0
シスターさんによる天国への素数カウントダウン
  • シリアス
  • ホラー
  • シスター
  • カウントダウン
  • 素数
  • バッドエンド
  • ファンタジー
  • 天国
公開日2024年06月18日 23:25 更新日2024年06月18日 23:25
文字数
3797文字(約 12分40秒)
推奨音声形式
バイノーラル
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
シスターさん
視聴者役柄
悩みを抱えた迷い人
場所
教会
あらすじ
心身ともに疲弊した貴方は、極上の癒しをもたらしてくれるというとある教会に辿り着きます。
そこにはどこか怪しげな雰囲気を纏った美しいシスターさんがおりました。彼女は優しい表情で貴方を迎え入れ、心地よい香りのするお香と、耳をくすぐる柔らかな声で、セラピーを行ってくれると言います。
その施術の名前は「素数カウントダウン」
聞いたこともないその響きに戸惑う貴方ですが、いつしか頭は蕩けていき、何も考えられなくなっていきます。

そしては貴方は辿り着くのです。
天国へと。
本編
(若干低めの冷たい声で)
よくぞ参られました。迷える子羊よ。
ここは、心が傷ついた方を安らかな眠りに誘う……
そう、言わば天国へお連れする教会にございます。
貴方はこれより、私の聖なる法術によって、この穢れに満ちた現世を捨て去り、
悩みも痛みも苦しみもない楽園へと至ることでしょう。
私にお任せください。
必ずや、その傷ついた魂を浄化し、かの約束の地へと送り出しましょう……。

(ここからかわいらしい声で)
……うふふ、なーんて。びっくりしちゃいました?
ちょっと見栄を張っておおげさに申しましたが、
ここは要するに日々のストレスを癒す施術を行う……
療養施設? セラピー? みたいなものです。
ほら、良いお香の香りがするでしょう? これにはリラックス効果があるんですよ。
ふふ、さっきまで緊張されていたようですが、少し肩の力が抜けてきたみたいです。
どうぞ安心してそこの椅子にお座りください。

さて。
ここに参られた、ということは……よっぽど辛い目にあわれましたのね?
もし差し支えなければお聞かせください。もちろん、お話できる範囲で構いません。

……ええ、なるほど。

……はい、それは……お辛かったですね。

(頭をなでる音)
大丈夫。大丈夫ですよ。
辛かったですね。
苦しかったですね。

でも、大丈夫。
ほら、目を閉じて、このお香の香りを嗅いでください……
そして私の手……
貴方の頭を撫でているこの手に集中してください。
(頭をなでる音)
ほら、よしよし。よしよーし……。大丈夫、大丈夫ですよ~……。

どうですか? 辛かったこと、苦しかったこと……
その心の痛みが、ふわふわ~って、溶けていくでしょう?
う~ん……でも、まだちょっと痛そうです。心の傷って、中々治りませんからね。
大きな痛みが無くなった後も、ちくちくとした針のようなものが、
長い間刺さり続けて、時折疼きだす……それが、心の傷というものなのですから。

では……特別に、私の唯一無二の法術……いえとっておきの施術である、
「素数セラピー」を行って差し上げましょう。

ふふっ、何それって顔されてますね。それも仕方のないことです。
これは私オリジナル。私にしかできない癒しの施術なのですから。

貴方はASMRって、知っていますか? 
簡単に言えば、心地よい音、声によって、すっごく気持ちがよくなる……
あっ、今ちょっとえっちなこと考えました? 鼻の下、伸びてますよ。

今から行うのは健全に気持ちよくなれる……
それこそ天国にいける、音声セラピーです。

ところで、貴方は素数を知っていますか?
素数……それは約数が1と自分自身しかない、寂しい数字です。

それは……つまり孤独……貴方も、私も……孤独……。

えっ? シスターさんは違う? うふふ……そんなこともないんですよ。実は、ね。
でも、孤独というのは悪いことでもありません。

私たちはお互い孤独だからこそ分かり合えるのです。
貴方はきっと、他人に心を許せるような、そういうタイプではないのでしょう?
……貴方が話してくれたお辛い記憶……
その時、だれも手を差し伸べてくれなかった……
だから、ここに来られたのでしょう?

