男は琵琶を奏でる遊女の元へ足しげく通っていた。しかし、彼女の正体は、男を狙っては貪り食う鬼であって…？

あら、お侍さん…またあちきの演奏を聴きに来てくれんした？


ふふっ、それはそれは…相変わらず、お口がお上手でありんすね。お侍さんは…


えぇ、かしこまりんした。お侍さんの日々の緊張が解けるよう、誠心誠意演奏しんすので…どうかごゆっくり、聴いておくんなんし。


(琵琶を弾いて演奏)


お侍さん…いかがでありんした？あちきの演奏…


まぁ…ふふっ、ありがとうござりんす。やはり、お侍さんに演奏を聴いていただくのは、とっても気分がようござりんす。


はい…お酒も進んだようで何よりでござりんす。そろそろ頃合いでありんしょうか？


(優しく押し倒す)


お侍さん…何度もあちきのところに通ってくださり、改めてお礼申し上げんす。


これまでは「お侍さんの癒しになれるなら本望」とお代は断ってきんしたが…本日はそのお代をまとめて払っていただきんすね。


…押し倒されているこの状況で、お分かりになりんせんか？お侍さんのお身体で支払ってもらうと言ってるんでありんすよ…


ふふ…今頃お気づきになられんした？あちきは鬼でありんすよ？人の娘に化けるなど朝飯前。こんなにあっさり騙されるなんて、お侍さんもずいぶん人がよろしいようで…


あら、そのご様子…もしかして、あちきのことをご存じでありんした？


えぇ、その通りでありんす。『琵琶姫』という、この国では特に危険種とされる鬼…だそうでありんすよ？あちき…


もっとも…あちき自身は『琵琶姫』などと名乗った覚えはないのでありんすが。勝手に人々がそう呼んでいるだけで。


あら、知りとうござりんすか？あちきのこと…


構いんせんよ？お侍さんがあちきのモノになると約束してくれるのであれば。鬼は人とは違い、決して約束を違えんせんので。


はい…でありんしたら、全部教えんすね？あちきのこと。


あちき、これまで人間の殿方はすべてこの胃袋に収めてきんしたが…お侍さんだけは特別に生かしてあげることにしんした。あちきの演奏を聴いて、最後まで正気を保っていられんしたから。


はい。あちきの演奏を聴いた殿方は、すべて気がふれちまいましたから…今、目の前にいるお侍さんを除いて、ね？


どうやら、あちきの奏でる琵琶の音色は、人の気をおかしゅうする作用があるようでありんす…あちきも鬼になって、初めて知ったんでありんすけど。


けど…そんなおぞましき旋律を、主さんは癒されると言って最後まで聴いてくれんした。これであちきは確信したんでありんす。番いにするなら、主さんしかござりんせんと。もう独りぼっちは嫌でありんすから…


さぁ、これで言葉で伝えられることは全て伝えんした。あとは身体同士の交わりでお伝えしんすので…邪魔な布は、剥いでいきんすね。


(抵抗する男の服を破り捨てる)


抵抗しても無駄でありんす…古来より、鬼に捕まった人間は、例外のう食べられる定めでありんすから。主さんも大人しゅうあちきに食べられて…ね？

・台本（ゆるボイ！）
【廓言葉】琵琶を奏でる美しき遊女は男を食らう鬼だった
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
松平蒼太郎