ここは耳かきが違法になったディストピア。
耳かき罪で投獄されたあなたは、監獄で一人の囚人に出会う。
彼女は隠し持った耳かき棒を見せてきて……

※五年前の政府による大規模な耳かき師の粛清『耳狩り』
それに抗った伝説の耳かき師『黒鉄のアイリ』は、最後まで前線で耳かきをし続け
名誉の戦死を遂げたとされている

(鉄格子が閉まる)
(看守の足音が遠ざかっていく)

よお、新入り。
ルームメイトができて嬉しいぜ。
これから仲良くやってこう、な(背中を叩く)。

で、お前は何やったんだ？
理由だよ、ここに来た理由。

……耳かき？
…………はは、そりゃ傑作だ。
じゃあもう二度とシャバの空気は味わえねえわけだ。

こんなとこじゃ耳かき棒なんてあるわけないし
もう一生、お前の好きな耳かきができることはないんだろうな。
はは……ははは……

(耳元で囁く)
……あるぜ、耳かき。
何年もかけて鉄格子を少しずつ削って固めて作った、俺お手製の耳かき棒。
お前にだったら見せてやってもいい。

あ、なんだその目、疑ってんな？
いいぜ、相手になってやる。
おい、ここに横になれ。

ほら、早くしろよ、看守が戻ってこねえうちに。
……やんのか、やんねーのか？

(頭を膝に乗せる)
よしよし、いい子じゃねーか。
じゃあ見せてやるよ、俺様の耳かきさばき。

(耳かき開始)

初めて会ったぜ、俺以外に耳かきで放り込まれたやつ。
大抵はここに来る前に消されるからな……
まだ生きてるところを見ると、あんたもよっぽどの……
……いや、やめとくよ。詮索はマナー違反だったな。

で、耳かきの具合はどうだ？
俺の腕も落ちてなきゃいいんだが……
……最高？そりゃ良かった。

本当は俺の『愛用の耳かき棒』（　愛棒　）がありゃもっとすごかったんだが
まあこんなとこじゃ贅沢は言ってらんねえな。

……ほら、ここをちょっと強めにゴリゴリってするの、たまんねーだろ？
……へへ、そうだろそうだろ？俺の得意技だぜ？
あ、でもこれは一日一回だけな。
あんまやり過ぎると耳に良くねーから。
気に入ったならまた明日やってやるよ。

いやー、それにしても久しぶりの耳かき、やっぱ良いもんだな。
お前が来てくれて助かったぜ。
いくら耳かき棒があっても、一人じゃ耳かきはできねーからな。
あ、後で俺にもやってくれよ？約束だかんな？

(耳かき終了)

大体綺麗になったか？んじゃ最後に……ふー……
梵天はねぇから、耳ふーで我慢してくれ。

ほい、じゃあ反対向け。
(寝返りを打つ)
……よし、こっちもやってくぜ。

(反対側の耳かき開始)

しかしお前、よっぽど耳かきが好きなんだな。
その顔を見てりゃわかる。

俺も耳かきに関しちゃ、ちょっとばかしうるさいぜ。
ここに来る前は何千もの耳をとろけさせてきたもんよ。

五年前の耳狩りの時なんて、襲い掛かってくる軍隊どもをこの耳かきでばったばったとなぎ倒してやったんだぜ。
……ま、結局捕まっちまって今に至るんだがな。
……あ、なんだ？また疑ってんな？
もう耳かきしてやんねーぞ？まったく……

……え、何？じゃ俺、表じゃ死んだことにされてんの？
この通りピンピンしてるっつーの。
いつまで経っても助けが来ねえと思ったらそういうことかよ……
こりゃ望みは薄いかもしんねーな……

……わりぃ、耳かき中に湿っぽい話になっちまったな。
お詫びにこっちもやってやるよ、ほれ、ゴリゴリー。
……よーしよし、気持ち良いなあ？
ははは、お前は良い反応するなあ、まったく……

(耳かき終了)

こっちも十分綺麗になったか？
んじゃ最後に、ふー……
ほら、しまいだ。どーよ、上手かったろ？
…………そこまで褒められると、なんか照れくせーな。

ま、今日は耳かき仲間に巡り合えて良い気分だぜ。
これから末永く仲良くやってこうな。

……そんな気はない？
……脱獄する？
お前何言ってるかわかってんのか？

ここは離島なんだぜ？脱獄ったってどうやって……
なに、隔離棟に会いたい奴がいる……？

……へへ、面白れぇじゃん。
お前の目的は知らねーけど
耳かき好きに悪い奴はいねえ。
地獄の底までついてってやるぜ、親友。

・台本（ゆるボイ！）
投獄先で看守に隠れて俺っ娘耳かき～耳かきが違法になった世界で～
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
あまに