公開日2025年07月04日 18:44
更新日2025年07月04日 18:44
文字数
1191文字(約 3分59秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
本編
魔王の娘が、飯を残した。
それは、この国では一種の非常事態だった。
なにせ魔王アグニス様の血を引くその令嬢――リリカ様は、「気に入らぬ味は厨房ごと燃やす」と豪語する、炎魔族の姫君なのだから。
「このスープ……ぬるいし、味が死んでる。人間の食事って、こんなものなの?」
金の瞳が、俺を射抜く。
口調こそおっとりしているが、背後の絨毯が焦げている時点で、これは脅しだ。
「いえ、その……申し訳ありません。温度管理が甘かったかと」
俺の名は、リク=アマギ。
もともとは王都の〈王立魔術厨房〉に所属していた料理師だが、五日前に“追放”された。
理由? 上官の娘に「料理がまずい」と正直に言ったら、出禁になったんだよ。
理不尽だって? 俺もそう思う。
その翌日には、何の因果か、魔族領の料理コンテストで偶然優勝してしまい――
気づけば、魔王令嬢の専属料理人になっていた。
「でもリリカ様。魔族の身体に合わせてスパイス調整したつもりで――」
「うるさい」
「はい」
ぶっちゃけ、彼女はちょっと――いや、だいぶ怖い。
でも、俺の料理を口にしてくれた、たった一人の“最初の客”でもある。
……だから俺は、もう一度勝負をかけた。
「ではリリカ様。もう一品、お出ししてもよろしいでしょうか」
「はぁ? 何よ。毒でも盛る気?」
「いえ、魔族用に“本気で作った”ポタージュがあります」
俺は懐から、小瓶を取り出す。
中には、銀白に澄んだ“風塩”。魔族の炎胃袋と反応して、瞬時に旨味を膨らませるという、幻の調味料だ。
魔界の市場で、偶然手に入れた。五日分の食費が飛んだけどな。
鍋にひとつまみ、それを落とす。
たちまちスープの香りが変わった。軽いのに重層的。尖っていた風味が、まるで絹のように丸まっていく。
「……変な匂い。けど、嫌いじゃない」
リリカは静かにスプーンを口に運んだ。
一口、二口、三口……無言のまま、皿が空になる。
そして――
「ふつつかものだけど、今日からあんたを“執事”としても雇ってあげるわ。光栄に思いなさい」
「は?」
どうやら俺は、“料理人”から“専属執事”にジョブチェンジしたらしい。
しかもその翌日から、魔王の娘の“婿候補”に選ばれて、なぜか政略結婚の候補者にされていた。
もちろん、そんな話は初耳だった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいリリカ様!? なんで急に“婿”とか! 俺、人間ですよ!?」
「だから面白いって言ってるの。魔族の婿候補なんて、どうせ誰も私に逆らえない腰抜けばかりだもの。あなたみたいに味ではっきり反論してくる方が、ずっと気に入ったわ」
にこり、と笑ったその瞬間、背後の壁がバシュンと爆ぜた。
魔力の余波だ。さっきの笑顔はたぶん“本物”だったのに、全然安心できない。
「まあ、気に入らなくなったら処刑するけど。うふふ」
「帰りたい」
これはまだ、魔界が俺を試しているプロローグにすぎない。
……帰れるのかは、ちょっと怪しいけどな。
それは、この国では一種の非常事態だった。
なにせ魔王アグニス様の血を引くその令嬢――リリカ様は、「気に入らぬ味は厨房ごと燃やす」と豪語する、炎魔族の姫君なのだから。
「このスープ……ぬるいし、味が死んでる。人間の食事って、こんなものなの?」
金の瞳が、俺を射抜く。
口調こそおっとりしているが、背後の絨毯が焦げている時点で、これは脅しだ。
「いえ、その……申し訳ありません。温度管理が甘かったかと」
俺の名は、リク=アマギ。
もともとは王都の〈王立魔術厨房〉に所属していた料理師だが、五日前に“追放”された。
理由? 上官の娘に「料理がまずい」と正直に言ったら、出禁になったんだよ。
理不尽だって? 俺もそう思う。
その翌日には、何の因果か、魔族領の料理コンテストで偶然優勝してしまい――
気づけば、魔王令嬢の専属料理人になっていた。
「でもリリカ様。魔族の身体に合わせてスパイス調整したつもりで――」
「うるさい」
「はい」
ぶっちゃけ、彼女はちょっと――いや、だいぶ怖い。
でも、俺の料理を口にしてくれた、たった一人の“最初の客”でもある。
……だから俺は、もう一度勝負をかけた。
「ではリリカ様。もう一品、お出ししてもよろしいでしょうか」
「はぁ? 何よ。毒でも盛る気?」
「いえ、魔族用に“本気で作った”ポタージュがあります」
俺は懐から、小瓶を取り出す。
中には、銀白に澄んだ“風塩”。魔族の炎胃袋と反応して、瞬時に旨味を膨らませるという、幻の調味料だ。
魔界の市場で、偶然手に入れた。五日分の食費が飛んだけどな。
鍋にひとつまみ、それを落とす。
たちまちスープの香りが変わった。軽いのに重層的。尖っていた風味が、まるで絹のように丸まっていく。
「……変な匂い。けど、嫌いじゃない」
リリカは静かにスプーンを口に運んだ。
一口、二口、三口……無言のまま、皿が空になる。
そして――
「ふつつかものだけど、今日からあんたを“執事”としても雇ってあげるわ。光栄に思いなさい」
「は?」
どうやら俺は、“料理人”から“専属執事”にジョブチェンジしたらしい。
しかもその翌日から、魔王の娘の“婿候補”に選ばれて、なぜか政略結婚の候補者にされていた。
もちろん、そんな話は初耳だった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいリリカ様!? なんで急に“婿”とか! 俺、人間ですよ!?」
「だから面白いって言ってるの。魔族の婿候補なんて、どうせ誰も私に逆らえない腰抜けばかりだもの。あなたみたいに味ではっきり反論してくる方が、ずっと気に入ったわ」
にこり、と笑ったその瞬間、背後の壁がバシュンと爆ぜた。
魔力の余波だ。さっきの笑顔はたぶん“本物”だったのに、全然安心できない。
「まあ、気に入らなくなったら処刑するけど。うふふ」
「帰りたい」
これはまだ、魔界が俺を試しているプロローグにすぎない。
……帰れるのかは、ちょっと怪しいけどな。
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