とある道場で師範をやっている男が出先から帰ってくると、弟子たちが床で伸びていた。その中心に立っていたのは、かつて自身が助けた妖である黒狐で…？

(道場の扉を開け放つ)


失礼します…この道場の師範はどちらに？


いえ、あなた方に用はありません。わたしが用があるのは師範だけなので。


えぇ、まぁ…道場破りというやつですね。とりあえず師範をですね…


…留守ですか。なら、仕方ありません。しばらくここで待たせていただきますね。


(道場の門下生たちに取り囲まれる)


…本気ですか？あなた方が束になってかかってきても、わたしには敵わないと思いますが。


(ため息)


かしこまりました…それでは、師範が帰ってくるまで、あなた方でわたしの相手をしていただきましょうか。


相手をするからには、きちんとわたしの暇つぶしをしていってくださいね？


(道場生たちを叩きのめし、師範が帰ってくるのを待つ)


……おかえりなさいませ。少しの間、貴方様のお弟子さんたちに相手をしてもらっていました。まぁ、あまり暇つぶしにはなりませんでしたが…


…怒ってらっしゃるのですか？大事なお弟子さんたちを傷つけられたから？


そうですか…でも、わたしは今でも貴方様のことは、お慕い申し上げておりますよ？


えぇ。わたしをその偉大なるお力で救ってくれたでしょう？


人々から命を狙われた妖(あやかし)たるこのわたしを、その身を賭けて守ってくれたではありませんか…


貴方様のあの頼り甲斐のある後ろ姿、今でも忘れられません…あの時からずっと、ずーっと追い続けてきたんですよ？貴方様のこと…


…左様でございますか。では、道場破りらしく、今のわたしの力を思い知らせるしかありませんね。


(抜刀)


先に言っておきますが、妖術の類いは使用しません。貴方様の土俵…刀のみで戦い、打ち勝ってみせましょう。


えぇ。わたくしが勝利した暁には、貴方様にはわたくしの婿となっていただきます。これは確定事項ですので、どうかご了承くださいませ。


はい、勝ちますよ。そのためにほうぼうで道場破りを行ない、刀の腕を磨いてきたのですから。


あぁ、ご存知だったのですね。わたしがその「双刀の黒狐」ですよ？二刀流がわたしの流儀ですので。


…そうですね。御託はここまでにしましょうか。あとは真剣で語り合うこととしましょう。お互い、サムライらしく…ね？


(真剣勝負)


ふぅ…流石は師範。やはり一筋縄ではいきませんね…これまでやり合ってきた中で、一番強い…


いえ、諦めはしません。もうわたしの目には貴方様しか映っておりませんから…早く、わたしのモノになって？


(一撃で師範を打ち倒す)


ハァッ、ハァッ…勝てた…！ようやっと、貴方様をわたしのモノに…！


どうしても何も…愛の力ですよ。貴方様への想いが、貴方様の力量を上回った。ただそれだけのことです。


この道場もおしまいですね…師範からわたしの婿に鞍替えしなきゃですから。誠実な貴方様はわたしとの約束を守っていただけますよね？


守って、いただけますよね…？わたし、貴方様に助けられた時から、貴方様のことだけを考えて生きてきたんですよ…？心優しい貴方様は、乙女の想いを無碍にはしませんよね…？


(馬乗りになる)


ねぇ、どうして…？どうして、わたしを拒否しようとするんですか…？わたしはこんなに貴方様を想っているのに、どうして…！


貴方様と添い遂げる為だけに、ここまできたんです…今さら引き返すことなど出来ません。


わたしは狐の里でもはぐれ者ですから…二人でどこか遠くで一緒に暮らしましょう？


そのためには…まずは貴方様を身体でわからせる必要がありそうです。


わたしとの交尾で、貴方様を立派な旦那様に仕立てて差し上げますので…覚悟はよろしくて？


大丈夫…『旦那様』のことは、必ずやこの手で幸せにしてみせますから…ね？

・台本（ゆるボイ！）
【純愛】道場破りな黒狐の真剣婿取り
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
松平蒼太郎