学生時代からの恋人と結婚してしばらく経ったある日、主夫となったあなたがひとりでいる時に学生時代の後輩が家を訪ねてきた。
未だあなたのことを諦めていない様子の彼女に警戒するも手遅れで……

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　（SE:インターフォン）

お久しぶりです、せーんぱいっ。
会いたくなったので、家まで来ちゃいました。

まさか、忘れたとは言わせませんよ？
ずっと先輩のこと大好きってしてきたんですから。

にへへ、そーです。
先輩を散々振り回してきたヤツでーす。
覚えてくれててひと安心ですね。

ちなみに今って、ひとり、ですか？

……ふーん。
話も長くなると思うので、よければ上がらせてください。
もちろん、手土産も用意してますので！

ありがとうございます。

うっ、さっそく玄関にツーショット飾ってある……きつ……

ん、いえいえ！
流石、綺麗なお家だなーって！

すみません、わざわざお茶なんて。
先輩にちゃんと気を遣われたの初めてかも。

あ、どうぞどうぞ、召し上がってください。

なんて、先輩は優しい人ですよ。
わかってます。
あのときから先輩はあの人と付き合ってましたから。

知ってて絡んでくる私はさぞ面倒だったでしょうねー。
って、今も思ってたり？

奥さんからすれば、この時点で自分がいない間に他の女を家に上げてるっていう完全浮気シチュエーションが完成してますもんね。
どうせ疑われるなら、しちゃいます？

へー、愛してるんですか。
先輩、相変わらずですね。

そういうところ、なんだか嬉しいし、やっぱり悲しいです。

まあ、そんなことはどうでもいいんですけど。

というか先輩、噂には聞いてましたけど、今は主夫やってるんですね。
二人きりになりやすくて助かりましたよ。

奥さんが凄く稼ぐから？
それに、先輩の方が家事得意だから？

だとしても、なんか意外ですね。
先輩の料理とか、ちょっと想像できないですもん。
でも、食べてみたいかも。

ですが、先輩。
先輩だって働いたってよかったんじゃないですか？
前は夢がある、みたいなこと言ってましたし。
奥さんのために、自分を諦めたってことですか？

いえ、今が幸せとか、そういうのは関係ないです。
先輩が、あの人のためにそこまで捧げたんだなって……。

奥さんが羨ましいです。
帰ったら、先輩が待ってくれてるんですもんね。
どんな疲れも先輩の「おかえりなさい」ひとつで吹っ飛んじゃいそう。

でも、先輩は本当にそれでいいんですか？
私にはどうしても、先輩が奥さんに束縛されてるようにしか思えないんです。

だって、先輩が家にいるのも結局は奥さんのわがままじゃないですか。

というか、昔から先輩はそうでした。
彼女が嫌がるからとか、彼女のためだからとか、いつも彼女ばっかり。
先輩に自分ってあるんですか？

……先輩、相手に平伏して全て捧げることが恋愛だとでも思ってるんですか？
これはむしろ奥さんが、先輩が譲ってばかりなのを気付いてなかったり、もしかすると当たり前だとか思ってなきゃそうはならないはずですから、先輩が悪いってわけではないんですけどね。

ほんと、かわいそう。

それで先輩。
もしかして、奥さんが夜遅くなることって、よくあるんですか？

それって、忙しくて？

飲み会とかも？

ふーん。

じゃあ、先輩が家のことを頑張っている間、その裏で実は奥さん、夜遅くまで誰かと会っていたり、なんてこともあるかもしれないんですね。

いえ、何の証拠もないですけど、疑うことも知らない先輩のためには言ってあげないとかわいそうじゃないですか。
最低な人は先輩みたいな人の優しさとか、信用を平気で利用するんです。
いわゆる都合のいい存在ってやつですね。

先輩がそれでも構わない一途すぎて自分なんてどうでもよくなっちゃったお人好しさんならともかく、普通ならそんな扱いでいいわけないですよね？
ただの裏切りですもん。

先輩が遊ぶことなんて許されないのに。

知ってました？
ここに盗聴器が仕掛けてあるって。

奥さんは何も自分のことを明かさないくせに、先輩のことだけはしっかりと疑って。
これが、先輩を愛する人の態度なんだ。
許せない。

でも、これで心置きなく先輩のことが奪えます。

今、先輩は、疑いも、自由も、自我さえも許されない檻の中。
だから、知ることができたはずの知らないことが沢山ある。
手に入れられたはずの手に入れられない幸せが沢山ある。

注がれるべきなのに、少しも注がれない愛だって、沢山あるんです。

でも先輩がここから抜け出せば、真実も幸せも愛も、何もかもが思いのまま。
私がこんな狭い檻の中から連れ出してあげなくちゃ。

あの人とのこれまでなんて、すぐに忘れさせてあげます。
だって、なんにもいらないから。
そんなの。

んはははっ。

ねーえーっ、せーんぱい？
逃げないんですか？
私、こんなに奥さんの悪口を言って先輩のこと奪おうとしてるのに、少しも拒絶も抵抗もしようとしないってことは、私の方がいいってこと、ですよね？

たとえ、それが私が持ってきた手土産のせい、だったとしても。

もう力入らなくて、どうしようもないのに必死でかわいい。

先輩は、人の悪意に鈍感すぎるんですよ。
だから、いろんな人に好き勝手されてしまう。

って考えたら、奥さんの気持ち、ちょっとはわかるかも。
先輩に世の中は危険すぎます。

なんて、奥さんに寄り添う気は全くありませんが。
今から敵に回すわけですし。

　（以下、盗聴器に向かって）

ねえ先輩の奥さん。
盗聴器越しに会話、聞いてましたよね？
急がないと、あなたの大事な大事な旦那さんが、他の女に食べられちゃいますよー。

もう抵抗できないみたいですし、急いでも間に合わないとは思いますけどね。
んはははっ。
それに、先輩にお似合いなのは、あなたじゃなくて私です。
私の方が、断然幸せにしてあげられるんですから、先輩のためにももう諦めてください。

では、私は先輩に愛を教えなくてはいけないので。
あなたも本当の愛が何なのか、あなたの何が間違っていたのか、よーく目に焼き付けに来てくださいね！

　（ここまで）

ははっ、んはははっ！
言っちゃった！

楽しみだなぁ。
あの人が大切なものを奪われて絶望するところ。
どんな顔で先輩のことを見るんだろう……

それじゃ先輩。
もう私、待ちきれなくなっちゃいました。

どうせ力入らないんですし、いっそ全部の力抜いちゃいましょう？
それに、罪悪感も邪魔です。
考えるのもやめましょう。

あとは全部、私に任せてくれればいいんです。
ほんと、最初からこうしてくれればよかったのに。
時間がかかりすぎてしまいました。

でも、いけないことをするのは、どうしてこんなに気持ちいいんでしょうね。
やっと、あの人に勝てるから……？

先輩。
大好きです。

・台本（ゆるボイ！）
妻の不在中、今更になって家に来た学生時代の後輩に何もかもを奪われる
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
夜木嵩