帰宅途中に不思議な場所に迷い込んでしまった貴方。帰り道を探して歩いていると、着物姿の小さな女の子が現れて……

久しいな狐よ。少し見ないうちに随分と化けるのか上手くなったのう。

……人間に化けているわけではないのか？ふむ……少しかがむのじゃ。

【頬を叩く】

変化なしか。正真正銘本物の人間のようじゃな。……ああすまぬ。本物かどうか確認するのにちょーっと頬を叩いたつもりじゃったが、力が入りすぎてしまった。

して、人間よ。一体どうやってここに来たのじゃ？ここはお主のような者が来るような所ではないぞ？

……気づいたらここにいた、とな。ふむ、単なる迷子じゃったか。良い良い、儂は寛大じゃからな。迷子相手に腹を立てたりせぬ。そういう事なら、儂が直々に外まで送り届けてやろう。

む……君は誰だ、じゃと？お主、こんなに近くにいて儂が何者か分からぬというのか？鈍い奴じゃな……

こほん、聞いて驚け！儂はこの土地を統べる神なのじゃ！ほれ、お主もこの地に住まう者なら知っておるじゃろ？この辺りにある、豪華な儂の社を！

……なに、知らない……じゃと？まっまあ、儂の社は小ぶりじゃからな。しかしあそこの美しい装飾なら知っておるはず……

なっ……知らぬ、のか……そうか……その様子では、本当のことなんじゃな……

謝るでない。お主は何も悪くないのじゃ。社をほっぽって、ずっと神域にこもっていた儂が悪いのじゃ……

……なあ、人間よ。少しの間、儂の話し相手になってくれぬか？儂が引きこもっていた間にこの土地がどう変わったのか知りたいのじゃ。

タダでとは言わぬ。先ほどの詫びもかねて、儂の秘蔵の酒でもてなそう。もちろんその後はちゃんと外まで送り届けるぞ。

……いいのか？……！礼を言うぞ人間！そうとなればまず酒の準備じゃ！






この酒は1000年ほど前に社に供えられていた酒でな、非常に美味かったから大事に大事にとっておいたのじゃ。

【酒を注ぐ】

ほれ、ぐいっと行くが良い。保存は完璧じゃから、腹を壊したりする心配はないぞ？ほれほれ。

【酒を飲む】

……どうじゃ？美味いか？ふふっ、そうじゃろそうじゃろ！

さあさあ、酒も入ったのじゃから、早く今の外の様子を聞かせるのじゃ！





ふむ、この辺り一帯はその「ビル」とか言う建物で囲われているんじゃな。道理で儂の社を知らないわけじゃ。そんな天にまで届きそうな程大きな建物が周りにあったのでは、いくら美しくとも社が人目につくことは滅多にないじゃろ。

それと、近頃狐や狸が全く姿を見せないことにも合点がいったのじゃ。なんせ、周りが石で固められているのじゃ。奴らの住処もこの辺りにはなくなってしまったのじゃろう。……少し、寂しいのう。




む、なんじゃその「ビール」とやらは。先ほどの「ビル」の仲間か？違う？なんと、酒のことじゃったか。

ふむ、麦で作った、苦みのある酒……しゅわしゅわする？どういうことじゃ？舌の上で酒がはじける感じ……そっそれは飲んで平気なものなのか！？




なるほど。「ポテチ」なる菓子を用意し、酒を片手に「ゲーム」というものをするのがお主の楽しみなのじゃな。ジャガイモを菓子にするとは、今の人間たちは面白いことを考えるのう。それに、確かに酒に合いそうじゃ。

ところで、その「ゲーム」というのはなんじゃ？……ふむ、現代の遊びじゃったか。もうめんこやコマでは遊ばぬのか？そうか……少し寂しいが、その「ゲーム」というものも気になるのじゃ。

よし、人間よ。今度はお主が持っておる「ゲーム」を持ってここへ来るのじゃ！そして儂に教えながら一緒にやるのじゃ！

む、なんじゃその顔は。またここに来てもいいのか、とな？

……確かに、何度も人間を神域に招いていては、神としての威厳が……いや、神と言ってもここまで落ちぶれたのじゃ。今更威厳も何もないじゃろう。そんなものより儂は、自身の興味を優先したいのじゃ。

……また来てくれるのか？……うむ、礼を言うぞ人間。

さて、今日はここまでにするかの。もう虫の音色も聞こえぬほど夜がふけてしまった。約束通り、お主を外まで送り届けてやろう。




今度ここに来るにはどうすればいいか、とな？そうじゃな……儂の社の前で待っておると良い。そうしたら儂が直々に迎えに行ってやろう。うむ、約束じゃ。

それじゃあ、おやすみなのじゃ。夜道には気を付けるのじゃぞ。

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土地神と晩酌
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鳩羽紫乃