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【朗読】ふたりぼっちの講義室
written by 弐橋 葉
  • 学校/学園
  • シリアス
  • 学生
  • 朗読
  • ビター
  • 後輩
  • 切ない
  • 片思い
公開日2023年12月28日 22:11 更新日2023年12月28日 22:11
文字数
954文字(約 3分11秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
大学生
視聴者役柄
大学生
場所
指定なし
あらすじ
大学の授業で、隣同士の席に座るようになる2人。
話すわけでもなく、ただなんとなく居心地のいい距離感を保つだけ。
そのつもりだった。

ビター寄りの朗読台本です。
別名義で公開していたSSから台詞をカットし朗読用に再編しました。
ちゃんとハッピーエンドなのでご安心ください。

一人称や性別改変はご自由にどうぞ。
本編
――別れを告げるなら、いっそ突き放してくれれば良かったのに。

彼女との出会いは偶然だった。こんな 陳腐ちんぷな語り出しがふさわしすぎるほどに、まったくもってありきたりな、よくある話で。

大学の講義室、眠たい話を聞くつもりの無かった僕は適当な後方の座席に陣取っていた。

すかさずBluetoothで耳を塞ぎ、出席した事実だけを残せば構わないというなんとも投げやりな体たらく。

机の上に置いたリュックサック。

体裁ていさいとして取り出したテキストの向こう、 所在しょざいなさげな彼女の姿をみとめた。


視線がかち合う。

空いている席は前方にもあるというのに、そこに腰を降ろしたくない気持ちは同じらしかった。

少し長めの前髪は、不安そうに逸らされた瞳に影を落とす。

メイクをしているかも分からないその地味さを、とりたてて嫌だとも感じなかった。


無言でリュックサックを引き寄せる。

そこに座ればいいという意思表示。

初めて聞いた声は、感謝の言葉だった。


それから僕らは毎週、無言の交流をするようになる。

いや、交流とは呼べない。

ただ隣に座るだけ。

変わったことといえば、彼女がペンを走らせる音やプリントをめくる音に耳を傾けるようになったくらいか。

かりかりと音を立てて熱心に 板書ばんしょするなら、前のほうに座ればいいのに。

思えど口にはしない。

そこまでの関係性ではない。


気が付けばテスト期間を迎え、この関係のおしまいが見えてくる。

分かっていたこととはいえ、 一抹いちまつの寂しさが胸の底で呟いたのが聞こえてしまった。


二度目に聞いた声も、感謝だった。

テスト用紙を回収し終えた後に、初対面と比べて和らいだ眼差しが向けられる。

安堵あんどしたようにはにかんで、ペンケースに文房具を仕舞いながら彼女は語った。


この授業は去年、単位を落としていたこと。

再履修になるから同級生もおらず、居場所のなさを感じていたこと。

無事に卒業出来そうなこと。

そして、あと一年頑張ってね、と。


笑って、手を振って彼女は朗らかに席を立つ。

寂しいなんて思っていたのは僕だけだった。

彼女ともう会うことはない。

今までの行動に全て 合点がてんが行って、逃げるようにイヤホンで耳を覆った。


彼女はただ、目立ちたくない隠れミノに僕が必要なだけで。

シンパシーを感じていたのはこちらだけだった。


――それから、就職先で彼女と再会するのは、今の僕も知らない別の話。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
【朗読】ふたりぼっちの講義室
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
弐橋 葉
ライター情報
イラストレーター、ボイスコとして活動中です。
文章を書くのも好きなので合間合間に台本も投稿していきたいと思います。
pixivにも台本をマルチしていますがこちらのほうが早いです。

何か琴線に触れたものがあればお気軽に演じてくださいませ。
使用報告も不要、口調や固有名詞の改変についても良識の範囲でいくらでもどうぞ。
楽しく使って頂くためでしたら如何様にもしてください。
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