気に入っている女の子が婚約したと聞き、彼は嫉妬し略奪する事を企てる。

※フリー台本です。アレンジ自由、使用自由です。書き手の「呂綺」の名前だけ、どこかに記載してもらえたら嬉しいです。

＊＊＊

（ガチャと扉が開く音）

あれ？こんな薄暗い資料室で何してるの？
俺は明日のプレゼンで使う資料を取りに来たんだけど。
へぇ、部長に頼まれた書類を取りに来たんだ。
でもなんでそんなに困った顔してんの？

（笑いながら）いやしてるでしょ。
え？目当ての資料が棚の一番上にあって手が届かない？
それで脚立を探してたって？
何だそんなことか。


【そういうと彼は、ピッタリと彼女の背後に立つ】


で、どの資料？
俺がとってやるよ。
あーあれか、よっ……と。


【彼は彼女に密着しながら手を伸ばし、上の棚にある資料をとっていく。
そして彼女にそれを渡した】


はい、これで合ってる？
はは、どういたしまして。
っていうかさ、（意地悪な言い方で）なんでそんなに赤くなってるの？

俺が、君の背後に密着しながら資料をとったから？
そんな事で赤くなるなんて可愛いな。
え？俺の声が後ろから聞こえたら、ドキドキするんですって……はは、なにそれ面白い。
あーでも俺って、よく女の子に「いい声ですねぇ」って褒められるんだよね。
そんなに良い声してる？


【彼女は赤い顔のまま、顔をブンブンと縦に振る。
それを見て彼は笑った】


ははは、そっか、ありがとう。

……ところで、さ。
さっきから気になってる事があるんだけど、その左手の薬指の指輪って……君、婚約したの？

えっ、先週プロポーズされた？
へぇ、それはおめでとう。
もう5年も付き合ってる彼氏なんだ？すごいねー。

でさ、その彼氏の前でも君は……
（少し色っぽく）今みたいに赤くなったりするの？


【「長く付き合ってるから、そんな事はないです。もうドキドキしたりしないですよー」と彼女は笑う】


ふーん、長く付き合ってるからドキドキしないって言うけどさ、彼の事が本当に好きなら、そんな事にはならないと思うけどな。
ねぇ、もう5年も付き合ってるからって理由だけで、結婚しようとしてない？

（耳元に唇を寄せて）もしそうなら、奪っちゃおうかな？


【彼女はビクッと反応した後、慌てて彼から離れる。それを見て彼は笑った】


ははは、そんなに警戒しないでよ。
でも、妥協で生涯のパートナーを選ぶと、のちのち後悔するんじゃない？
現に君は、俺に口説かれかけてさっきよりも耳まで真っ赤になってる。


【「部長に資料を届けないといけないので、し、失礼します」と言った後、彼女は真っ赤な顔をしたまま慌てて資料室を出ていった】

（タタタタと走る音）
（扉が閉まる音）


あーあ、動揺してあんなに慌てて出ていくなんて、相変わらずかーわいい。
はぁ、それにしても……婚約者、かぁ。
なんか、イライラするな。


＊＊＊

【就業時間が終わり、残業時間】

（軽快なタイピング音）

あれ、残業で残ってるの……俺以外じゃ君だけだったんだ？
（楽しそうに）これってさ、昼間の資料室での話の続きをするチャンスって奴かな？


【彼はそう言いながら近寄り、彼女の横の席に勝手に座る。すると彼女はキーボードを叩きながら、小さな声で「困ります」と言った】


困ります……か。
その割にはさ、俺が横に来た途端、タイピングのスピードが遅くなったよね。
ほら、とうとう指が止まった。
この距離でもよく分かるよ、君の体温が上がってる事。

実はさ、前々から君が俺を見る度に赤くなったりしてるのには気づいてたし、俺に好意があるんだろうなって思ってたんだけど……。
さっき、君の指に光るその婚約指輪を見た途端、フラレたような気持ちになってさ、ちょっと落ち込んだ。
それと同時に、ちょっと火がついた。
俺さ、自分で言うのも何だけど、女にフラれた事が無いんだよな。
だから今、君を略奪してやろうって心の底から思ってる。


【彼の言葉に、彼女は激しく動揺する】


はは、動揺しちゃって、ほんと可愛い。
ねぇ、せっかく二人きりなんだし、君のこと抱き締めてもいい？


【彼女は何も言えず、ただ彼を見つめる事しか出来ない】


そんな潤んだ目で俺を見ちゃって。
無言は肯定とみなすよ？
ほら、ぎゅー。


【彼は彼女を強く抱きしめ、彼女の体温は更に上がっていく】


このまま俺に乗換えちゃえば？
それは無理？どうして？
彼氏に悪いから？
はは、理由が「彼氏を好きだから」じゃない時点で、君の気持ちは俺にあるって事がわかるよ。
それにさ、こうして耳元で喋るたびに、君の力が抜けてどんどん俺に身を委ねてる。

ねぇ、知ってる？
女性って男性より聴覚が敏感なんだって。
だから俺みたいな良い声に近くで囁かれると、理性が薄れ感度が高まっていくらしいよ。
その証拠に、君の息はドンドン上がってるし、こうして少し背中を撫でてやるだけで……ほら、身体がビクッと反応した。
表情も蕩けて、俺に抱かれたいって顔してるよ。
このまま理性を捨てて本心を剥き出しにしちゃえば？


【彼女はそれでもまだ、イエスとは言わない】


んー。まだ理性が勝ってるか。
じゃあさ、一つ質問に答えてよ。
君が彼氏に対して一番不満に思ってる事ってなに？

うん……
うん……

は？いや、それ普通によくないでしょ。
なに、5年間で2回も浮気してるって。
そういう男は、3回4回と繰り返すよ。
ねぇ、なんでそんな男と結婚するの？
長く付き合ってるから、離れ方が分からない？
（耳元で色っぽく）じゃあ今この状況、彼氏から離れるいい機会だと思わない？


【彼女はどうしていいか分からなくなり、涙目になる。すると彼は甘く囁いた】


ずっと、君の事が好きだった。
君は？
正直に答えたら、俺が君を守ってあげる。
言っておくけど俺は、割とモテる方だけど浮気だけはしたこと無いよ。
君は今、人生の帰路ってヤツに立ってるんじゃない？
このまま妥協で5年間付き合った浮気前科ありの男と結婚するか、抱き締められてるだけでドキドキする俺の方に来るか。
さぁ、どうする？


【「……私も、貴方の事が入社した時から好きでした」と彼女は涙を流し始める】


……泣きながらよく言ってくれたね、ありがとう。
そっか、君は入社した時から俺に好意を持ってくれてたのか、嬉しいよ。　

ほら、もう一回ぎゅー。
ねぇ、このままキス……してもいい？
ありがと。
あ、その前に……その左手にハマってる婚約指輪、外しちゃおうか？

END

・台本（ゆるボイ！）
君を略奪したいｰ耳元で囁く声ｰ
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
呂綺