家にも学校にも居場所が無く、何をされるか分からない恐怖から、感情を抑えていた妹。
ある日、妹は兄から、自分の感情に素直になるようにと言われる。
それを後押しする為に、兄は妹に催眠術を施すのだが……

(物静かで、抑揚の少ない淡々とした喋り方)
(催眠後と真逆の性格にする為＋少し病んでいる)


(やつれている妹)
ただいま……

……あっ……お兄ちゃん。

えっ？

はは……何でもないから……。

何でもない訳ないとか言われても……。

ホントに何も……はぁ……。

分かった……。

全部……話すよ。

じゃあ、とりあえず、お兄ちゃんの部屋に入れて。

(足音。そしてドアの開閉音)

(座る)
んしょ……ふぅ……。

(無言。思案する感じで)
………………。

ねぇ、どうして、お兄ちゃんは、昔からわたしを気に掛けてくれるの？

わたし……何の取り柄も無くて、友達も居ないし……。

成績も良くなくて、パパやママにも見放されてる……。

学校にも……家にも……わたしの居場所なんて無い。

お兄ちゃんも、無理してわたしの相手しなくて良いよ……。

(少し空ける)

(驚いたように)
えっ……？

大切な妹だ……って。

ホント……に？

う……うう……。

(抑えていた感情が爆発する)
うわーん！！

(お兄ちゃんに抱きついて泣く)

おにﾞいぢゃん……わだじ……ひっく……わだじ……。

(泣きながら)
学校ではイジメられるし、パパもママも話を聞いてくれないし、イジメられてるって言ったら、悪いのはお前だって話も聞かずに決められて……ひっく……。

お兄ぢゃああああん！

ひっく……。

う、うん……落ち着く……。

(深呼吸)

少し……落ち着いた。

ありがと。

今まで助けてやれなくてごめんって……。

いいよ、そんなの。

お兄ちゃんにも事情があるだろうし。

えっ、わたしの事を何度もパパやママに言ってくれてたの？

……ホントに嫌われてるんだね……わたし。

えっ、さっきみたいな感じって、何が？

もっと自分の感情に素直に……。

そんな事、出来ないよ……。

わたしが何か言ったところで、パパとママに、頭がおかしくなったって思われちゃうし、学校でそんな事したら、調子に乗ってるとか言われて、余計にイジメられるよ……。

本音をぶつけるなんて、私には無理だって……。

パパとママは、わたしの事になると、お兄ちゃんの話すら聞かないんだよ？

わたしの話なんて尚更聞かないよ……。

お兄ちゃんなら、こうやって話を聞いてくれて、受け止めてくれるけど……。

(少しあける)

もう……いいの……。

お兄ちゃんが気に掛けてくれてるって分かっただけで。

お兄ちゃんが居てくれればそれだけで……いい。

(少し空ける)

えっ……？

おまじない？

それで、本音をぶつけられるようになるの？

(思案するように)
んー……。

お兄ちゃんが言うなら……少しだけ。

えっと……。

スマホの画面の黒い点を見つめればいいの？

うーん……小さくて見づらい……。

そのままじっと……見つめ……る。

まぶたが……落ちる……。

(少し空ける)

(妹の深層心理の中)
(本音の自分)(ＦＸ : エコーなどをかけて心の声感を出す)
ねぇ、わたし。

(本音の自分)(ＦＸ)
わたしは本当にこのままで良いの？

(本音の自分)(ＦＸ)
パパとママには見放されて、学校ではイジメられる、今のままで。

(本音の自分)(ＦＸ)
変わりたいとは思わない？

(本音の自分)(ＦＸ)
今まで自分を蔑んで、虐げてきた連中に思い知らせてやりたいって。

(本音の自分)(ＦＸ)
自分の気持ちに素直になりなよ。

(本音の自分)(ＦＸ)
せっかく、お兄ちゃんが、わたしの為にしてくれたんだよ？

(本音の自分)(ＦＸ)
自信がないの？

(本音の自分)(ＦＸ)
じゃあ、わたしが少し、背中を押してあげるね。

(本音の自分)(ＦＸ)
さあ、お兄ちゃんが待ってるよ。

(本音の自分)(ＦＸ)
……目覚めて。

(現実に戻ってくる。本来の自分)

んっ……うーん……。

あっ、お兄ちゃん。

わたし……寝てた？

えっ？

何ともないかって？

うん……特に変わった所はないけど。

催眠暗示で素直になれるようにしようとしてくれたの？

(少し空ける)

ありがと……わたしの為に。

その気持ちだけで十分だよ。

ちょっと、頑張ってみるよ。

せっかく、お兄ちゃんが、わたしの為におまじないをしてくれたんだもん。

(場面転換。翌日。少しあけて)

(本音の妹になっている。元の妹と違いハキハキと喋る)
あっ、お帰り、お兄ちゃん。

聞いて聞いて！

お兄ちゃんが素直になれる、おまじないをしてくれたお陰で、パパとママが分かってくれたみたいなの！

本音をしっかり伝えるって大切なんだね。

えっ？

変なニオイがする？

(辺りの匂いを嗅ぐ)
すんすん。

特にそんな匂いはしないけど。

お兄ちゃん？

どうしたの？

(返り血が付いている事に気付く)
わたしの顔に何かついて……あっ……。

全部拭き取れてなかった。

え～？

何をしたか？

お兄ちゃんが素直になれるおまじないをしてくれたから……わたし、素直になろうと思って……。

まずは、今まで、わたしを虐(しいた)げてきたパパとママとね「お話」したの。

この血は、パパとママがお話を聞いてくれた証拠。

あっははははははははは！！

ありがとう！お兄ちゃん！

お兄ちゃんのお陰だよ！

素直になれるって、こんなに気分が良いんだ！

パパとママはどこにいるか？

さっき、お話したって言ったでしょ？

私が…………殺したの。

(ここから、狂気に満ちていく)
ずっと殺してやりたいと思ってたの。

わたしは自分の感情に素直に従っただけ。

最初は話そうとしたけど、全然話を聞いてくれないんだもん。

挙げ句、お兄ちゃんの事まで悪く言った。

わたしを大切に想ってくれてる、お兄ちゃんの事を悪く言うパパとママは……ぶっ殺してあげたの！

わたしには、お兄ちゃんが居てくれればいい。

お兄ちゃんが、わたしを受け止めてくれる。

気に掛けてくれる。

はは。

それだけで生きていけるの！

(声のトーンを落として)
わたしは邪魔になる障害を排除しただけ。

これからは、お兄ちゃんと２人で楽しく過ごすの。

待っててね。

お兄ちゃんと過ごす障害になる存在を、全部排除するまで。

次は……わたしをイジメた奴らだ……。

必ず、その身を以(もっ)て償ってもらうから。

あっはははは！

あはははははははははは！！

・台本（ゆるボイ！）
催眠術で豹変した妹
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
如月英梨