でも、私には心と体を預けてくれましたね?
私にはわかっちゃうんです。うふふ。何せシスターさんですからね。

孤独な方に寄り添い、癒して差し上げる……
それが神のしもべたる私の役目なのですよ。
だから、私は孤独でなければならないのです。
私にとって、貴方は1なのです。
貴方にとって、私が1であるように……。

ふふ、ちょっと哲学的なことを言ってしまいました。
これはシスターさんのお役立ち情報ですが、よく意味の分からない発言をした後は、
哲学的だなぁ~……て言えば、大体のことは誤魔化せちゃうんですよ。

さて。前置きが長すぎましたね。
早速、体験していただきましょう。

これから私は、100以下の素数を、大きい順に数えていきます。
貴方は、心と身体を私に預け、私の発した素数、
そのひとつひとつに思いを馳せてください。
かの素数たち、それぞれの孤独を、
耳朶(じだ)から脳髄(のうずい)に響かせるのです。

(ここから冒頭のような少し低い声で)
おや、お香が効いてきたようですね。
目がとろんとして……視えているようで、何も視えていない。
その瞳の奥、その闇に存在するのは、私だけ。
うふふ、貴方の嗅いでいるそれはね、
より素数の孤独をその身に近しく感じることのできる、そういったお香なのですよ。
私もひとつの素数ですから。だから貴方の中に、私が存在しているのです。
何も、不思議ではございませんね? うふふ……。

ほら。今私は立ち上がって、貴方の背後に回ろうとしています。
でも、貴方は何も感じませんね? 
だって、私は今貴方の中にいるのだから。

(ぎゅっとシスターに抱きしめられる。以降の声は耳のすぐそばでささやかれる)

ほら。今私は貴方を抱きしめています。でも、何も変わりませんね? 
だって私はずっと、貴方を抱きしめていたのですから。

(耳元で、時折左右に移動しながらゆっくりと素数を数える。素数と素数の間にはたっぷり間を置く)
97

89

83

79

73

71

67……

どうですか? 素数の寂しげな響きが、貴方の心に刺さった針を消していくでしょう?
貴方は独り。
でも、独りではない。
孤独ではあるけれど、孤独な存在というのは貴方だけではないのです。

61

59

53

47

43……

貴方は今、天国への階段を降りています。
そう、降りているのです。
不思議なことはないでしょう?
上下が逆さまなくらい、もう、気にならないでしょう?

もし、気になるのなら、お香を嗅ぎなさい。

もっと、もっと……私という存在を近くに感じなさい。

41

37

31

29

23……

ああ、溶けていく。溶けていく……。
貴方をむしばんでいた光が、溶けていく……。

希望という名の、無責任なしるべが、腐敗し崩れ落ちていく……。

19……

貴方は今、疑問を感じていますね。
それは、この状況にではない。
天国は、本当にあるのだろうか、と……。
この階段を覆っている、深い闇の先に、本当に天国あるのだろうか、と……。

17

それでも貴方は今、また階段をひとつ降りた。
それは、希望という無邪気なコンパスが、無責任な針をその先に指し示しているからではない。
私という伴侶(はんりょ)が、貴方の手を引いているから……。

13

これはね、私の好きな数字なんですよ。
貴方にも、好きになってほしいです。
好きになって、くれますよね?

11

もうすぐですよ。もうすぐ、そこの至れます。
悩みも、苦しみも、痛みもない……天国。
ほら。手を引いてあげます。
嬉しいでしょう?
私たちは孤独だけど。今この時は繋がっているのです。

7

ああっ、この数字……
元来からこの数字は孤独でありながら、人々に幸福を与えてきた……

でも、本当に?

