仕事が忙しく、毎日残業で疲れ果ているあなた。ようやく訪れた休日、耳かきをしようとしていたら…

※SEは必須ではありません。

[インターホンの音]
(数秒あける、玄関まで歩く)
[玄関扉の開く音]

…あっ、大丈夫ですか？
わたし、このお部屋の隣に住んでるんですけど…

そうですそうです、右隣の、はい。
それで、さっき大きな音がしたので、ちょっと…心配で。
何かあったのかな、って…その…

え、耳かき棒を拾おうとして、テーブルに頭を…？
なるほど…それであんな音が…

いえ、というか、突然ごめんなさい。
結構大きな音だったので、びっくりしちゃって…

あ、ということは、今から耳かきされる感じですか？

(小声)
んー…それなら…

…あの、もしよければなんですけど、わたしが耳かきしましょうか？

いや、そんなに怪（あや）しまないでください。
壺を買わせたりなんてしませんって。

ただ、すごく疲れてるようなので、何かお手伝いができたらなぁと…

ほんとですか？
で、では、お邪魔させていただきます…！

[玄関扉の閉まる音]
(数秒あける、リビングまで歩く)

えーと、あ、はい、ソファー失礼します。
[衣擦れ音(ソファーに座る)]
んしょ…

耳かき棒、お借りしますね。

それじゃあ…膝枕、どうぞ。
遠慮なさらず、どうぞどうぞ。

[衣擦れ音(頭を乗せる)]

…よし、入れていきますねー。
(耳かき開始)

…力、もっと抜いてもいいですよ？

ふふ、確かに。
さっき初めて話したのに、いきなりリラックスは難しいですよね。

でも、ほんとに、何か企んでるわけじゃないので、安心してください。

んー…そうですね。
うちのマンションって、正直言って壁が薄いじゃないですか。

隣のお部屋のテレビとかシャワーの音も、結構聞こえちゃいますし。
外を通る人の声とか、駅近（えきちか）だから車通りも多くて…

あー、わかります。
マフラー太めの車の音、かなり響きますよね。

…まぁ、そういうマンションじゃないですか。
だから、お兄さんの帰りが遅いのも、わかっちゃうというか…

あ、いえいえ、うるさいとかじゃなくて。
いつも遅い時間に疲れた足取りで帰宅されるので、心配だったんです。

そのうち倒れちゃうんじゃないかって、実はずっと気になってて。
…それで、さっきの音を聞いて、慌てて飛び出してきちゃったんですけど。

そんな、お礼を言われるようなことは何も…

むしろ、お邪魔してる立場でいうのもアレなんですけど…
見ず知らずの人間を家にあげてしまうほど、疲れてるんだな…なんて、ふふ。

…次、ふわふわ入れますねー。
(梵天開始)

…え、わたしのこと、ご存じだったんですか？
あー…はは、確かに、朝はよくバタバタしてますね。

壁も薄いし、ご迷惑にならないようにしようって思ってはいるんですけど、どうしても朝が苦手で。

もしかして、うるさくて起こしちゃったりしてます…？

…よかったぁ、安心しました。

というか、起きる時間もわたしより早いなんて…
(ため息)
お兄さんの目の下のクマの理由がよぉーくわかりました。

これは…わたしの耳かきで癒せるように、頑張らなきゃですね。

(耳ふっ)※息短め

…あ、びっくりしました？
ふふ、ごめんなさい、次やる時はちゃんと言いますね。

よしっ。
それじゃ、頭の向き、変えましょうか。

はい、反対側を上に…
[衣擦れ音(頭の向きを変える)]

ん…首とか苦しくないですか？
…へへ、お顔がお腹側にあるの、ちょっと照れますね。

ではではこちらも…
(耳かき開始)

…そういえばお兄さん、体の力がだいぶ抜けてきたような。
少しは信頼してもらえてる、って思ってもいいですか？

…ふふ、ありがとうございます。

目をつむったまま、わたしに体を預（あず）けてくださいね。
ほら、人肌（ひとはだ）って安心するってよく聞きません？

わたし、人よりも体温が高いほうなので…
きっとお兄さんもリラックスできるはず…です、多分。

ゔ…そこはツッコまないでくださいよ。

誰かに耳かきをするのなんて、初めてなんですから。
…ちなみに、膝枕するのだって初めてです。

もう、そんなわたしがこんなことしちゃうくらい、お兄さんの顔が疲れ果ててたんですってば。

クマはひどいし目は死んでるし…
さすがに放っておけないくらいのレベルでしたよ？

(梵天開始)
…お仕事、大変なんですね。

今日が初対面のわたしには、お仕事やめてーとか、言う権利はないんですけど。

お仕事で疲れてるのに、家でも気を遣ってくれてるって知ってたので。

洗濯機をまわす時間とか、掃除機をかける時間とか…
いっつも考えてしてくれてるの、気づいてたんです。

だから…
そんな優しくて気遣い屋さんなお兄さんを、少しでも癒せたらな、って思ったり。

…ふふ、そろそろ息、吹きかけますね。

(耳ふっ)※息短め
(耳ふー)
はい、終了です。

…そのまま、起き上がらずに聞いてほしいんですけど。

あの、これからも時々こうやって、耳かきしに来てもいいですか？

…やった。
だって、こういうこと、顔を見て言うの恥ずかしいじゃないですか。

じゃあ…わたしの膝枕は、お兄さん専用ってことで。
お兄さんも、わたし以外の人に癒しを求めちゃダメですからね？

んー…確かに、不思議な関係かもしれませんけど。
このよくわからない関係が、意外と心地よかったりしません？

よく知らない他人が、心の拠（よ）り所（どころ）だっていいじゃないですか。


…あれ、お兄さん？
眠くなっちゃいました？

ふふ、眠ってもいいですよ。

[衣擦れ音(頭を撫でる)]
少しの間、こうしてますね。

…おやすみなさい。
お兄さんの疲れが、少しでもとれますように…

・台本（ゆるボイ！）
壁薄マンションの隣人ちゃんは社畜お兄さんを耳かきで癒したい
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
ミフジ