内容としては「浜辺に訪れるとそこには人魚がいて、それから･･････」といった内容となっております。

　【ある日の海、浜辺にて。】

　（ザザンザザン、という波の音）

　（パシャパシャ、と水しぶきの音）

　ん、ふふ。

　まぁ、この卵ってあのカニさんのかしら？

　生まれてくるのが楽しみね。

　うふふ。

　（ザッザッ、と砂の上を歩く音）

　だっ、誰ですかっ！

　え、そ、そんな･･････に、人間っ！

　や、やめてください！こ、こっちに近づかないでくださいっ。

　私の肉を食べても病気は治りませんし、若返ったりなどはしませんっ！

　だから、それ以上こっちにこないでくださいっ！

　･･････って、その剣。鞘に収まったまま？

　ということは･･････私を襲う気は無い、って事ですか？

　いいえ、だとしてもそれ以上は近づかないでください。

　私、人間が怖いんです。

　だから、早く向こうに行ってください！

　あ、あとそれから、私の事は他の方には絶対に喋らないでください！

　で、では。私は海に帰りますので。

　さよなら。

　（チャプン、という水の音）

　【別日、浜辺にて。】

　（ザザンザザン、という波の音）

　♪～♪～（鼻歌）

　ふふっ。やはりここは日の光が良く当たりますね。

　暖かい･･････。

　あら、このカニさんって･･････もしかして、この間の？

　うふふ、無事に生まれたのね。良かったぁ。

　（ザッザッ、という足音。）

　うっ、だ、誰っ！？

　･･････あ、この間の。

　あ、そんなに身構えないでください。

　その、貴方が私を襲う気が無いのはもう分かりましたから。

　実はあれから毎日、この浜辺を海の中から見ていたのですが、人間達は一人も来ないのを見てました。

　貴方が、私の事を誰にも言っていないんだと。

　ここ、お気に入りの場所なのです。

　だから、もしここに人魚が出ると噂になれば、人間共がやってきて、ここに居れなくなると思って。

　でも、貴方は私の言ったことを守ってくれて、その･･････。

　そ、それに。以前、貴方と出会った時に･･････。

　襲おうと思えば、私の背後からその剣で襲えたはずなのに、そんなことは一切しなかった。

　人間の事は怖いです。でも･･････。

　その、この間は失礼な事を言ってしまい、ごめんなさい。

　良かったら、こちらに来てお話しませんか？

　この間はご迷惑をかけてしまいましたし、その･･････。

　あ、もし貴方がお嫌でなければですが。

　･･････あ、ありがとうございます。

　その、えっと。

　ど、どうしましょう･･････。

　あ、そのっ！ほら、あそこのカニさん達を見てください！この間まで卵だったのですが、今はああして逞しく足を動かして･･････。

　あと、えっと･･････その。

　ご、ごめんなさい。

　なにぶん、人間の方と話をするのは初めてでしたから。

　それに、今まで一人でしたし。

　人間や魔物が、人魚の肉は病気を治す、若返る、という迷信を信じるようになって、親友も母も無くしまして。

　父も、母を亡くしたショックから行方知れずで。

　それから、誰かと会話するのが久しぶりなので、その。

　ごめんなさい、つまらない･･････ですよね。

　･･････うぅ。

　あ、あの。

　手を握ってもいいですか？

　その大きな手、気になるのです。

　ダメ･･････でしょうか？

　･･････あ、ありがとうございます。

　では、失礼して。

　（スリスリ、と肌の擦れ合う音）

　あ･･････暖かいですね。それに、トクトクと微かに脈打っていて･･････

　（スリスリ、と肌の擦れ合う音）

　こうして頬に当てると、とっても気持ちよくて、暖かくて、それで･･････。

　あっ、ご、ごめんなさいっ！勝手に頬に持っていったりしてっ。

　うぅ。すみません。

　あ･･････もう夕方に。

　では私、そろそろ戻らないと。

　その。私、毎日この時間にここにいますのでっ！

　また、来てくれませんか？

　貴方の気の向いた時で構いません！

　だから、その･･････。
　
　ま、またっ！

　（チャプン、という水の音）

　【別日、波辺にて】

　（ザザンザザン、という波の音）

　今日、来てくれるかしら･･････。

　ん･･････もう夕日が出てきてしまいそう。

