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「泣ける物語」①
公開日2025年07月11日 21:00 更新日2025年07月11日 21:00
文字数
554文字(約 1分51秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
指定なし
本編
 公園のすべり台の下で、彼女はいつも砂をいじっていた。
 無言で、黙々と、丸く、山のように。それが彼女の「秘密基地」だった。
 今日はそこに、ひとりで立っている。

 風が強い。肌寒い春の始まり。
 ジャケットのポケットに手を突っ込んで、空を見上げる。
 あの子が最後に来た日も、たしか、こんな曇り空だった。

 木のベンチに腰を下ろすと、ポケットの中で何かがカサッと鳴った。
 折りたたまれた、あの子の描いた絵だった。
 虹。すべり台。真ん中に、小さな自分と、大きく笑ったパパとママ。

 破れかけて、端が少し黒ずんでいた。でも、色はまだ残っている。

 ふいに声が聞こえた気がして、顔を上げた。
 赤い帽子の女の子が、すべり台の上から手を振っている。
 違う子だとわかっていても、目を逸らせなかった。

「ねえ、見てて!」
 その声に、ただ頷いた。
 滑り降りたその子が、笑ってこっちを見て、走っていった。

 ふう、と息を吐く。
 遠ざかる足音。揺れる木の影。どこまでも続くような午後の気配。

 帰ろう、と思った。
 ポケットの絵を、そっと取り出して、最後にもう一度だけ見た。
 あの子の笑顔が、そこにいた。

「また来るよ」
 誰にも聞こえない声でそう言って、歩き出した。

 風の音にまぎれて、かすかに笑い声がした気がした。
 振り返っても、もう誰もいなかった。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
「泣ける物語」①
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
エンタメビジネス編集者ツッツー
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