「私ばっかりこんなに好きで…なんだか、悔しい。」
周りに内緒で執事と付き合っているお嬢様。
ようやく訪れた二人の時間もあっさり仕事に向かおうとする彼に、日頃の寂しさが募ってしまい…。

(　)　ト書き　　《　》執事彼氏のセリフ

効果音・BGMによる演出はご自由にしてください。



(夜、お嬢様の自室)

はぁ、おいしい。
やっぱり
あなたが淹れてくれるホットミルクが一番だわ。
落ち着く。

今夜は満月なのね。
星もよく見える。

はぁ…。
お父様のご友人を訪問したり、
パーティーに出席したり…。
さすがにおじ様達のお相手ばかりじゃ
疲れちゃうわ。

《お嬢様、お言葉が過ぎますよ…。》

あら、
だってほんとのことじゃない。
楽しくもない話を
笑顔で聞いていなきゃいけないのよ?

せめてあなたが私の警護についてくれたら
ずっと一緒にいられるのに。
お父様ったら屋敷の留守なんか任せて…。
あなたの顔すら見れなかった。

でもやっと二人きり。
ふふっ。
今夜は朝まで一緒にいてくれるわよね?

《申し訳ございませんが、急な仕事が入ってしまいましたので、わたくしはこれで…。》

えっ、急な仕事が入ったって…
どういうことなの?

《明日、ご主人様が急遽お客様をお屋敷にお招きすることになりまして…。これから夜通し準備に取り掛かります。》

明日屋敷にお客様がいらっしゃるからその準備?
何それ?
聞いてないわ。

まったく、
お父様ったらいつも急なんだから…。

でも、
準備なら他の執事やメイド達で充分じゃ…。

《そういうわけにはいきません。状況を常に把握しておかないと…。》

そういうわけにはいかない?

…いやよ。
私、今日はあなたと過ごせるって、
それだけを楽しみにずっと頑張ってたのよ?

お願い、
今夜だけは一緒にいて。

《お嬢様、わがまま言わないでください。これもこの家の、お嬢様の将来のためです。》

わがまま…?
私の気持ちは、
あなたにとってはただのわがままっていうの?

なんで…。
ねぇ、なんでそんなこと言うの?
　
私達恋人同士よね?
あなたは「私に会えなくて寂しい」とか、
そういう気持ちはないの?

私ばっかりこんなに好きで…
なんだか、悔しい。

前々から思っていたけど、
屋敷の中でも私のこと避けてるでしょ?
目も合わせてくれないし…。

周りには秘密にしないといけないのはわかってるわ。
でもせめて二人きりの時くらい…
恋人としてのあなたの顔を見せてよ。

(執事彼氏、黙り込む)

何も言ってくれないのね。

わかったわ。
本当は私のこと好きでもなんでもないんでしょ?
真面目なあなたのことだもの、
世間知らずの跡取り娘のままごとに付き合うのも
執事の仕事の一つ…といったところかしら。

執事に情けをかけられるなんて、
私も落ちぶれたものね…。

(執事彼氏、キスする。)

な、何よ、急に…キ、キスなんて。

《これがわたくしの気持ちです。》

これが気持ちって…
わ、私は言葉で伝えてほしいって意味で…。

《あら、嫌でしたか?》

べ、別に…
嫌なんて、言ってないじゃない。

《今度の週末、お嬢様のお務めのご予定はないとうかがっておりますが…。》

今度の週末?
今のところお父様から会食の予定とかは聞いてないわ。

《週末はお屋敷で…二人の時間を楽しみましょう。》

ほんと?
週末はあなたと過ごせるのね?

《はい。それまでいい子で待てますか?》

…わ、わかったわ。
それまでいい子で…待ってる。

その代わり…
最後に頭…撫でて。

《くすっ。かしこまりました。》

(執事彼氏、頭を撫でる)

ありがと。

じゃあ週末ね?
絶対よ?
約束してちょうだい。

《かしこまりました。それではおやすみなさいませ。》

それじゃ…おやすみなさい。

(執事彼氏、退室する)

行っちゃった。

はぁ…また上手くかわされたような気がする。

まったく、なんなのよ。
冷たいと思ったらいきなり…。
不意うちなんて…反則よ。
あんなの…
ドキドキするに決まってるじゃない。

でもあの人、
気づいていないのかしら…。
自分の耳が真っ赤になってたの。
ふふっ。
そういうところ、かわいいんだから…。
もう…大好き。


〜おわり〜

・台本（ゆるボイ！）
[お嬢様]お嬢様は執事彼氏の余裕シャクシャクな態度がお気に召さないようです
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
初実とうか