　やはり、人間の方となんてやはり･･････。

　あら･･････あの姿。も、もしかしてっ！

　･･････隣にいたのは、誰なの？

　（ザッザッ、という足音）

　あ、その。こんに･･････いえ。こんばんわっ！

　待っていましたよっ。

　ふふっ。とても嬉しいです。

　また貴方に会えて。

　･･････そ、その。

　貴方は人魚の私の事ってどう思っておられるのですか？

　えっと、このように人間とは違って私の足はこのようになっておりますし。

　あの方の様に、陸も歩けない。

　あ、えっと･･････実はつい先ほど、貴方が女性の方と話しているのを見てですね？

　あなたがとても楽しそうに話されておりましたから、私･･････。

　そう、ですよね。やはり、貴方にとって私は普通ではない見た目ですし、住んでいる場所も違う。

　私は海、貴方は陸。こうして出会えたことがきっと奇跡なんだと思います。

　･･････きっと、これは神様が私にくれたご褒美なんです。

　ずっと一人だった私に、神様が気まぐれで与えてくれた･･････。

　だから、私。（目に涙を溜めているのをイメージしていただけると）

　その。

　貴方に寄りかかってもいいですか？

　･･････ふふ、ありがとうございます。

　暖かい･･････ですね。それに大きくて、逞しくて･･････。

　あぁ･･････本当に、暖かい。

　この暖かさを、あの方も。あの人間も･･････。

　（ザザンザザン、という波の音）

　ありがとうございました。もう大丈夫です。

　ふふ、なんだか元気がでました。

　では･･････もう日も落ちますし、ここまでにしましょうか。

　では、さよなら。

　（ザッザッ、という足音）

　あ、その！お待ちになって！

　実は私、貴方の事が･･････。

　いえ、なんでもないです。引き留めてしまいごめんなさい。

　（ザッザッ、という足音）

　あぁ･･････行ってしまう。

　次は、一体いつに･･････。

　好き、です。貴方の事が。

　私も、あの足が･･････欲しい。

　【別日、浜辺にて】

　（ザッザッ、という足音）

　あっ･･････！待っていましたよっ！

　ずっと、ずっと待っておりました！

　実は、貴方に見せたいのがあるのです！

　瞬きをせず、見ていてくださいね？

　ん･･････。

　（ザッザッ、という足音）

　ふふっ。どうですか？この足。

　これで、貴方とずっと一緒に居れます！

　あ･･････でも、数日に一度は、蓄えた魔力が尽きて元の姿に戻ってしまうのですが。

　ふふ、どうです？綺麗な足でしょう？

　歩き方も練習したのですっ。これで、貴方と一緒にどこへでも歩いて行けます。

　ふふ、あの方の足、とても馴染みます。

　え･･････？あ、えっとですね？

　実はあれから、何度か海の近くを訪れる貴方の姿を見かけたのです。

　いつもあの方が横にいた。楽しそうに笑う貴方がいた。

　貴方の元気な姿を見れる。それだけで良かった。それだけで良かったのに、思い出してしまうんです。

　あの時の貴方の温もりを。

　あの方が何気なく貴方に微笑む姿、あの女性があなたの手を繋ぐ姿、あの人間があなたに寄りかかる姿。

　この胸が、海の中にいるというのに熱くて、チリチリとして、火傷しそうになった。

　そしてその度に、あそこにいるのが私だったら、と思ったのです。

　だから、私。

　あの方を海に誘い込んで、その命と足を頂きました。

　遥か昔、人魚の歌声は魔性の歌声と言われていて、船乗りの方に恐れられていたのですよ？

　その声は男性は勿論、女性まで･･････。自ら海に身投げをしてしまう程だったのですよ？

　あの方は最後までうっとりとした顔のまま、そのまま命を手放していきました。

　だから、苦しまずに逝けたのだと思います。そこはご安心ください。

　あぁ、すごく嬉しいです。

　こうしてこの足で、貴方の隣に居れる。

　貴方がほほ笑んでくれる、手を触ってくれて、そして･･････うふふっ。

　さぁ、いきましょう？

　これからは一緒に同じ景色を見て、同じ場所を歩いていきましょうね？

　あなた。　　

・台本（ゆるボイ！）
ヤンデレ人魚
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
一ノ清　カズスケ