待って。どこ行くつもり？

は？なんで？

あんな奴ら、わたしたちだけで十分。

魔王様がわざわざ出向く必要はない。

…ッ、それは…でも！

(抱きしめられる)

そっか…全部知ってたんだ…

そう。天帝自ら出陣してきた。

しかも四天王と十二神将まで引き連れて。

美徳を司る天使も出張ってきてるし…

そ。天界は本気でわたしたちを潰すつもりってこと。

でも貴方が出る必要はない。ここにいて。

(キスされる)

…ッ！そんなので誤魔化さないで…！

貴方が討ち取られたら、これまでの苦労が水の泡…！

せっかくここまで上手くいってたのに…！

悪魔なら代わりはいくらでもいるけど、貴方の代わりはいない！

貴方みたいに悪魔たちを一つにまとめられる大魔王なんて、そうそう現れないから…！

…貴方が消滅したら、わたしはどうすればいいの…⁉︎

そう。貴方もわたしも連中に浄化させられたら、存在そのものが消滅する。

冥界にも行かない。この世のどこにもいなくなる。

貴方はもう、元の人間に戻るには穢れすぎてる。

戦いに負けたら、今度こそ本当に死ぬ！分かってるの⁉︎

元々この世に未練はないって…

(ビンタ)

バカ！大バカ！

ノコノコ前線に出て死ぬなって言ってるのが分かんないの⁉︎

もちろん貴方の力は認めてる！

でも相手はあの天帝だから…！

いくら貴方でもそう簡単に勝てる相手じゃ……っ⁉︎

(キスされる)

な、なに、勝算って…

あぁ…あの人間の男…

なに？そいつを人質にでも使うの？

…は？降伏勧告をするって、本気？

連中がそんなのに応じると思う？

不浄なものに対しては、情け容赦のない連中なのに？

何が何でもわたしたちを滅ぼそうとしてくるに決まってる。

ふーん…その男、天界にとってそんな重要な人物なんだ…

わかった。貴方の判断を信じてみる……

(拘束する)

…なんて言うと思った？バカな魔王様。

貴方を死なせるわけにはいかない。絶対に。

例の男を人質に使いながら、わたしたちは地上を制圧して天界に攻め込む。

貴方はわたしたちを死なせないために、総力戦を避けようとしてる…そうでしょ？

その気持ちは有難いけど、貴方以外誰もそんなこと望んでない。

聞いてるでしょ？悪魔や堕天使が元天使だってこと。

要するに、わたしたちは負け組。

連中の意に沿わない存在として、この薄暗い地底に叩き落とされた。

許せない…わたしたちを自分の都合で落としておいて、今度は大事なモノを奪おうとするんだから…！

たとえ悪魔が全滅したとしても貴方だけは守る。

貴方さえ生きていれば、また新たな悪魔を生み出せるから。

そう。今の貴方は、この世に蔓延る穢れの根源。

貴方が魔王になった際に、穢れを生み出す権能を全て移したから。

元々はわたしたち七悪魔が持っていた権能だけど、貴方に全て託した。

そう、あの時。

正式に主従の契りを交わした時にね。

なんでって…愛してるから。この世の誰よりも。

貴方は、怒りにまかせて敵を滅ぼすしか能がなかったわたしに、愛を教えてくれた。

(抱きしめる)

変だよね、わたし…

憤怒を司る悪魔のはずなのに、恐怖を感じてる。

こんなに震えて…情けないよ…

違う。わたし自身が死ぬことじゃなくて、貴方を失うことが怖い。

愛だとか恋だとか…そんなもの穢れを生み出すための、邪(よこしま)な感情でしかないと思ってたのに…

悪魔のわたしが、そんなものにがんじがらめになるなんて、どうかしてる。

でも…貴方のこと、本当に好きだから。

貴方を死なせないために、奴らを滅ぼす。

天への復讐なんて、正直もうどうでもいい。

今は、貴方を殺そうとしてる連中が憎くて憎くてたまらない…！

天使や神々がどれだけ押し寄せようと関係ない。

本当の怒りってのがどういうものか、連中に教えてやるんだ…！

魔王様…戦いが終わるまでここで大人しくしてて。

これから戦争の指揮はわたしがとる。

大丈夫。これでも全悪魔の元支配者だから。

貴方の怒りも悲しみも全て、わたしが引き受ける。

貴方の望む世界は、わたしが作ってみせる。

すぐ戻ってくるから待ってて。

…二度と貴方に寂しい思いはさせないから。

・台本（ゆるボイ！）
地獄の悪魔たちによる狂宴〜憤怒の大悪魔・サタン編〜
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
松平蒼太郎