楽しみでしかない！

あ、そろそろわたしはこの辺で。

送ってくれてありがと。またね。

・台本（ゆるボイ！）
職場の先輩は俺と同じ配信者のリスナーでガチ勢だった
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
松平蒼太郎