大罪の数は幾つ?
なぜこの数字が、人間の過ちを包括(ほうかつ)しているの?
死者の弔いの区切りに、この数が割り当てられているのはどうして?

この数字は完全すぎたのです。

あまりにも光り輝いていたから……闇を鎮める扉に選ばれてしまったのです。

境界線。
7は境界線。
光と闇の板挟みに苛まれ続ける、哀れな数字。

ふふ、貴方も想ってくれているのですね?
嬉しい……嬉しいです。わかってもらえて。

貴方はやはり……天国に至るにふさわしい……。

5

ああ、もう少し。もう少しですよ。
ほら、わかりますか? 闇が、貴方に溶けていく。一緒になろうとして、溶け合っていく……。

とても、綺麗です……。
とても、とても……。

3

ああっ、感じます。貴方の喜びを。興奮を。
もうすぐ至れる。もうすぐ、もうすぐなのです。

あら……ふふ、どうしました。抱きしめている私の手をぎゅって握って。
いいえ。肉体の方ではありませんよ。貴方の身体は動かないのだから。

貴方の意識。魂と呼んで差し支えないその尊い存在が、私の手を強く握ったのです。
私も、一緒に来てほしいのですか?

ふふっ、嬉しい……貴方のこの手からは、最上の愛を感じます。
私を、愛してくれたのですね。

でも……ごめんなさい。私には、役目があるのです。
穢れの地に存在する80億の魂を、この先へとお送りする役目が。

だから……お別れです。ここで、さよならです。

さあ……数えましょう。素数で唯一の偶数にして、最小の数字。
無限に存在する素数の始まりの数字。
さあ、天国への階段……その最後の一歩です。

2

ふ……ふふふっ、どうしました? 何も起きなくて、拍子抜けしましたか?
天国など嘘偽りだと。
そこに辿り着けなどしないと。

貴方の虚偽への憤りは瞬時に沸騰し、そして……
相も変らぬこの愚かで寒々しい現実に冷やされ、深い深い諦観へと凝固しましたね?

うふふ……ご安心ください。
あなたは階段を降りられた。
階段を、降りられた「だけ」なのです。

さあ、今一歩踏み出しなさい。

目の前に広がる天国に。

あなたの望む、極楽の都に。

それは虚を分かつ実(じつ)の数字。

なおかつ孤独だと認められなかったありふれた数字。

そう……最後の数字は素数ではありません。
かつて揺れ動く狭間にいたその数字は、いつしか他の存在との隔たりを解かれたのです。

そして今、貴方も同じように解き放たれるのですよ。

お喜びなさい。
歓喜の声を発しなさい。

喉を枯らして、
興奮に目を見開き、
毛をことごとく逆立たせ、
全身の血液を沸騰させ、
骨を軋(きし)ませ、
肉を躍(おど)らせ、
そして、そして……

いなくなりなさい。

1

(ゆっくりと、ほくそ笑みながら)ワールド・エンド

(テレビの砂嵐のような音が広がっていく)

無に還りなさい。
かつて存在しなかった数字で。
いわば空白の代替、カラの数字によって。

貴方の心、身体、魂……その全てを、うつろに捧げるのです。
それこそ、貴方の望んだセカイ……いわば、天国なのですから。

では……貴方に、祝福を。

さようなら。

0
(プツンという音と共に無音となる)
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
シスターさんによる天国への素数カウントダウン
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
あんこくドーナッツ
ライター情報
趣味でシチュエーションボイス用のフリー台本を投稿している者です。
pixivと並行して全年齢のシチュボ台本をこちらにも投稿して参ります。
R18の台本はpixivに投稿しておりますのでご興味がございましたらそちらもどうぞ。
有償販売利用の条件
基本的に「当サイトの利用規約に準ずる」形です。
作者名の明記をお願いいたします。
利用実績(最大10件)
あんこくドーナッツ の投稿台本(最大10件)