人知れず悪人を始末する正義の殺し屋の組織に所属するあなた。初めて任された大きな任務は、世間で名の知れた大企業の一人娘を籠絡、懐に入った後、父親の目の前で殺すこと。ターゲットにほんの少し抱いてしまった想いを胸に隠しながら、任務達成のため今日も彼女に会いに行く。

※SEは必須ではありません。

(街の図書館の奥の奥。人の寄り付かない、彼女のために用意された図書館らしからぬスペース。埃一つないまるでサロンのような空間で、周りに数人のボディガードを従えて、座り心地の良さそうなソファーに座っている)


…こんにちは。
今日も来てくださったんですね。

ふふ、私もお会いしたかったです。


…そうだ！[手を合わせる音]
あなたにお見せしたいものがあるんです。

[ポーチから取り出す音(チャックの開閉音)]

これをご存じですか？

やっぱり！
あなたはご存じなんですね。

実は…この耳かき棒を使って、あなたに耳かきをしたいなぁ…なんて。

婚約者でもない男性にこんなことを言うのは…はしたない、でしょうか。

もちろん、家（いえ）の者（もの）の了承（りょうしょう）は得ています。
説得には少し、骨が折れましたけれど。

…本当に？
嬉しい。


では早速、私の太ももの上に…どうぞ。

[頭を乗せる音]
ふふ、ごめんなさい。

家族以外の男性とこんなに近づくのは初めてで、緊張してしまって。


その…申し訳ないのですが…最初にお耳を消毒してもいいですか…？
それが、あなたへの耳かきを許可する条件、なんです。

っ、ありがとうございます。

少しひんやりするかも…
(濡れコットンで耳拭き開始)
大丈夫ですか？

気を悪くしないでくださいね。

ふふ、あなたが寛容（かんよう）な方でよかった。

消毒はこんな感じ、でしょうか。
(耳拭き終了)

それでは、耳かきを始めますね。
(耳かき開始)

…そういえば、この耳かき棒、一般の方には有名なのですか？

ええ、先日初めて知って、執事に頼んで取り寄せてもらったんです。

私の耳かきは、銀細工（ぎんざいく）の施（ほどこ）された金属製のものですので、こういった面妖（めんよう）な…
タンポポの綿毛（わたげ）のようなものは付いていません。

梵天、というのですか？
耳かきの後のブラッシング用…なるほど…


ふふ、あなたは私の知らないことをたくさん知っていらっしゃるので、お話するのが本当に楽しいです。

この図書館に通うようになってもう何年も経つのに、この場所まで来てくださる方は今まで一人もいなくて。

だからあなたがここに迷い込んでいらした時、すごく嬉しかったんです。
そんなあなたがこうして何度も会いに来て、楽しいお話を聞かせてくださるなんて…

夢なんじゃないか、って今でも思ってしまうくらい。
(耳かき終了)

次は梵天、使ってみますね。
(梵天開始)

気持ちいいですか？

…よかった。
ずっと、あなたに何か恩返しがしたいと思っていたんです。

ん、よし、このくらいでいいかな。
(梵天終了)

(深呼吸)
少し緊張しますが…
(耳ふー)

男性に耳かきをした際にはこれが必須（ひっす）だと、メイド長から聞きました。

お耳、赤くなってしまいましたね。

(笑いを堪えながら)
…ごめんなさい。
あなたがあまりにも可愛らしくて。


では、反対側のお耳を上に。
[向きを変える音]

こちらも消毒しますね。
(耳拭き開始)

消毒液は冷たいのに、こちらのお耳まで真っ赤ですよ？

…本当に、可愛らしいお方。
優しくて、甘くて………未熟で。

殺すはずのターゲットに絆（ほだ）されて、あまつさえ恋心まで抱（いだ）きかけている、なんて。

あら、動く際はお気をつけて。
私が今、あなたの頸動脈（けいどうみゃく）に簡単に触れられるということをお忘れなく。

(耳拭き終了)
(耳かき開始)

…それにしても、あなたの組織から見た私は、見目（みめ）の良い親切な男性に夢中になる、世間知らずのお嬢様、といったところでしょうか。

ふふっ、なんて陳腐（ちんぷ）で浅はかな発想なんでしょう。

そんな方たちが暗部（あんぶ）で正義を振りかざし、殺しを正当化しているなんて、この国の未来が思いやられますね。


その上あなたのような未熟者（みじゅくもの）が送り込まれてくるとは…私もナメられたものです。

それともあれですか？
あなたは特攻隊（とっこうたい）、なんでしょうか。

…つまり、爆弾を持って敵地（てきち）に飛び込んで、自分もろとも…
(耳かきを一回止めて、耳元で)
どかーん、
(耳かき再開)
みたいな。
ふふ、そういう要員（よういん）なのかしら。


狼狽（うろた）えちゃって、かわいそうな人。

その程度の組織なんですよ？あなたが属しているのは。
正義を盾（たて）にして、心の内（うち）では人を人とも思わない、そういう人たちの集まり。
あなたも結局は…ただの捨て駒（ごま）。

(耳かき終了)
(梵天開始)
…だからね、取引をしましょう。

あなたには２つの選択肢があります。
任務失敗として組織に逃げ帰るか、もしくは…
私の婚約者となってここにとどまるか。

まぁ前者（ぜんしゃ）の場合、まず間違いなくあなたは…
(咳払い、言葉を濁すイメージ)

後者（こうしゃ）の場合、あなたが今「悪」だと信じている父の仕事を、いずれは手伝っていただくことになりますが。
もちろん命の保障はされますし、何より私のそばにいることができる。

魅力的な条件でしょう？
ふふ、こう見えて私、あなたのことをとても気に入ってるんです。


…さて、そろそろ終わりにしましょうか。
(梵天終了)
(耳ふー)

これからどうするか、
決めるのはあなた、ですよ？

・台本（ゆるボイ！）
"正義"の殺し屋と箱入り娘の耳かき取引
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
ミフジ